第18話 竜狩人と吸魂槍
「レン、本当にこいつは本物の地竜エラムなのか?」
オルスは代表者達を集めて最下層に行き、レナートに訊ねた。
「エラムって名前なのかどうかまでボクは知らないけどグラキエースと同種の力を感じる」
「味方になると思うか?」
「そんなの知るわけないって」
「義姉さんはどうだ?」
(知ってる?)
”知るわけないって”
「ヴェータも同じだってさ」
オルスは誰かに答えて欲しかった。
神に匹敵する力を持つ魔竜が目覚め、カイラス族に従い安全を確保してくれると保障して欲しかった。しかし、答えは無い。
もし手なずける事が出来れば蛮族など恐れる必要もなくなる。
「オルス、もうその辺で」
レナートの肩を掴んでいたオルスの手をヴァイスラが降ろさせた。
「ああ、悪い。レン、痛かったか?」
「ううん、平気」
「後は俺達がどうするか決めるからもう部屋に帰っていていいぞ」
「えー、ボクも話、聞きたい」
何か意見を言えるかもしれない、レナートはそう思った。
「皆、いいか?」
「ああ」
他の代表者達も同意した。
レナートはヴァイスラとファノと共に傍で話を聞くことを許された。
◇◆◇
「エレンガッセン、こいつはもし目覚めたらどう動くと思う?」
「何の根拠もなくて良ければ、ですが敵対すると思います」
一度は神々と敵対したエラムが好き好んで石像になっているとは思えず、封印状態にあると思われた。
「この石像を狙う形であちらに槍を構えた像があります。その後ろには大地母神ノリッティンジェンシェーレ像も」
竜を狙っている構図の像の所にあった数本の槍をエレンガッセンは提示した。
「世界樹の枝を使った槍だな」
「族長はご存じだったのですか?」
「オヤジに聞いた事がある。酔っ払いの戯言だとは思ったが、うちの先祖は神々の尖兵として戦ったんだと」
オルスは槍を手に取ってみたが、彼には魔力の有無はわからない。
「だが、なんだか気力を吸われていく感じがするな。もうちっとオヤジの話を真面目に聞いておくんだった」
「父さん、実際そうみたいだよ」
レナートの霊体の視点だとオルスの体から輝きが薄れていき、槍が光っていくのが見える。
「おっかねえな」
オルスはぽいっと槍を捨てた。
レナートがその槍を拾ってみたが、別に吸われていく感じはしない。
「ヘンなの」
「修行が足りないんだよ」
シュロスが槍を拾ってもやはり同じだった。
「木気は土気を克すといいます。地竜にとっては世界樹の力はもっとも苦手とするものでしょう。ノリッティンジェンシェーレも土気の女神ですから、この槍を人間の戦士に与えて戦わせたのでしょうね」
「神殿はともかくこのエラムがいる大空洞は当面立ち入り禁止にして最低限の調査要員だけにした方がいいでしょう」
「そうしよう」
「ちょっと私からもいいかな」
「どうぞケイナン先生」
「ビサームチャリオットの件だが、せっかく二台あるのだから一台はバントシェンナ王の所に行かせるとして、もう一台は別の隠れ家を探しに行かせた方がいいと思う。ここはどうにも不吉だ」
学者にしては珍しく『不吉』などと迷信めいた言葉を使った。
「儂もそう思う」
レウケーも同意した。
「長老まで。ここに案内してくれたのは貴方なのに」
「当面の隠れ家としては良かったじゃろう?しかしここにこんなものがあるとまでは儂らも知らなんだ。何かを監視する為にわしらの一族は存在していたとしか知らなかった。そしてこの奥に見つかったあの扉・・・。そしてファノが時折遭遇する死者の魂。さまざまな情報から推測するに、ここは恐らく地獄の入口じゃと思う」
大空洞の奥には扉があった。
巨大な扉でエラムもどうにか通れそうな幅があった。
爆破しても傷がつかず、魔術も弾かれた。
レナートはまだ試していないが、やはり不吉さを感じて霊体で通り抜けたくはなかった。
ここについて最も知識があるのはレウケーで次に神官のシュロスの分野だった。
「神話では神々の間に争いをもたらした二柱の女神が地獄に封じられたとある。主神と大神達七神はそれぞれ門を作って地獄へ押し込めた。エラムはこの門を睨むようにして鎮座していることからしてその封印に関わっているのだと思う。竜にいう事を聞かせるためにこの槍があるのだとすると元の場所に戻しておくがよかろう」
「確かに。レン、ちょっと戻しておいてくれ」
「はーい」
皆で議論しても結局推測を述べるだけであまり進展は無かった。
いつまでもここに隠れ潜んではいられないかもしれないという危機感を共有するに留まった。




