第42話 レナートとファノ
レナートは長老達に守られつつ、ペレスヴェータにお山周辺の索敵をして貰っていたが、ペレスヴェータは気の向くままにふらふら飛んで行ってあまりいう事を聞いてくれなかった。それでも一応バントシェンナ男爵領の様子は見て来てくれた。
(どう?)
”あまり数は多くない。でも獣達が蛮族に従ってしまうと数が膨れ上がる”
蛮族は野生の獣達と意思疎通が出来るが、それほど強い強制力はない。
”北の獣達と違ってここでは蛮族もよそ者だからすぐには指揮下に入らないと思う”
時間をかければかけるほど敵は増えていくが、東部の諸侯達は団結して蛮族と戦おうとしていなかった。
(蛮族ってどんなのがいた?昔見た人狼とかいた?)
”それがね。あんまり見てる余裕が無かったの。男爵の都全体になんだかもやがかかったみたいで。蛮族の魔術師もかなり強力な使い手がいるからあまりしつこく見てると向こうに気づかれるかもしれない”
(ペレスヴェータより上手の魔術師とかいるの?)
”そりゃいるわよ。人間の方が優れているとかそんな偏見は捨てないと駄目よ”
帝国政府は蛮族を知性に欠けた獣として扱ってきたのでなかなか偏見は拭えない。
(じゃあボクたちあんまりお父さんの役に立てない?)
”レナートはそんなこと気にしないで遊んでてもいいのよ”
(まっさか。そういうわけにはいかないよ)
だが、ペレスヴェータはヴァイスラにいって索敵を止めさせた。
◇◆◇
「んもー、お母さんに言いつけるなんて!」
レナートはぷりぷりしながら夕方に家に帰った。
時刻は定期的にシュロスが鐘を鳴らして知らせてくれる。
帝国が滅び帝国暦も無くなってしまったので、古代さながらに時の神の神官が暦と時間を知らせていた。
家に帰るとファノとジーンが毛布に包まって休んでいた。
「お、ファノちゃーん。今帰りましたよ。今日はどんな一日だったかなー?」
レナートはファノを抱き上げて、頬ずりをして柔らかく温かい体を堪能した。ファノは若干迷惑そうにしている。
「今日はお姉ちゃん達とジーンと一緒におしごとした」
「そうか〜。偉いな〜。この年でもうおしごとか~」
「横チンが一緒にお散歩しようっていってきたけどお姉ちゃんに追い払われてた」
「スリクね。で、お仕事ってどんな事してたのかな」
「お昼寝の邪魔してくるイヤなやつ追い払ってたの」
レナートが忙しい両親の代わりにファノと一日の出来事を話し合っていた。
そこへあちこち歩き回ってきたスリクがやってくる。
「なに、こんな時間に」
少しばかり態度が冷たい。
「今日ファノがひとりで歩き回ってたからちゃんと帰ってるか心配で」
「ロスパー達と一緒だったって聞いたよ」
「途中からな。最初はひとりで出歩いてたみたいだ」
「んまっ!ファノ、ひとりで出歩いちゃ駄目でしょ」
「ぶー。ジーンが一緒だったもん。横チンきらい!」
告げ口をされたのでファノが拗ねた。
「ファノの事が心配で様子見に来たのに、なんで嫌われなきゃいけないんだ・・・」
「あはは、ごめんね。スリク、有難う」
最近微妙な雰囲気だったが、さすがにレナートはスリクに礼を言った。
それでスリクも気分が良くなる。
「いや、いいって従妹だしな。心配するのは当然だ。レンが忙しいなら明日は俺がファノの面倒見ようか?」
「んー、いいよ。明日はもう瞑想部屋に籠らないから」
「どうかしたのか?ロスパー達から周囲の警戒をしてるって聞いたけど」
「この山から魔術を使うと位置がバレちゃって藪蛇になるかもって」
「ふーん、だったらファノに頼んでみたらどうだ?」
「ファノに?」
スリクはファノがジーンと感覚を共有してるらしいことを告げた。
「ファノが匂いを嗅ぎ分けられるならヴォーリャさん達が危険な事しなくても済むだろ」
「そっか。ファノがっていうかジーンにちょっと外に出て貰えば済むか」
蛮族にジーンの匂いを悟られてもあまり気にする必要はない。
「だめっ」
しかしファノがジーンだけ外に出すのを拒絶した。
レナートがジーンも外に出たい筈だとファノを宥め、オルスに相談し、鉱山の出入り口から目の届く範囲内に限りという条件で周辺の索敵を開始した。
非常口を何ヵ所か作っているので一方向だけでなく東西南北をカバーしている。
ジーンの嗅覚は人の何万倍も優れており、ファノがそれをうまく伝えるのは難航したがペレスヴェータが通訳を行って解決した。蛮族の体から分泌される獣臭は健康状態や感情などの情報をジーンに与え、おおよその位置、数も判明した。
”私達がこの辺りに隠れ住んでいる事はもう怪しまれてる。早晩襲ってくる”
ペレスヴェータはオルスに警告し戦いの準備を急がせた。




