その7
私と双葉は双子の女の子としてこの世に生まれた。
私が姉で、双葉は妹。一卵性双生児ということもあってか、親でさえ見分けがつかなかったくらいに私達の顔はそっくりだった。
子供の頃はそのことが妙に嬉しくて、私達はよく入れ替わりごっこをしてふたりで遊んでたりもしたっけ。
可愛い可愛いと持て囃されたけど、私達がどっちか気付けない人達を、影でこっそり笑ったり、まぁ我ながら意地の悪いイタズラもしたりした。
絶対上手くいくものだから、ドンドンハマってしまったわけだ。
大人や友達は皆騙せたんだけど、一人だけ私達の入れ替わりに気付いたやつがいた。
それが春斗だ。春斗だけは何故か私達が入れ替わってることにすぐ気付いて指摘してくるものだから、ムキになって突っかかっていったことを思い出す。
思い返せばあの頃から、私は春斗に惹かれていたのかもしれない。
私をちゃんと見てくれていたのは、きっと春斗だけだったから。
そう思うと、随分長い初恋だ。だけど、初恋は実らない。
そのことを、私はやがて知ることになる。
…話を戻そう。
自分と同じ存在がいつも近くにいて、一緒に笑い合ったり遊んだりできるのが、あの頃はただ楽しかった。
本当に子供だったんだろう。あのまままっすぐ純粋に育つことができたなら、きっと私はこんなに苦しむこともなかったと思う。
だけど、無理だった。
私と双葉が一緒だったのは顔だけで、中身はまるで違ったのだから。
そのことに気付いたのは、小学校中学年くらいの頃だったろうか。
図工の時間に描いた絵が、市のコンクールに入選して、双葉が賞を取ったのだ。
全校集会の時間に校長先生から壇上で賞状を受け取る双葉の嬉しそうな顔は、今でもよく覚えている。
その時の私はというと、ステージ下のアリーナで、クラスメイト達と一緒に列に並んでパチパチと拍手を送ってた。
自分が落選してたことなんてわかってたし、特に落胆はしてなかった。
ううん、むしろ嬉しいくらいだったと思う。
双子の妹が大人に褒められていることが、まるで自分も褒められているように感じられたからだ。
家に帰ると、当然両親にも双葉は褒められた。
凄いぞ、さすがだねなんて、優しい言葉をたくさんかけてもらってた。
そのことも私は嬉しかった。私も双葉は凄いって素直に思えた。
本当に、自分のことのように嬉しかったんだ。
だから、両親が双葉ばっかり褒めて、私に目もくれなくても、その時の私は気にしなかった。
…だけど、これから先、すぐ気づくことになる。
双葉は私じゃないんだって。私は双葉にはなれないんだと、気付かされてしまうのだ。
双子であっても、ううん、双子だからわかってしまう。
才能という名の絶望的な壁が、私達の間にはあったことを。
コンクールで表彰されて、数ヶ月も経たないうちにそれは起こった。
双葉が今度は徒競走で、市の大会に優勝したのだ。
他を引き離してのぶっちぎりの圧勝。引き離されたその他の中にはもちろん私もいる。
自分なりに全力で走ったのに、双葉はぐんぐん加速して、あっという間に抜かれてしまった。
悔しいとは思わなかった。一生懸命走ったから、ゴールした時は息も上がって苦しかったから、そんなことを考える余裕がなかったんだ。
だけど、一着でゴールしたはずの双葉はケロッとしてて、私のことを「大丈夫、お姉ちゃん?」なんて、心配そうに覗き込んでくる。
その時、初めて私の中に疑念が生まれた。
ずっと一緒だったはずなのに、なんでって。
そんな考えが頭の中をぐるぐるし始めて、気付いたら双葉は表彰台に上がっていた。
前と同じように、みんなの前で褒められる双葉。
そんな双葉をぼんやりと見ながら、周りに合わせてパチパチ拍手してる自分。
―――なんで違うの
私と双葉は、同じ双子のはずなのに。
双子だけど、まるで違う人間だってことに、まだ気付けずに。