第38話 ドムンとレナート
民会で遠征隊のさらなる増員が決まるとレナートはサリバンからスカウトされて加わる事になった。以前から気に入られていた事もあるが、遠征隊が外部の人間と自由に接触を許される事になったのである程度はったりが利く血筋であり、野外活動にも慣れていて、魔術も使えるレナートの参加が求められた。
オルスの頼みでヴォーリャも同行する。
「レン、ちょっといいか?」
参加が決まると長い時間会えなくなるので親しい人々がちょくちょく顔を見に来た。
ドムンもそのひとり。
「はーい」
「・・・ちゃんと服着てるよな?」
前に一度刺青を入れた後に裸姿を見てしまったのでドムンは部屋・・・というか入口にカーテンをかけただけの穴蔵の前で立ち止まってから訊ねる。
「着てるよ」
「んじゃ、入るぞって・・・着てねーじゃねーか!」
またかよ、とドムンはツッコミをいれる。
「いや、ちゃんと着てるって。よく見てよ」
透き通った白い肌の上にぴったりと張り付いたような半透明の白い服を着ていたのでドムンは勘違いしてしまった。
「あ、ああ確かに・・・。でもなんだよ、それ」
見たことも無い材質の服だ。というか下着のようなものだった。
「蛇の神獣の抜け殻だってさ。宝物庫にあったもののひとつ」
「へー、触ってみてもいい?」
「どうぞ」
レナートは無防備に体を差し出した。
体にぴったりと張り付いた下着も同然の姿なのでドムンはうっ、とたじろいでしまう。
「なに?」
「いや、悪い」
ドムンは正面を割けて、腰のあたりをつまんでみた。
ぷにぷにとした弾力があり、かなり伸縮性が高い。
「どうしたんだ、これ」
「お父さんが今後は下着代わりにつけてろって。また服破けちゃうから」
レナートは少年の時と少女の時と、氷神を降ろした時の三つの容姿を持つので、姿が変わる度に服が破けてしまう。そろそろお年頃になり、オルスも心配になったので宝物庫で発見したものを族長権限で優先して回した。
「これなら破けないのか?」
「うん。変わって見せようか?好きでしょ?」
「バカ、やめろって」
中身がレナートでも大分大人っぽくなるので、ドムンも反応に困ってしまう。
「破けなくても伸びたら薄くなってほとんど透けて見えちまうぞ」
「なーに?意識しちゃうの?何度も一緒にお風呂入った仲なのに」
「うるさい。からかうな」
周りの視線もあり自分の魅力を理解してきたレナートはいひひと笑う。
「俺も一緒に行けたら良かったんだけどなあ」
ヴォーリャもいるとはいえ、大人の男達がいる仲にレナートが混じるのは心配だった。どこで何が起きるか分からない。バントシェンナ領での一夜以来、度々レナートの夢を見てしまう。知らない所で誰かに襲われたらどうしようと気が気ではない。
「ダメダメ、ドムンやスリクは若手の戦士としてここの守りに必要なんだから」
特にスリクは神鷹の真価をもっと発揮できるよう長老達から求められている。本来は鷹に自分の意識を移して視界さえ共有できるようになるらしい。もっと使いこなせていれば飛行船とも直接連絡できたかもしれないと悔やんでいた。
「第一、サリバンさんの遠征隊の役割は探索だしね。ドムン達は子供達を守ってよ」
「まあ、それはわかるが」
「出来ればドムンにこの服はあげたいんだけどね。魔術への耐性もかなり強力みたいだし」
神獣の抜け殻だけあって、人間が使う程度の魔術はかなり弾いてくれる。
魔導騎士の装甲と違って誰が着用しても一定の効果があった。
「男がそんなもん着られるか」
かなりセクシーな見た目になってしまう。その姿を一瞬想像してしまい、ドムンは嫌がった。
「ぶー、せっかく心配したのに」
「大丈夫だよ。ヴァイスラさんが魔術を弾いたり一時的に見えるようになる薬を作ってくれたから」
ケイナンが開発したマナを吸い取る特殊な紙に薬草師としてのヴァイスラが手を加えて粉塵にすることに成功した。一時しのぎにしかならないが、戦士としては一瞬の隙があれば魔術師も屠る事も出来る。
「・・・ねえドムン兄ちゃん」
レナートはちょっと甘えた声を出した。
「な、なんだよ」
ずい、と近寄ってくるレナートにドムンは一歩下がる。
「ボク、もういくら祈っても男の子に戻れなくなっちゃったみたい」
「そ、そうか」
レナートはカイラス山に戻ってから早速地下神殿に行き、いつものようにダナランシュヴァラ神に祈ってみたが声も聞こえないし、姿が変わる事もなかった。
「もし、ボクがこのまま女の子として生きていく事になったらさ」
頬を赤らめたレナートが意を決してさらに詰め寄った。
それまで白い半透明の服だったので肌の色は目立たなかったが、レナートの肌が紅潮しちょっとピンク色になってきてかなり透けて来てしまい、ドムンは慌てて目を逸らした。
「な、なんだ?」
顔を背けて、向き合ってくれないドムンを見てレナートは肩を落とした。
「・・・なんでもない。ボクがいない間ファノや子供達の事お願いね」
「ああ、勿論だ。任せとけ。お前が帰ってくる場所は俺が守る」
「うん、任せた」
「お前も外で皆が逃げ込める安全な場所を見つけてきてくれよな」
「頑張るね」
外の情報を知らされたカイラス族の人々はバントシェンナ王のやり口もマルーン公のやり口にも辟易していた。どちらも弱者を踏みにじるだけ。
時代がそうさせているのは理解しても踏みにじられる側にはなりたくない。
先祖の役目は本来このカイラス山に眠るものを守る事だとしても、長老達よりも前の世代でとっくに放棄されていたし、オルスもより安全な場所があるのならここに拘り続けるつもりもなかった。




