その3
少し落ち着いた僕は双葉に話を聞きだしたのだけど、どうも以前友人とふたりで街を歩いている最中に、読者モデルをやってみないかとスカウトされていたらしい。
それは僕と付き合う前から進んでいた話のようで、こっそり撮影に出かけていたりもしたのだとか。
「驚いた?」
「うん、そりゃあもう」
「えへへ、なら良かった」
そう、本当に驚いた。
まさか双葉がモデルとして表紙を飾るなんて…いや、綺麗な子であることはわかっていたし、実際双葉なら何の不思議もないんだろうけど。
「…………」
もう一度、手渡された表紙をまじまじと見る。
銀色の髪。日本人離れした容姿。綺麗な笑顔。
どこを取っても非のつけ所がない。本当に完璧と言える美貌の持ち主だ。
これならきっとこの雑誌は飛ぶように売れることだろう。学校の話題だって、きっと双葉のことでもちきりになるに違いなかった。
「や、やだ。ハルくん。じっと見られると恥ずかしいよ…」
そんな声が聞こえてくるけど、僕の耳には届かない。
改めて双葉の容姿の良さを見せつけられ、呆然と表紙の中の双葉と見つめ合う。
本当に、綺麗だ。素直そう思った。
―――こんな子と僕は、釣り合っているんだろうか
同時に浮かんでくるひとつの疑問。
それは確かに楔となって、僕の心へと打ち込まれる。
この日から、僕は双葉の顔をまともに見れなくなっていた。
「ねぇハルくん。今日は一緒に帰らない?」
僕の席の前に立った双葉が、そんなことを聞いてくる。
長い髪が僅かに揺れて、彼女の腕をくすぐっていた。
「いや、今日はいいよ。用事があるんだ。ひとりで帰ろうと思う」
目をそらしながら僕は言う。
すぐに席を立ち上がると、双葉を避けるように教室の外へと向かっていく。
「あ、ハルく…」
「ねぇ式守さん。今日一緒に遊びにいかない?」
声をかけてこようとしていたようだけど、それより先に同級生が双葉に声をかけたようだ。
人当たりのいい彼女では、きっと振りほどくこともできないだろう。
少なくとも時間稼ぎにはなる。僕は振り向くこともなくそのまま教室を抜け出して、生ぬるい風が吹く廊下へ飛び込んだ。
「あっつ…」
校門までの道のりは、強い日差しに照らされていた。
季節は7月。もうすぐ夏休みに入るとはいえ、夕方だというのにとんでもない暑さだ。
肌にはじんわりと汗が浮かび始めており、これから先続く猛暑のことを考えると、辟易せざるを得ない。
まぁそれを差し引いても、僕はうんざりしていたわけだが。
本来自分に向けるべき怒りを責任転嫁するように、僕は上を見上げてこちらを照らすお天道さまを睨みつけた。
「なにしてるの?」
「え?」
途端、聞こえてくる誰かの声。
なんだろうと振り向くと、同時にピュウと風が吹く。
蒸し暑さを感じて目を細めるも、突風になびく銀の髪が、僕の視界をくすぐっていた。
「双葉…?」
「残念、外れ」
短い否定。女の子の声。
その子はコツコツと足音を立てながら、こちらへと近づいてくる。
双葉ではない銀色の髪の持ち主。そんな子の心当たりは、僕にはひとりしかいない。
「一葉、か」
「はい、そっちは正解」
一葉は僕の前に立つと、小さな両手を僕の肩へと置いた。
「じゃあ、ご褒美あげちゃうね」
そうしてつま先をあげると、僕の顔に自分の顔を近づけてくる。
一瞬、顔は双葉と同じだななんて、当たり前のことを考えた。
「んっ…」
そして唇が触れ合って、僕らは互いに瞳を閉じる。
一葉とのキスは、少し塩っぽい味がした。
なんか面倒になったので、書いた先から投稿するスタイルに切り替えるなり