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天に二日無し  作者: OWL
序章 神亀雖寿 ~後編~
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第46話 滅亡の時 ~エンマ・ミーヤ・クールアッハ~

「旦那様、各地より援軍要請の使者が多数来ていると報告が」


涸れ谷城を守るマクダフ・ドンワルド将軍に嫁いで二年、エンマは一児を授かり幸せに暮らしていた。しかし、彼女達を取り巻く情勢はこれ以上の停滞を許さなかった。

夫の元にはベラトールから暴徒を鎮圧せよという命令が届き、平民派からは軍隊を率いて自分達に加わってくれという懇願が届いていた。

帝都へ向かったクールアッハ公が亡くなり、東部諸侯は勢力争いを始めている。

バントシェンナ男爵とやらが王を号したという情報もあった。


「君にもご実家から義父上達の葬儀に出るよう指示があったとか」


彼女が戻って喪主を務めろとか要求が送られている。要するに大公家を継ぐことを望まれていた。


「戻ったところで女の私の命令など聞くわけがありません。親戚たちは旗頭として利用したいだけです。旦那様と離縁させられて適当な人間を夫に迎える事になるでしょう」


エンマは政略結婚は一度で十分だと思った。

夫は優しく、頼りがいがあり意外にも幸せに暮らせている。父でもない人間の要求を聞く気は無かった。


「いいのか?」

「わたくしはもう旦那様の妻です。家の事は忘れてください。それに家に戻るとなるとこの子も実家に奪われてしまいます。どうかお傍においてください」


エンマの兄は子を残さなかったし、他に兄弟がいないのでエンマが戻らなければクールアッハ家は傍系に移る事になる。


「ありがとうエンマ。老いた身でまさか再び我が子を授かることが出来るとは思わなかった」


若いころは果断な性格だった将軍も今は幼い子の将来が心配で身動きが取れなかった。

エンマは再び妊娠しお腹も大きくなっている。二人目の子が誕生しようかという時に身重の妻の傍を離れられない。


エンマの父、クールアッハ公からは帝国政府側に援軍に行く間の後事も託されていた。

亡き主君からは皇家を守るよう言い残されており、本来はベラトールを援護しに行かなければならなかったものの、涸れ谷城からうかつに動くと妻の実家が他の二大公から攻められる恐れがあり動けかった。


帝国で内戦が発生し、蛮族や東方軍が攻めて来た時ダークアリス公は軍を率いて環状山脈を越え、北に動いた。目的地はオレムイスト皇国。帝国内部がバラバラで勝ち目無しとみたのか東方軍の援護に回ってしまった。

彼らがオレムイスト家の本国を叩いた結果、帝都の最終防衛ラインであるラムダオール平原の戦いで主力を務めていたオレムイスト軍が抜けてしまい大敗してしまう。


アルキビアデスとガドエレ家の行動が東方軍の怒りを買った事でダークアリス公は自分達はフォーンコルヌ家とは関係ないとアピールしているのだった。

クールアッハ公は帝国政府の要請に従って援軍を送る事で自家の存続を図った。

ルシフージュ公は両軍に食料を提供しどちらにもいい顔を見せている。


「蛮族は東、東方軍は西海岸、西方軍は南海岸、我が国を出れば四方は敵だらけ。だが唯一の救いはアルシオン様が病死、アルキビアデス様らの帝都にいた皇家の者達がシャルカやフリギア家に抹殺された事でわざわざ我が国に攻め込む価値が無くなった事だ」


東方軍が報復としてわざわざ攻め込んでくるにはあまりにも広大な土地だ。

直接恨みがある対象はもういないだろうし、そこまではするまい。

帝国の他の国家も蛮族の対処で手一杯でこの混乱の根源だとして攻めてはこないだろう。


「となると、フラリンガムからの要請にどう答えるかですね」


一時的にどこも停滞している。

今のうちに決めなければならない。平民側につくか皇家側につくか。


「君はどうするべきだと思う?」

「わたくしに軍事の事はわかりません。旦那様のなさりたいようになさればよいかと」

「・・・私は幸運にも先代の信頼を受けここまで出世した。御恩を返したかったが男子は全員亡くなってしまった。残ったのはプロメア様、ダフニア様だけ。そして皇家は大勢の恨みを買っている。平民からも貴族達からも・・・」


ベラトールに味方してもこの先はないと将軍は考えた。


「しかし先代のご息女お二人を見捨てるなどあまりにも不忠」


三人の男子は勝手に権力争いで殺し合ったのであまり同情していなかった。

しかし姫達には何の罪もないのに平民の革命家達が皇城に攻め込んだら何をされるか。


「では暴徒達に味方し旦那様が秩序をお与えになった上でプロメア様達を保護してここへ連れ込んでは?」

「そんなことが許されるだろうか」

「話に聞く限り暴徒達は数は多くとも率いる者はおらず、ただ略奪を繰り広げるのみとか。このままでは各地は廃墟と化すだけで誰も喜ばないでしょう」

「確かに。だが私が皇都を制圧したとしてそのあとの統治はどうすべきだろう・・・」


彼は軍人であって都市行政くらいならともかく国家の管理までは無理だ。


「そのあたりはダークアリス公やルシフージュ公に相談なさっては?」

「うむ。そうするか」


折よく先代のダークアリス公マック・フィンドレック・ダークアリスが少数の部隊を率いてやってきて皇都の混乱を共に鎮めようと提案してきた。


ダークアリス公の目的はフォーンコルヌ家の人間を捕えて東方軍に引き渡し、媚を売る事だったが、捕縛対象はベラトールと息子たちに絞り、プロメアら女子に罪は無く危害を加えない事で合意した。

平民勢力については皇家の統治に問題があった事を認め、解散すれば反乱を起こした罪を許す事で合意した。


南部総督ルシフージュ大公も来訪し、北部と南部は当面自治国として独立し共に蛮族に対抗することで合意。可能であれば東方候に連絡を取り、蛮族との講和を仲介してもらう予定だった。

西部の混乱は鎮圧後マクダフ・ドンワルド将軍が西部総督として統治すれば平民の怒りも薄れるだろうと提案したが、条件として先代ダークアリス公とルシフージュ公は西部の統治にクールアッハ家を介入させない事を約束させた。もとより妻は実家と縁を切っている為、将軍もそれを受け入れて両家には逆に統治の為に行政官を派遣してくれるよう依頼した。


蛮族の侵攻が停滞している今が混乱を治める機会と三者は全速力で皇都フラリンガムへ進軍を開始した。


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2022/2/1
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