第5話 カイラス山地下大空洞②
地下には神殿らしきもの、宝物庫、そして多様な石像があった。
一番多かったのは奇怪な小人で、全て微妙に違う容貌で、武器を持っていたり、しゃがみこんでいたりとしぐさがみんな違うものが数百体ある。
それらを調査していた学者達がオルスに気づくが、身振りでそのまま作業を続けるようオルスは指示した。そして少し手持無沙汰にしていた姉妹が応対に出てくる。
「オルスさん」
「ようロスパー、解読は進んでるか?」
「ええ、彫刻家のポポイスさんのおかげで名前が欠けてる神像もだいたいあたりがつきました」
「ほう、さすが専門家だな」
ポポイスは神像作りも請け負っていたので神々の特徴となるようなシンボル、聖印、持ち物、仕草などを研究したことがあり、古代に作られたものでも推測が可能だった。
「五千年以上前のものみたいですね」
「そりゃすげえ。神々がまだ人と一緒に暮らしていた頃か」
「神話では一度地上は神々の争いで滅茶苦茶になったみたいですけど、ここは地下にあったから保存されていたんでしょう」
「じゃあ宝物庫の方は?」
古代の使えるお宝はあるのか、と期待する。
「ケイナン先生によるとやっぱり五千年以上前のものと二千年前くらいのものが入り混じっているみたいです」
「てことは長老の話の通りサガに貰ったものも収めていたのか」
先祖達は旧都から脱出してきたサガと一度は戦い、誤解が解けた後は東海岸まで通してやった礼を貰っていた。それがここにあるのだ。
「武器とか生活に役立つ神器はありそうか?」
「さあ、私にはさっぱりです。先生達の解析待ちですね」
二人が話している間、レナートはある石像を眺めていた。
小鬼達は何かに怯えているような表情で固まっている。
その先には巨大な怪物の石像があった。
「あれは?」
「さあ・・・土竜?」
ロスパーが振り返って答えた。
爪と口が異様に大きいがモグラの類に見える。
そのモグラを狙って槍を構えた戦士の像もあり、この大空洞が何の目的で作られたのか不思議だった。
「なんだかここ薄気味悪いな。あんな大きな石像をどうやって運び込んだんだろう。道の幅より太いよね」
「そういえばそうねえ。ここで作ったのかしら」
「まあ石像なんかどうでもいいさ。それより宝物庫が楽しみだ」
「じゃあ、見に行きましょうか。あ、レン」
「なに?」
「ダナランシュヴァラ神の祠があったわよ。レナートに関係がある神様よね?」
「え?ほんとに?じゃあボクはそっち行ってみる」
「おう。お参りが終わったら宝物庫の方に来てくれ」
「はーい」
◇◆◇
「ケイナン先生、エレンガッセン。調査の状況は?」
「おお、来たか。宝物庫にあるもののほとんどは美術品だな。以前なら売れば金になったろうが今は美術品など意味はないな」
「なんだ。そりゃ残念」
「とはいえ神器もあるが、今の所大した役には立たなさそうだ」
綺麗な水がいくらでも湧いて出てくる壺があったが、カイラス山では別に飲料水には困っていない。鉱山として本格稼働し製鉄所や精錬所を作れば大量の水が必要になるが壺から出せる水では足りない。
「宝物庫の台帳には森の女神の乗り物に使われていたという神器があり、これがそれのようですが使い方がわかりません」
エレンガッセンが示したものは大きなムササビ数頭の石像と牽引用の戦車がいくつか。
「乗り物だってんなら外に出して調査してみたらどうだ?」
「そうですね。かなり重量があるので人手を貸して貰えますか」
「そうだな。明日にでも手すきの男衆に手伝わせよう」
「お願いします」
僅かながら武器もあり、防衛の役に立つだろうが使い方を誤ると危険なので学者達が調査を終えるまでは使わない事にした。
「神器だったらシュロスやマローダにザルリクにも手伝って貰った方がいいだろう」
「そうですね。科学や魔術は神器の神秘性とは真逆ですしね」
魔術には理論があるが、神術は神の奇跡によるもので理屈も何もあったものではない。
科学的な調査より神官の勘の方が役に立つ。
オルスが見るものを見て帰ろうとしたところに血相を変えたレナートが駆け込んで来た。
「お父さん!男に戻っちゃった!!」
レナートは三年前のウカミ村にいた頃の小柄な少年に戻っていた。




