第8話 新たな仲間
ヴィーガ達はウカミ村近くの隠し倉庫で物資を回収して積み込み、それから廃村を探して回った。蛮族のフォーンコルヌ皇国侵入以降、僻地では村を捨てて市壁のある都市部への移住が進んでいる。
普段はサリバンが他人との接触を避けているのだが、今回は不在ということもあり彼らは親戚がいた村の様子を見に行った。
ここシャモア州には蛮族はあまり見かけないが、彼らが見た事がない猫科の猛獣が増え始めていた。用心の為に連れて来た猟犬もぴりぴりしており、見慣れた荒野も三年前とは様子が異なっている。
「見ろよ、アルケロ。グワシがあの妙ないきもん狩ってるぜ」
ヴィーガは望遠鏡を渡してその場面を見せた。
グワシはこの地方にしか生息していない巨大な猛禽で、油断していると人間も危ない。
蛮族が連れて来た猛獣はグワシの事を知らずにのんきに荒野を歩いていて狩られたようだ。
グワシは最初の一撃で肉を抉り、飛んできた勢いで首をひねってへし折ってしまった。初めて見た猛獣達の仲間は驚いて逃げ散り、勇敢にも立ち向かおうとした個体は死角から別のグワシに襲われて体を鋭い爪で完全に抑え込まれ、柔らかい腹を嘴で貫かれてそのうち動かなくなった。
「上空を警戒する癖がついてないからやられ放題ですね」
「蛮族が思ったより活発じゃない理由があいつらかもなあ」
絵心のある者が見慣れない動物のスケッチを描き、持ち帰って学者に分析して貰う。
学者がスケッチから動物を特定出来れば習性が分かり、引き連れている蛮族の部族も推測できる。戦力予想も出来るようになりカイラス山に設置する罠、薬物の調合にも影響してくる大事な作業だ。
遠征隊は上空を警戒しつつ、知っている村の近くを巡り歩いた。
最初に寄った村は廃墟になっていた。次の村は防塁で囲われ、農地には番犬が放たれ、空堀が深くなっており警戒が強まっている事が伺える。
独立派だった同胞は戦いに敗れ荒野の奥地に逃げ散ったが融和派だった叔母の村をヴィーガは訪れた。シャモア河の支流のおかげで草地があり、牧場があったのだがそこにフィメロス伯の兵士達が押しかけていた。
村人達は槍を構え、揉めているようだったがヴィーガ達は四人だけだし接触を禁じられているので静観していた。しばらくすると兵士達は何もせず撤退していったが、一部の騎兵が残り村の様子を伺っている。
そのままヴィーガ達が潜伏して夜まで監視していると村人達は荷物をまとめて村を出て行った。村人達は百人ほどで家畜も引き連れて南下を始めたが、監視の騎兵に尾行されていた。
教えてやりたかったが、決まりを破るわけにもいかず見守っていると翌日疲れ切った人々を兵士達が襲った。ヴィーガ達四人では守ってやることも出来ず同胞が虐殺され、家畜が奪われるのを見ているしかなかった。
兵士達は家畜をまとめきれず、生き残りに集めさせようとしたが時間がかかり適当なところで切り上げて去って行った。
そしてヴィーガは窪地に逃げて隠れていた人々を助け、家畜をまとめなおしてカイラス山まで戻ってきた。普段使っている獣道に入るまえにガンジーンの偵察班に見つかりそこで足止めされてオルスの所に報告が上がってきた。
◇◆◇
「ヴィーガ、ガンジーンから聞いた話に間違いはないか?」
「はい」
「叔母さんが無事だったのは良かったが、こんな人数をカイラス山で養うのは難しいぞ」
オルスは悩んだ。
カイラス山の人口はこれで三百名を越えてしまう。
最近人口増加に転じていた事もあり、彼らを向かい入れる事に不安を感じたが仕方なく、彼らにカイラス族の決まりについて話した。
「俺達の仲間に加わるには一度財産は没収されて共有化される。一生をこの山で過ごす事になるかもしれない。俺の許可なくカイラス山から出ることは許されない。食糧を盗めば死刑になる。親戚が他の村にいても何が起きても助けに行ったりはしない。それも納得してるのか?」
「はい。俺達は虐殺者のフィメロス伯に従うか、冷酷な奴隷商人のバントシェンナ王に従うか、それとも全てを捨てて逃げるしかありませんでした。安息の場所が得られるならなんでもします」
その返事をオルスは信用したフリだけはした。
元避難民達も援助を貰った当初は納得したが、今は自由を、もっと発展をと言い始めている。
「族長、もうここまで連れて来てしまったんだしどうぜ蛮族にはバレてるんだ」
オルスの内心を察したガンジーンが口添えをする。
「しかし貴族達にはバレてない。入口も」
この大所帯、特に家畜の群れは追跡されかねない。
そして百頭もの家畜は養えない。
あまりここで悩んでいる暇はなく、オルスは決断した。
「お前達、ここで羊、山羊の八割は処分する。解き放ってもカイラス山の生態系を破壊しちまうからな。お前達の中に徴兵された息子、誘拐された娘がいても俺は見捨てる。もし外の世界に心残りがあるならここで引き返せ」
引き返す者は誰もいなかった。
皆は同胞が加わった事に喜んでいたが、オルスは不安を感じていた。




