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天に二日無し  作者: OWL
第一章 地に二王無し ~前編~
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第25話 半獣人

「ベラー、カーバイド!」


ドムンとペレスヴェータが話している間に生き残りの騎士の所へ獣人達が駆けつけていた。


「シャバービ、スヴァジル、それにル・エンリルか」


山羊頭で杖を持った獣人がシャバービ、彼を運んでいる大型の人馬族がスヴァジル、そしてたくさんの牙や爪を首飾りにした人狼の男がエンリルだった。


「ワリイな」


エンリルが気さくにベラーに声をかけた。


「手こずっていたようだな」

「大物だからな。始末しないとお前達も困った事になるぞ。これから追うが、来るか?」

「ふむ・・・今は別の用件があってな」


ベラーは生き残りの従者に輿を引いてくるよう命じた。


「なんだ?」


エンリルが騎士達とは明らかに毛色が違うスリクとヴォーリャに目をやり、くんくんと長い鼻をひくつかせる。エンリルは二人の周りをぐるぐると周り、それから腰をかがめてヴォーリャのお尻のあたりで鼻を大きく鳴らす。


「この野郎!」


気味悪がったヴォーリャが拳骨を叩き落した。

エンリルは怒るかと思いきや意外な言葉を口にした。


「母さん!!」


殴られたエンリルは嬉しそうに抱きついた。

ヴォーリャは振りほどこうとするが腕力の差があって果たせなかった。


「母さん?」


スリクは驚いてヴォーリャを見やる。


「ちっ・・・」


諦めたヴォーリャは肩の力を抜いてされるがままになる。


「お前、もしかしてあの時の、ネルガルの子か」

「そう!」


エンリルは嬉しそうに尻尾を振った。


 ◇◆◇


 ペレスヴェータは輿の中に戻ってしまったのでドムンが話を聞く。


「何があったんです?」

「アタイが昔拉致された時に、産んだ子が大きくなって獣人に混じってたんだよ」


エンリルは他の獣人達に指示してさきほどの魔獣の追跡班を作るよう指示していた。

ベラーもそれに合流することになり、後の引率はカーバイドという騎士に託された。


「産んだ子って・・・」

「聞くな」


ヴォーリャは尻尾を振って付きまとうエンリルを邪険に振り払いながらレナートの元へ戻っていく。ドムンは説明をして欲しかったがスリクが止めた。


「止めとけよ。どう考えたっていい思い出じゃないだろ」


かつて拉致されたヴォーリャを助ける為にヴァイスラは部族の撤退命令を無視した。

だが、救出には長い時間がかかった。


「救出するのにそんなに時間がかかったとしても子供がいたなんて・・・」

「半獣人達は生まれてくるのも成長するのも早い」


カーバイドがドムンに教えてやる。


「我々の街にも彼女のような女性がたくさんいる。自殺してしまったものもいるが、諦めて受け入れた者もいる。受けいれた者は奴隷や生贄とされる第四市民階級から第二市民階級になりシェンスクへの移住も認められる」

「獣人に怯えずに済むからってことですか」

「近いが、必ずしもそうではない。獣人達は完全に弱肉強食。半獣人達はまだ人間の法への理解がある。シェンスクに移住するより半獣人に囲まれていた方が安全だ」


獣人の子を産んだことで人間からはつまはじきにされてしまい、半獣人達と共に生きていくしかなかった。


「貴方の街って・・・」

「私の主君だったバントアンバー子爵の都市だ。王に激しく抵抗した為、全員が第四市民階級に落された。我々は全員生贄にされて食われるのかと覚悟したが、実際には獣人達の繁殖場にされた。妻や娘を守る為、男達の多くはなおも抵抗して殺された」

「貴方はどうして生き残れたんですか?」

「戦いの中、倒れて死んだと思ったが、ノエム殿に助けられて命を長らえた。意識が回復した時、妻は自殺し、生き残った男達の多くは農場や鉱山で強制労働させる為に連行されていた」


カーバイドは淡々と語る。


「復讐しようとは思わなかったんですか?」

「むろん思った。ベラー殿が去ったからいうが、王の事も獣人の事も憎んだ。かつての主君に生き残った者を守れ、服従しろと言われたが復讐の女神アイラクーンディアに誓ってバントシェンナ王の事を殺すつもりだった」

「でもしなかった?」

「機会を待っている内に月日が経ち、その間に半獣人を生んだ女性達の顔から絶望が消えていた。夫達の事を忘れ、今の生活を維持することで満足していた」


獣人にも攻撃的な魔獣が現れ、必死に戦い故郷を守っている内にカーバイドも復讐を忘れた。守るべき民は今さら獣人を追い出しても生きてはいけない。


「マルーン公が攻めてきたら獣人の血が混じった子供達は殺される。女たちは蔑まれ、獣人の支配に協力的だった男達も罪に問われる。私は抵抗するしかない」

「そうはならないかもしれませんよ?マルーン公は保護してくれるかも」

「そうかもしれない。そうではないかもしれない。マルーン公はバントシェンナ王との対話を拒絶し国境を封鎖した。国境沿いの村々には焼き討ちをしかけている。我々にはシェンスクからの監視もありマルーン公との外交は出来ない。君達が彼女と話し合ってあちらの感触を探ってくれるのであれば有り難い」


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2022/2/1
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