第21話 シュランナとの面会
この直前に冒頭第2話のバントシェンナ王の話が入ります。
ドムンは生贄を獣人達に差し出している事についてついつい非難がましい事を言ってしまった。
本人の口からも肯定された事実と確認出来たので、これ以上話を聞くのは止めておくことにした。
早めに降伏する者には寛容だが敗者を生贄として獣人に差し出す恐怖政治を知ればカイラス族ではバントシェンナ王に協力する者はいなくなるだろう。
獣人と戦って元の生活を取り戻したいという者が増えそうだ。
これ以上叔父の機嫌を損ねないよう話を切り上げ、ドムン達は宮廷魔術師のシュランナに詳細な情勢を聞くことになった。
「では皆さん、こちらへ」
「お時間を取らせてすみません」
「礼儀正しいのですね。田舎の子だと聞きましたが」
「世話になっていた人が都暮らしが長く、仕込まれましたので・・・。ところで変わった飾りをつけていますね」
ドムンはシュランナがぶら下げている首飾りが気になった。何かの骨のようだ。
それに魔術師の杖も髑髏の飾りに蛇が巻きついている装飾があり、なんとも不気味だった。
「これですか?兎の足の骨です。幸運のお守りなんですが、珍しいですか?」
「どこの風習なんです?」
「あら、フォーンコルヌ皇国以外の旧帝国各地ではどこでもみかけるものですよ」
兎は大神ノリッティンジェンシェーレの聖獣なので、例外的に守護神を大地母神としていない彼らの国の方が珍しかった。
「では他の地域の出身の方でしたか」
「そうなります。三年前に獣の民から逃げてきて陛下に救われました」
「獣の民?獣人の事ですね」
「ええ、もし領内で例の呼称を使えば陛下の甥といえど助けられませんから気を付けて下さいね」
「・・・彼らに抵抗しようとか思ったりはしないんですか?」
「皆、もう諦観しています。この周辺を縄張りとしている獣の民は半人半獣の者が多く、肥沃な低地地方での縄張り争いに負けてこちらに追いやられました。我々とは異なる倫理観で動き、時として残酷に感じる相手ですが、帝都を襲った連中よりかなり理性的です」
「・・・・・・」
ドムンは沈黙を保った。
「そんな彼らにさえ私達では簡単に屈服してしまいました。仮にそこらを闊歩している獣の民に一矢報いる事が出来たとしても次の月にはシェンスクから強力な獣人達がやってきて死体の山が出来上がっているでしょう」
彼らは謁見の間から出て廊下を歩きながら会話していたが、ちらと外に視線をやると遥か遠くの岩場に巨大な蜥蜴が見える。
「ユキトカゲ」
「おや、ご存じでしたか。見た所北方圏の方?」
「ああ、そうだ」
ヴォーリャがドムン達にその魔獣の説明をする。
「冬になると北ナルガ河の断崖を登ってやってきた魔獣だ。吹雪と共にやってきて天候を操るといわれてた。岩や雪の色に同化するよう体色を変化させる。北方の民の魔術に耐性があり、魔導銃で魔力の壁を払わない限り通常の武器で倒すのは困難だった。戦って倒すよりも温泉地帯に生えている特殊な木の実をぶつけて追い払うのが一番マシな手段だ」
「さすが、よくご存じのようですね。ここにはそんな木の実はありませんし、神器を持った魔導騎士が山ほどいないと彼らに抵抗するのは不可能です。そしてそれが可能だったのは三年前の帝都の攻防戦だけでした」
「あれは襲ってこないのか?」
「ええ、シェンスクの獣人の使い魔です。こちらが手を出さなければ問題ありません。・・・あれはね」
「そうじゃない奴もいる?」
「はい。腹が減れば人間も獣人も構わず襲ってくる魔獣が増え始めて私達もシェンスクも苦慮しています」
「どこにでも飼い慣らせないヤツってのはいるもんだな」
「そうですね・・・さ、ここが私の執務室です。どうぞ」
ドムン達がシュランナの部屋に入り、奥へと案内される途中に大きな姿見があり、レナートが何気なく視線を向けると、その途端鏡とレナートの体が光り出した。
「わっ」「なんだ!?」「なにごとです?」
光が収まるとそこには女性形となったレナートがそこにいた。
「ふむ・・・何かの魔術で姿を偽っていたのですか?」
レナート達が我に返ると、シュランナが警戒して杖を構え、三人を睨みつけていた。




