第9話 レナートvsドムン
「勝負だドムン!」
「え?なんで?」
「男同士対等の勝負だ!」
男に戻ったレナートは久しぶりに木刀を持ちドムンに勝負を挑んだ。
昔はよっつ年上のドムンが相手でも余裕で勝てたのだ。
十回中十回勝てなくても勝負にはなると思ったが一度も勝てずにこてんぱんにされた。
怪我しないように当たる瞬間に勢いを止め優しく触れられ、思いっきり手加減されるという屈辱すら味わった。
「ぐすっ・・・」
「おい、泣くなよ。しょうがないだろ。もう全然体格も違うんだからさ。というかなんで女の時より小柄になってるんだよ」
毎日体を鍛えているドムンと違ってレナートは最近弓も持ってなかった。
十歳以上の男の子らにドムンやスリクが槍や弓の手ほどきをしているが、最近のレナートはヴァイスラと一緒に薬草の栽培に取り組んでいた。
「ほんとにレナートさんなの?」
観戦していたペドロが疑問を投げかけた。
「そうだよ。言ってもどうせ信じて貰えないだろうから女の子って事で通してたけど」
ドムンは家庭事情の事は省き、昔神殿で祈ってから性転換するようになったと説明してやった。レナートは母方の先祖の女神の影響で特殊な魔術が使える事も。
「ふーん。変わってるね」
「あんま驚かないんだな」
ドムンはレナートが周囲の子供らから受け入れて貰えなくなるのではないかと危惧したがさして気にされなかった。
「だって。それで何か出来るの?」
「レン?」
ドムンもよくわからなかったのでレナートに振った。
「えーと、氷を作る・・・とか?」
生活に役立つかどうかというとあまり思いつかなかったのでレナートは自信無げに答えた。
「氷室があるじゃん」
「気温を下げる?」
「この山十分涼しいじゃん」
「・・・・・・」
微妙な空気に孤児の一人、最近拾われたラスピーがぽつりと漏らす。
「あんま大した事ないんだね」
(うう、役に立たない。氷の女神役に立たない・・・!)
”失礼なガキね!”
ペレスヴェータの怒りで付近の気温が冷えていく。
周囲の変化にラスピーがすんすんと鼻を鳴らしてきょろきょろと見まわした。
「おいラスピー」
ドムンがそんなラスピーを咎めた。
「あ、なんか怒ってる?」
何かの気配を感じ取ったか、見学していたファノの側にいたジーンも同じようにくんくんと匂いを嗅いでいた。
「いざ魔獣が襲ってきたらボクを頼るようになるんだから。その時こそボクの力をわからせてやる!」
実際助けられたこともあるドムンは馬鹿にはしなかったが忠告はした。
「あんま女神頼みしないで体は鍛えておいた方がいいぞ」
「じゃあ、ドムンが稽古相手になってよ。お父さん全然相手してくれないし」
「わかったわかった。じゃあほどほどにな」
「むー、なんか偉そう」
ドムンは今さら鍛えてももうレナートは相手にならないと余裕そうだった。
「そのうち絶対悔しがらせてやる」




