第2話 バントシェンナ王
マルーン公と対峙しているバントシェンナ王も着々と決戦の準備を進めていた。
蛮族の監視役に睨まれながら多忙な日々を送っていたある日、知人が面会を求めて来た。
詳しく聞いてみると甥のドムンで彼はもう青年になっていたが、少年二人と中年の女性を連れて来ていた。特に武器を携えておらず普通の田舎者のようですがどうしたらよいでしょうかと侍従に問われ、宮廷魔術師に確認させた後、早速面会した。
雑談の後、人払いを行って側近と彼らだけになった途端、ドムンはあまり言って欲しくない事を言い始めた。
「人間同士争うのを辞めてくれ、だと?」
「はい。陛下。俺にはばん・・・獣人の脅威が高まっている中でマルーン公と・・・人間同士で争う意味が分かりません」
「ドムンよ。お前の故郷はマルーン公の部下に襲われたのでは無かったのか?その時、お前達も抵抗しただろう?生き残る為には敵と戦わざるを得ない。敵は田畑を荒らす害獣の場合もあるし、攻め込んでくる人間の場合もある。単に今、我々の敵がマルーン公だというだけだ」
蛮族によって父を殺され家族を人質に取られ、他の親族は逃げ出してしまいもう誰も頼れる血族はいないと思っていたが、叔母の息子が生きていた。
ドムンは友人らしき二人の少年を連れており、出来れば味方に引き込みたかった。
「本当の敵は獣人では?失礼ながら陛下は彼らに利用されているだけなのでは?」
三年前より随分大きくなったが、分かり切っている事をわざわざ口に出すほど甥はまだ幼い。
「人は利用し合うもの。諸侯は獣人が攻めてきた時に我々を防波堤として利用した。だから今度は彼らに生贄として役に立ってもらう」
「どうしても無理ですか?」
「無理だ。それよりお前は今まで何処にいた?お前の村が襲われたという情報は手に入れていたが、マルーン公に保護されていたのか?」
マルーン公は徹底的に国境を封鎖する構えを見せており、無法者達を雇って密輸するのも難しくなっていた。いったい何処から彼の下へやってきたのか疑問に思う。
「あー、俺達はもともと遊牧民ですから村がなくてもそこらの荒野だって生きていけます」
バントシェンナ王はドムンの体を見下ろし、ひとつの疑問を抱いた。
「まあ、よい。襲撃された故郷の復讐をしたいのなら我が軍に加われ。なかなか腕も立ちそうだ。前にも言ったが我が騎士として迎えても良いぞ」
「・・・・・・」
ドムンは少し迷うようなそぶりを見せていたが、隣の少年に脇腹を突かれて、迷いを払うように首を横に振った。そして真っすぐな瞳で叔父を見た。
「叔父さんが蛮・・・獣人に本当に生贄として人々を差し出しているんですか?」
「そうだ。本当の目的はそれを非難しに来たのか?」
居並ぶ騎士達がじろりとドムンを睨む。
「まさか!」
ドムンは慌てて弁解した。いくらなんでもそこまで命知らずの馬鹿ではない。
「勿論止めて頂きたいという心はありますが、事情はお察しします」
「うむ」
「ただ、荒野に隠れ潜んでいた俺達は情勢に疎く」
「だろうな。聞きたい事があれば側近に話を聞くがよい。シュランナ、我が甥だ。彼が知りたいことはなんでも教えてやれ」
「承知しました」
シュランナとドムン達はバントシェンナ王のもとからフォーン地方の情勢について話し合う為、辞去していった。
◇◆◇
「ベラー、シュランナとの話が終わったら連中をつけろ」
「は」
バントシェンナ王の騎士は部下に手配を命じ、それから王に真意を問うた。
「陛下の甥に何か不審な点が?」
「我々もマルーン公も配給制を取っているにも関わらず、妙に血色も体格もいい」
「確かに。荒野にそれほど獲物があるとも思えませんし、市壁の外で獣人や魔獣に襲われずに三年も無事でいられるとは思えませんな」
「そういうことだ。父上も遊牧民には手こずっていた。迂闊に仕掛けず住処と暮らしぶりだけ調査しろ」
「御意」
次にバントシェンナ王は懸案のマルーン公との戦いの準備状況を尋ねた。
「連中の意図する所は明白ですが、我々には対抗するだけの兵力がありません。獣人の戦士を借りる事は不可能なのでしょうか」
「無理だな。だが低地地方から来た難民を好きなように使ってよい」
「は・・・」
「何か言いたいことがあれば言うが良い」
配下の返答の間に、疑問を持った王は発言を促した。
「我々に助けを求めてやってきた騎士らが不満に思うかもしれません。捨て駒であればマルーン公領から拉致してきた領民でも良いのではないでしょうか」
「・・・ふむ、繁殖させて生贄として使うつもりだったが、役に立つかな?寝返るだけだろう」
「家族を人質に取れば従わざるを得ないかと。そして実績あるものには市民権を与え取り立てましょう。人口差を埋めない事にはきたるべき会戦で勝利しても、土地を支配出来ません」
「確かに、では人選と計画を任せる」
「承知しました」




