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天に二日無し  作者: OWL
第一章 地に二王無し ~前編~
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第30話 損害

「死者二名、重傷三名か」


損害無しというわけにはいかなかった。

オルスの命令を聞かずに突撃してしまった若者が二人死亡した。

一人は尻尾に薙ぎ払われ、一人は魔獣の毛が逆立ち針の様になった時に全身が串刺しになった。もう一人も危うく刺されそうになったが、寸前でシュロスが割って入って救われた。


「困りますよ、シュロス殿」


正規の神官として知識が豊富な彼が死んでしまうと地下神殿の調査に影響する。


「済みません。若者が目の前で死ぬのは耐えられず」


オルスは黙って頷いた。

手当を終えたマリアが検分中のオルスに合流して謝罪した。


「申し訳ありません。私が一人で倒すつもりだったのですが」


投げ飛ばされて戦力外にされてしまった。


「怪我は?」

「大した事ありません。それにしても族長はさすがですね。本当に常人ですか?」

「普通に一般人だよ」

「片手も無いのに・・・」

「利き腕じゃないんだ。大した事ねえよ」


オルスは失くした左手の代わりに先を鋭くした盾を義手のようにつけていた。

右手には太い短剣だけで身軽である。


「初めて見る魔獣だったんですよね?」

「ああ、とはいえスリクやエレンガッセンのおかげでどういう魔獣かは事前に分かってたからな。初見の魔獣とは戦わない事にしていたが、今回は皆のおかげでどうにかなった」


安全が確認出来たので隠れていた学者達もやってくる。

生物学にも詳しいエレンガッセンが魔獣の死体を確認した。


「族長にしては珍しくトドメをさすのに拘りましたね」

「あいつの目がな」

「何か気になる事でも?」

「猛獣と相対する時、怒りを感じた事はあるがこいつからは憎しみを感じた」

「逃がしても舞い戻ってくると?」

「そうだ」


次はもっと慎重に襲ってくるかもしれない。

空を飛んできたので今回はガンジーンに発見されたが、監視の死角をつかれると採集活動をしている人々の所にまで接近される。


「とにかく倒せてよかった。エレンガッセンの分析も役に立った、これからも頼むぞ」

「スリク君がよく観察して報告してくれたおかげですが、あの報告だけでよく魔獣の動きを見切れましたね」

「勘だ」

「そんなものですか?」


エレンガッセンに戦士の感覚は分からないので単純に感心したが、マリアはいやいやそれは普通の人には無理だと否定する。


「まさか勘頼りで今まで生き残ってこれたんですか?」

「まあ勘といっても今回みたいに事前に相手の事を調べたうえでのことだからある程度予想はつく。毒の霧を撒き散らす奴とか、前触れもなく発光する奴とか奇抜な事やる奴とは戦わない」

「確かにそんな魔獣がいたら私達はほぼ全滅していましたね」


オルスが可能な限り戦いを避けるのにも理由がある。

帝国では大型の魔獣は絶滅させられていたし、都の闘技場で使われるのは扱いやすいものだけ。多くのものはちょっと強めの猛獣くらいのイメージしか持っていなかった。


「私でもオルスさんのように戦えるでしょうか」

「騎士が俺の戦い方の真似なんかする必要はねえさ。俺は周囲の気配や物音なんかも判断材料にするが、がちゃがちゃする鎧で身を固めたお前にゃ無理だろう」

「気配、ですか?やはりオルスさんも魔力を感知しているのでは?」

「いや、そんなもんはわからん。ヴァイスラにも確認して貰った。俺は周囲の振動とか温度の変化に敏感なんだそうだ」


オルスは自分の腕を見せた。かなり毛深い。


「族長、まさか体毛に伝わる風で判断しているとかいわないでしょうね」


触覚じゃあるまいし、とエレンガッセンは冗談だと思ったのだが・・・


「まさか、本当に?」

「勘の原因の一つじゃねえかな」

「野獣のようですね・・・。今後の研究材料にしましょう。さて、私達はこれからこの魔獣を解剖して調べようと思います」

「何を確認するんだ?」

「心臓の大きさですよ。この巨体を長時間動かすほどの大きさは無いはずですし、長距離飛行も出来ないと思ったのですが思ったより動き回ったので何か秘密があるのでは、と」

「任せるが、魔力が残っている内に・・・ってそうかレンがいないと魔石化は出来ないか」

「ファノちゃんに頼みましょう。爆発についても何かしら体に秘密があるでしょうし、高威力の爆弾が作れるかもしれません」

「エラムの研究も忘れずにな。どちらかといえばあいつの方が優先度は高い・・・うおっと」


その時、大きな地震があった。

一分近く揺れ、皆、地面にへばりつくようにして収まるのを待った。


”指揮所、被害を報告しろ”

”確認します。ここに詰めている人間は全員問題ありません。施設への被害もありません”


揺れが収まるとオルスは即座にマリアの代わりに詰めている指揮所の者に声をかけた。


「大丈夫らしい。しかしやっぱ地下生活は不安はあるな・・・」


後半は周囲に聞こえないように呟いたがオルスも不安はあった。

帝国末期から地震活動がかなり活発化していてまだ収まる様子もない。

エレンガッセンも記録上、ここまで長期間この規模の地震が続いた例はないと言う。


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2022/2/1
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