1話 転生
「ハハハハハハハハ」
私は思わず声をあげて笑ってしまった。ついに長年の研究の末に転生の魔道具が完成したのだ。
私は魔道具を前に感無量になる。何しろこの研究に20年の歳月を費やしたのだ。
この研究のために全ての弟子をクビにしたことは今でも心が痛い。
しかし、他の者にこの研究を知られるわけにはいかんのだ。
当初は不老不死を目指したが、よくよく考えれば老いた体でいつまでも生きてもしょうがない。そういったこともあり研究は『転生』に費やされることになった。
あとは、この寝具の形をした魔道具に横たわれば転生は行われる。
私は椅子に座って心を落ち着けた。
すると、誰もいないはずの部屋に物音がした。
どうやら外からこの部屋に入ろうと扉をこじ開けているのだ。
しばらくすると扉がこじ開けられ、入ってきたのは元弟子のイルムであった。
「おひささしぶりです、ドリス師匠」
「イルム、お前には20年前に暇を与えたはずだが」
「はい、師匠。なぜ何の非もない私達が突然クビにされたのか、あれからずっと考えていたのです」
「ふん、私にお前達が必要なくなったからだ」
「はい、私達がなぜ必要なくなったのかを考えておりました。すると、ある結論に到達しました。『転生』を行うつもりだと」
「それは間違いだ。そのような研究は行っておらん」
「その寝具は何ですか?ただの寝具にしては随分魔術式が刻まれておりますが」
「フフフ、よくぞ分かったなイルム。それでどうするつもりだ?」
「その魔道具をいただきます。あなたにはここで死んでもらう」
そう言うと、イルムは刃物を取り出した。
「イルム、私は残念だ。どこか遠くで優秀な魔法使いになっているものだとばかり思っていたのに」
そして私はパチリと指を慣らした。
イルムの足元に魔法陣が浮かび上がる。
「師匠、これは?」
「お前のような奴が現れるのは予感しておった。あらかじめ罠を仕掛けてあったのだ」
「卑怯な!」
イルムの体が魔法陣に吸い込まれていく。
「これは次元の狭間に送る魔術式だ。どこに行くかは知らぬが永遠に生きることはできるぞ」
「畜生!」
イルムはそう最後に叫ぶと魔法陣に完全に飲み込まれた。
「ふう」
私は椅子に座り直すと、魔法でイルムが壊した扉を修復した。
「さて、今度こそ『転生』の儀式を行おう」
私は魔道具に横たわり、静かに目を瞑った。
その瞬間、魔道具は光に包まれた。
私が目を開けると、知らない建物の中であった。体を見ると6歳程度であろうか、子供の体になっていた。
どうやら転生は成功のようである。
私はニヤリとした。
そして体を調べた。やはり、魔力はただの子供の魔力量であった。ここから鍛えるのは少し骨であるが、時間は十分にあると言える。
そして建物を見た。かなり傷んだ小さな家であり、貧しい家のようだ。
この体の記憶を辿ると私の名はニコルと言うようだ。貧しい家の3男で、まだ幼いにもかかわらず働かされていた。
時折、私の中に違う意識が出てくる。本来の体の持ち主である本当のニコルだ。当初はこの意識を追い出そうと躍起になっていたが、どうやらそれはできないらしいため私は諦めた。
そして、本当のニコルと私は次第に融合していった。だんだんと意識は本当のニコルに乗っ取られるようになり、私は記憶だけの存在になった。とはいえ私は全く消えてしまったわけではない。ニコルに何かあったときは出てくることができそうだ。
……
……
僕は大魔法使いドリスの記憶を持つ少年となった。
そして、働きながら魔力の鍛錬を続けた。労働は虐待とも言える苛烈なものであり、僕は12歳になると同時に冒険者になるべく逃げるように家を出た。
12歳になる頃には僕の魔力量はかなりのものになり、どんな魔術も操れるようになったが、あまり目立つのも良くないだろうと、冒険者になてからは、初級の魔法しか使わなかった。もっとも、僕の魔力量だと初級魔法でもかなりの威力があるため困ることはなかった。