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天に二日無し  作者: OWL
序章 神亀雖寿 ~前編~
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第16話 オスニングの戦い

 夜、城の大広間に多くの騎士、見習いの従士達が集まった。

暖炉の傍には薪が積み上げられ、近くには将軍や来客のエンマや主要な騎士達が陣取っている。

この日は酒も提供され、城内で飼われている牛と豚が処分されてその肉も贅沢に振舞われた。

誰かが竪琴を奏で始め、調子のいい者が歌を歌い、酒が回って踊り始め、少しばかり騒がしくなったが、頃合いを見て将軍がそれを静めてアンクスに合戦談義を促した。


「あれは今から十三年前の事でした。パヴェータ族の女性たちが蛮族に連れ去られ北方軍はその奪回に動きましたが、蛮族の奇襲で軍団長他主要な指揮官が打ち取られ立往生してしまいました」


オルスとアンクスはその軍団に所属していた。

軍団長が戦死しても組織的な集団戦闘では負け知らずだったが、ゲリラ戦に相次ぐ奇襲で士気は減じ、脱走兵も増え大隊長達は作戦続行不可能と判断していた。

誘拐された女性達も半年が経ち、生存は絶望視されている。

もう戦う意味はないと副軍団長も判断した。


総司令部に撤退許可を求めたが、彼らが後退すると別方面へ進出している主力の十個軍団が敵地に孤立して全滅することになる。


死守命令が下された。


「大隊長達は命令書を握りつぶし、近隣の軍団に声をかけ集結し撤退しようとしていましたが、既に連絡線は絶たれ、近隣の軍団は孤立し全滅を待つばかり。我々が逃げ腰になっているのを察知した一部の現地民は自力での救出を模索しサーム族の戦士達が協力して救出に向かいましたが彼らも蛮族によって敗北を喫しました」


アンクスも地元のパヴェータ族にはよくしてもらっていたし、出来れば助けてやりたかったが自分達も壊滅寸前だった。大隊長達は恐慌状態になり勝手に離脱を開始してしまう。


「恥ずかしながら私も死守命令を無視して逃げるつもりでした。ですが、そこのオルスは生き残りのサーム族にパヴェータ族の女性達が攫われた場所を聞き、友人と共に助けに向かってしまいました」

「そして見事救出して戻ってきたわけだ」


将軍が相槌を打つ。

若い騎士、貴族達がそれを聞いてなんて英雄的な行いだと感動しオルスに握手を求め、息子のレナートはやっぱりうちの父さんは凄いと満面の笑みを浮かべた。


「アンクスが脱出路を確保しておいてくれなければ俺もヴォーリャも死んでましたよ。誰にも知られずにね」


アンクス殿も素晴らしい、と若い騎士達は感動したが彼は首を横に振った。


「現場を確保していたのは私の力ではありません。友軍が散り散りになって逃げ惑う中、岩山に挟まれた狭い峠道に陣取って敵を食い止めていたのは一人の帝国騎士でした。彼はこの百年で二人目の帝国最高位の勲章受勲者なので知っている者もいるでしょう。私は彼の後ろで恐怖に怯え震えていただけです」

「お前ほどの騎士がか」


蛮族戦線に参戦したこともあり、アンクスとも旧知の中の将軍が驚く。


「あの時、我々の戦力はほんの十数名でした。実際に戦ったのはあの帝国騎士エドヴァルドとその従者だけ」


アンクス達はこの峠を迂回してくるのを防ぐために森の中に罠をしかけたりせいぜい伏兵がいるように見せかけていた。


「何千、何万という蛮族が迫る中、彼は狼狽えもせず連中に一騎打ちを要求していました。・・・ああ若い兵士は実際に見た者はいないだろうが蛮族というのは古代に神々から離反した神獣とその眷属たる獣人の事だ。中にはそこらの家よりもでかい巨大な獣もいるし、族長格ともなると神獣の影響を受けているのか魔導騎士の鎧をも簡単に切り裂いてくる。連中に一人で相対していると熊や虎に素手で立ち向かうに等しい恐怖を覚える」


人虎族の咆哮は魔導騎士の魔力の結界を簡単に打ち消す。

人狼の爪は銃弾を弾く魔導装甲をも貫いた。


「大半はろくな知性もない獣に過ぎないが、中には人語を話す者もいる。彼は挑発し、巧妙に坂道へ誘導し騎馬突撃の力も利用して何匹も打ち取った。疲労で馬も倒れたが彼は戦い続け、蛮族の頭目にもついに挑戦者がいなくなった。そして山陰からここ数十年北方圏を恐怖に陥れていた氷の巨人が現れたが、彼は槍を手に持つと雷神の力を借りた一撃でその胸を貫通させて倒した」


その巨人は氷の岩を繋ぎ合わせたような姿をしていた。帝国軍が大砲の直撃を浴びせても倒せなかった個体だった。幸い一体しか発見されておらず、それを最後に目撃されていない。


「その話は誇張では無かったのか」

「ええ、将軍。私がこの目で見た事です。エドヴァルドもこの戦いで何度か打ち倒されましたが、その度に立ち上がり、蛮族を倒し続けました。まさに不死身としかいいようがありません」

「俺が戻った時には今にも死にそうだったが、そこにサーム族の戦士団の生き残りが駆けつけてくれた」


蛮族とサーム族は乱戦になり多くの犠牲者が出た。

オルスは乱戦の中を駆け抜けてヴォーリャをパヴェータ族に送り届けた。


「オルスは帝国軍では脱走兵とされて処分されましたが、あれは正規軍を指揮していたオレムイスト家の将軍が複数の軍団が壊滅した責任をオルスのような脱走兵が出て戦線が崩壊した為、と報告したせいです」


オルスは帝国軍の協力者の救援に成功した。

しかし命令を無視して持ち場を離れたのは事実であり、有力な皇家のオレムイスト家に逆らう事なく帝国軍から除隊した。不名誉除隊で退職金も無かった。


若い騎士達はオレムイスト家に対して憤り、いつか目にものを見せてくれるとオルスに約束した。

将軍は騎士達の勇ましさを快く思ったが、彼は抑えに回らなければならない立場だ。


「我々は国土が広く戦力は分散させざるを得ない。軍事においてはラキシタ家亡き今、オレムイスト家の一強状態であることを忘れるな。そして我が国では四大貴族がそれぞれ反目しあっているからこそ我々がこの城に陣取っているのだ。今は次の皇帝選挙で若君が勝利できるよう諸侯が和を結び協力することがお家への忠義の第一の道と知れ」


帝国五百州の中、七十五州を支配しているフォーンコルヌ皇国は最も広大だ。

しかし内実は山岳地帯や砂漠地帯、荒野ばかりで砲兵の運用は難しく、街道の整備もままならない。

世界全体としては砲兵が戦場を支配する時代になりつつあるというのに彼らの土地ではいまだ旧式兵器を運用している。


「法によって世界に秩序を与え、支配するのが我が国の方針である。オレムイストに咎があれば証明し、議会で裁くのみ。軽挙妄動し選帝選挙に臨む若君にご迷惑をおかけしてはならぬ」


フォーンコルヌ皇家のモットーは「法に携わる者、高潔たれ」

広大な土地を統治する為、古代において既に法治国家として確立しそのモットーは引き継がれてきた。軍事力は守護神エミスによって与えられた法を守るためにある。

騎士達は叙勲された時に誓った法の擁護者としての立場を思い出し、将軍に詫びた。



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2022/2/1
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