その5
「なんで泣いてるんだよ…」
僕は一葉の涙を見て動揺を隠せなかった。
いや、隠せというほうが無理がある。
これまで一緒に過ごしてきた幼馴染の泣いている姿なんて、僕は数えるほどしか見たことがない。
「だって、だって…」
それも小さい頃の話で、高校生になった今となっては尚の事。
時折表情を曇らせる時こそあれど、なんで…
「だって私、春斗のことが好きだったのに!!!」
「!!!」
え…今、なんて…
「私、ずっと春斗のことが好きだった!双葉よりも、ずっと先に好きになってたの!だけど、春斗は双葉のことが好きで、私のことなんてただの幼馴染としか思っていないこともわかってた!」
驚きでなにも言えずにいる僕に、一葉は感情をむき出しにして訴えてくる。
「双葉のことしか見てないのなんて、ずっとわかってたよ!だけどさ、もしかしたら相談に乗ってるうちに気持ちに気付いてくれるかもって、期待してたんだよ!なのに春斗は全然気付いてくれなくてさぁ!私ほんとバカみたいだったよ!」
一葉は泣いていた。
目から大粒の涙をポロポロと零して、声を上ずらせていた。
「かず、は…」
「だからもうバカになりきろうって思って、双葉に春斗のいいところとか色々教えてさ…ほんと、なにやってるんだろうなって、ずっと思ってた…」
「だけど仕方ないって自分に言い聞かせてさ…あの子に私、絶対勝てないことわかてたもん」
本当に悲しそうで、一葉の秘めていた想いを耳にするたびに、胸が締め付ける気持ちになる。
一葉が双葉に対して、どこか引け目のようなものを感じていたのはなんとなくわかっていたけど、それでもここまでとは全く思っていなかった。
「だ、だから私なんかが間に入るのなんて無理だって思って、せめてふたりを応援しようって決めたのに!あの子なら仕方ないからって、そう思い込もうとして!なのに、なんで距離取ろうとしてんのよ!!」
「一葉、僕は…」
「なにやってんのよ!好きだったんでしょ!なら、ちゃんと付き合いなさいよ!見せつけなさいよ!僕たちはこんなに幸せなんだって!そして、そして…」
聞いているこっちのほうが、胸が痛くなるほど、それは悲痛な叫びだった。
だけど、最後は声を小さくして、
「私にちゃんと、諦めさせてよ…」
自嘲するかのように、そう言った。
「一葉…」
「だって、そうじゃないと、私、すごく惨めじゃない…」
僕はなんと言えばいいんだろう。
ただ、今の一葉を見て、僕の内に今までにない気持ちが、膨れがっていくのだけは感じていた。
かくのたのちい
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