第10話 レナートvsスリク
レナートはこっそりドムンと特訓して少しづつ勘を取り戻していたのだが、ある日スリクに見とがめられた。
「おい、二人とも何処行くんだよ。勝手に出歩くなっていつも言われてるだろ」
「別に遠出はしないよ。うるさいなあ」
「年長者のお前らがそんなんだから最近ペドロもラスピーも呼んでもどっかで遊んだまますぐに戻ってこないんだぞ。ドムンだってオルスさんから皆の面倒見るよう言われてる立場だろ」
「あー、悪い。最近はスリクがよくやってくれてるから、つい」
口は悪いがスリクは割と面倒見が良い。
「で、何してるんだよ。二人きりで汗だくになって戻ってくるし」
スリクに疑われたドムンは仕方なく事情を説明した。
「いや、こいつがな。男の体に慣れたいっていうから稽古相手になってたんだよ」
「なんでこそこそする必要があるんだよ」
「お前に前に馬鹿にされたから秘密特訓して見返してやりたいんだって」
「あー!なんでいっちゃうんだよ!」
レナートはぴょんぴょん飛び跳ねて抗議した。
「悪い悪い。でもちょっともう隠しておくの無理そうだし。周りに悪い影響出てるって聞くとな」
ドムンは苦笑いしてレナートの頭をぽんぽんと撫でた。
スリクの方は三年も前の事をいまだに恨まれていたので、憮然としている。
「で、成果は?」
「あー・・・」
ドムンはどう答えたものかと悩んだ。
先ほどもそうだが成長期にずっと女性の体だったせいか、仕草や体の使い方もそのままで矯正出来ていない。
「今日は一本取れたよ!」
ドムンの内心も知らずにレナートは自信満々に答えた。
「今度はスリクをこてんぱんにしてやるからね。皆の前でボクこそが族長の息子、戦士レナートだって示してやるんだ!」
バレてしまったからには早速やろうと思ったレナートの指示でドムンとスリクは散らばっている子供らを集めて、模擬戦を開始した。
自信満々のレナートは果敢にスリクに挑み、十戦して十敗した。
「ぐす・・・」
「泣くなって・・・」
「もーーー、どうして勝てないんだよーー!」
レナートはがむしゃらに剣を振り回し、スリクは冷静に一歩下がりつつ剣を絡めとって巻き上げ、スポーンと上空に飛んだ剣をキャッチしてレナートの首に突きつけた。
「どうだ?」
スリクはにやりとドムンに向かって不敵に笑う。
「おー、器用だな」
ドムンは驚いて拍手し、見守っていた少年少女らもつられて拍手した。
「また馬鹿にして余裕ぶって!」
レナートは剣をどけて掴みかかったが、スリクにあっさり組み伏せられた。
関節を極められてレナートは身動きできない。
「なんでだよー」
「オルスさんに格闘術の本を貰ったんだ」
◇◆◇
「ぐす・・・」
「まー、しょうがないよ。おにいちゃんには向いてないし」
完敗して涙目になっているレナートをファノとジーンが慰めている。
父親のような戦士にも憧れていたレナートには慰めにもならない。
「戦いは俺達に任せてレンはヴァイスラさんの後継いで薬草師目指せばいいじゃん」
「僕もそう思う」「俺も」
ラスピーやペドロも同意した。
いつもにこにこして優しく、子供達が転んだ時など怪我の手当をしてくれるレナートが剣を持ってムキになっているのが意外だった。
「でもせっかく戦う力あるし。男に戻れたんだし・・・」
「じゃあ、レナートさん。アレできる?」
ペドロが指さした方角にはマリアがいた。
手ごろな岩を見つけて素手で砕き、それでもまだ大きな岩をかついでのっしのっしと歩いていく。落石を装ってカイラス山へと通じる道を封鎖し、監視所から目が届きやすくするようにする為の作業だった。
「いやムリ・・・」
マリアは全身に魔石を埋め込んで筋力を強化している。
いくら魔力があってもレナートに同じことは出来ない。
その日は皆でレナートを慰めて機嫌を取り、それからアルケロに第二子が生まれるとのことで昔馴染みで集まってお祝いをすることになった。




