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天に二日無し  作者: OWL
序章 神亀雖寿 ~後編~
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第41話 スリクとケイナン

 女性陣の所から逃げ出したスリクはエレンガッセンの所に寄った後、今度はケイナンの所に行った。


「何か用かね?」

「俺にも何か秘められた力とかそういうのないかと思って」


血液検査の結果を聞きに来た。


「無いな。君はごく一般的な平民だ。そんなものに期待するのは止したまえ」

「でもさ、ドムンは半分貴族の血を引いてるわけじゃないですか。差をつけられるの嫌なんですよ」


ケイナンはこういった質問は学院に勤めていたころから何度もされている。答えはいつも同じ。


「現代社会を動かして来たのは平民の力だ。無いものねだりは止めて自分に出来る事をひとつひとつこなしていけ」

「そうはいっても何か力があったら役に立つかもしれないってエレンガッセンさんもいうし」

「なんだと?」


エレンガッセンは蛮族の迎撃準備を進める中で作戦に組み込める人材を探していた。


「迎撃はウカミ村の狩人主体で行う。レナートですら前に出す気はない」

「えっ?レンも?あいつ魔獣を自力で魔獣をボコボコにしたっていうし動きを止めるのに役に立つんじゃ?」


スリクの目論見としてはその時、護衛を志願して見直してもらおうと思っていた。


「いくら特別な力があっても十歳の子供に頼る気はない。お前もドムンも蛮族が攻めて来たら小さな子供達の面倒を見ていろ。最悪の場合は逃げる事になる」

「何処へ?」

「あてはない。大人はここに残って時間を稼ぐ。自分達で考えて生きろ」


まだ作戦は固まっていないが、最悪の状況では子供らは自分達の力で生き抜いてもらう。


「きっついなあ・・・」

「そうだ。ただ剣や槍を振るうよりも大変な事だ。わかったら私の邪魔をするな」

「そんなに邪険にしないで下さいよ。うちの村で一番頭がいいのはケイナン先生だし、向こうの学者の先生達はよくわかんないこといって煙に巻こうとするし。俺はちっちゃい子らを大人しくさせて先生の血液検査に協力させたでしょ?」


ケイナンは村人とも親しくないので、科学的な調査に協力してもらうにはスリクの協力が必要だったし、避難民の子供らの場合は特にそうだった。


「しかしな。外の状況がわからん事には何の方針も出てこない。サリバンにでも相談した方がいいだろう」

「それは後で聞いておきますけど・・・あ、そうだ。先生、血液検査の結果とか聞かせて下さいよ。力が無いのはしょうがないけど一応祖先は神々に仕えていたんでしょ?」

「そのようだが・・・何が目的だ?」

「えーと、レンとの相性とか分からないかと思って・・・」


スリクは恥ずかしそうにケイナンに訊ねた。


「そんなもの私が知るか!」


この忙しい時に恋愛相談なんぞに巻き込まれたケイナンは怒った。


「あ、そうじゃなくて先生の得意分野の見地から科学的な事を相談したいんですよ」

「む?」

「従妹だし近親婚が望まれてないのは承知してますけど、レンの奴は北方系の女神の血が濃いんですよね?」

「うむ」

「で、俺はこっちの土着の神様影響が強いんなら結婚に反対されないかなって」

「ふむ。そういう点でいえば確かにお前はシレッジェンカーマの血が微弱ながら反応している」

「お、やった!」


従妹婚を反対されても反論出来る材料が出来た。


「カーマは愛を司る女神だが浮気性で女性に嫌われやすい」

「・・・・・・」

「・・・先天的な問題を乗り越えて愛を証明するのもよかろう」

「ですよね!」

「しかしレナートのいうグラキエースなる神は記録にない」

「シュロスさんに借りた聖典にも載ってませんでした」


ケイナンがレナートを通じてペレスヴェータに聞くよう頼んだが、適当にはぐらかされた。

ペレスヴェータは根掘り葉掘り聞かれるのを好まないようだ。


「どうも古代帝国はまつろわぬ民の守護神の存在を記録から抹消したようだ。故に大地母神達の一柱であるシレッジェンカーマとグラキエースの末裔の相性は悪いと言える」

「そんなあ・・・」

「だから諦めろとはいわん。人はもう神々の影響から抜け出すべきなのだ。人々がここまで追い込まれても神々は何もしてくれない。自力で生き抜くしかない」

「都合のいい時だけ神頼みなんてするからですよ。みんな聖域の巡礼に行った事もないでしょ」

「ふっ、確かに」


年に一度の巡礼どころか日々のお祈りさえ皆、ろくにしていない。


「さあ、もう用は済んだか?私が忙しい」

「はーい。じゃあどうもお邪魔しました」

「ああ、そうだ。ひとつだけ」

「何です?」


去ろうとするスリクにケイナンは声をかけた。


「サンチョとペドロには注意しろ」

「勿論ですよ。両親はどうしようもない連中だったけどあいつらに罪はないですからね」


オルスからも言われているのでスリクは二人が皆と打ち解けるように出来るだけの尽力はしている。


「お前は意地が悪いのか、いいのか・・・。だが、そういう意味ではない」

「え?」

「あの子らはスパーニア系という割にはアイラクーンディアの血が強い。復讐と怨恨の神だ。馬鹿な行動をしないよう注意しろ」


ケイナンは子供らが親兄弟の仇を討とうとするのではないかと警戒していた。


「ちゃんと言い聞かせておきますよ。じゃあ、俺からもひとつ」

「なんだ?」

「恋愛禁止令とか子づくり禁止令は早いトコ解除して下さいよ。子供は希望っていうでしょ。自分達で希望の芽を摘もうとしてるように見える」


民会の発言権が無い少年少女らは不満で一杯だった。

ロスパー達も守る気が無いようだった。


「そのうちな」

「守れない規則作っても破られるだけだし、みんな規則を軽んじるようになりますよ」

「わかったわかった。しかし今は時期が悪い。生まれてきた子を飢えさせても辛い思いをするだけだ。大人達は皆、飢餓を経験した事があるから圧倒的賛成多数で施行してるんだ。理解してくれ」

「涸れた年寄りと違って俺達は若いんです。止められませんよ」


理屈は理解しても適齢期があるので焦る若者もいる。


「どうにかしろ。それにお前が狙っているレナートもまだまだ幼過ぎる。数年は禁止令が続いた方がお前にも得だと思うぞ」

「それは確かに」


今、手をだしたら両親にぶち殺されそうである。


「でも数年は長いなあ・・・」

「今のうちに印象を改善しておくんだな」

「へーい」


今度こそようやくスリクは出て行った。


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2022/2/1
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