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第35話 “婚約者”への想い

「あ、いや……すみません!」


 愛理沙は顔を真っ赤にしたまま、慌てて由弦の手を離した。

 そして、咳払いをする。


「その、お食事も終わりましたし……プレゼントの交換をしませんか?」

「そうだね」


 由弦も少し気恥ずかしく思ってきたところだ。

 気分を変えるのに丁度良い。


 まずは愛理沙から。

 彼女は鞄から綺麗に包装された包み紙を取り出した。


「その、由弦さん。……これ、プレゼントです」

「おぉ、ありがとう。……開けて良いかな?」

「はい」


 由弦は慎重に包み紙を開いた。

 中から現れたのは……


「マフラーか」


 灰色の毛糸で編まれた、手編みの防寒具だった。

 金色の刺繍で、『YUZURU』という文字が描かれている。

 とても暖かそうだ。

 色合いも落ち着いていて、どんな服にも合わせられそうだ。

 何より……愛理沙からの思いを感じられた。


「ありがとう、愛理沙。せっかくだし、帰りはこれを着ることにするよ」


 とはいえ、今は邪魔になってしまうので由弦は丁寧に折りたたんで床の上に置いた。

 そして由弦の方も、愛理沙へのプレゼントを持ってくる。


 ブルーグリーンの紙袋を愛理沙に渡した。


「こ、これって……その、開けても良いですか?」

「どうぞ」


 愛理沙はやや緊張した表情で袋を開く。

 そして中に入っていたブルーグリーンのジュエリーボックスを開けた。


「俺が選んだモノだし、デザインの方は気に入ってくれるか、分からないけど。……どうかな?」


 愛理沙はその白い手を震わせながら、ネックレスを手に取った。

 ピンクゴールドのネックレスだ。

 あまり高価なものを贈ると愛理沙が委縮してしまうような気がしたので、決して高価な品というわけではないが……物は良い物だ。


「い、良いんですか? 私の、その、プレゼントと比べると……」


「愛理沙には普段から、弁当や夕食を作って貰ったりしているからさ。……十分に俺のバイト代で買えるような代物だから、安心しろ」


 由弦がそう答えると、愛理沙はネックレスをギュッと両手で握り、自分の胸に押し付けた。

 そして僅かに潤んだ瞳で由弦を見つめる。


「大切にします。……その、今、付けても?」

「見せてくれ」


 由弦がそう言うと、愛理沙は小さく頷き、その美しい綺麗な首にネックレスを掛けた。

 由弦の見立て通り……とてもよく似合っていた。 

 一段と、華やかに見える。


「どう、ですか?」

「綺麗だよ。……君なら、似合うと思った」

「……ありがとう、ございます」


 愛理沙は嬉しそうにはにかんだ。

 幸せそうな愛理沙を見て、このネックレスを選んで良かったと心の底から思った。





 由弦は彼女を送り届けることにした。

 手を繋ぎながら、二人で夜道を歩く。


 楽しい時間はあっという間だった。

 愛理沙の家のすぐ側まで、来てしまった。


「由弦さん、今日は……ありがとうございます。一生の思い出になりました」

「一生は大袈裟だろう」


 由弦がそう言うと……

 愛理沙は大きく首を横に振った。


「大袈裟なんかじゃ、ないです。……こんなに楽しいクリスマスイブは、本当に久しぶりです。由弦さんのおかげで、冬が……好きになったかもしれません」


「君が冬を好きになれるように努力する、というのが約束だからね」


 もっとも……

 途中からは、由弦の方が楽しむために動いていた気がする。

 愛理沙を喜ばすのが、笑顔にするのが……生き甲斐になっている自分に気付く。


「まだ冬は続くからさ。……楽しみにしていてくれ」

「はい、勿論。由弦さんとなら、冬でも……春でも夏でも秋でも、楽しいです」


 とても嬉しいことを言ってくれた。

 感慨深い気持ちが湧き上がってくる。


「俺もだよ……愛理沙。君と一緒なら、何をしていても楽しい」


 素直な気持ちを由弦は愛理沙に伝えた。

 叶うならば……ずっと、彼女と一緒にいたかった。

 別れたくなかった。


 しかし……家の前まで、来てしまった。


「由弦さん、では……私はこれで」

「ああ、おやすみ。愛理沙」

「おやすみなさい」


 別れの挨拶を交わす。

 愛理沙はゆっくりと、由弦に背を向け、歩き始めようとして……


「待ってくれ」


 気付くと由弦は愛理沙を呼び止めていた。

 愛理沙は振り返り……不思議そうに首を傾げた。


「どうしましたか?」

「……」


 どうして呼び止めてしまったか、由弦にもイマイチ、分からなかった。 

 ただ……おそらく、別れたくなかったからだろう。

 彼女と一緒にいたかったから、呼び止めてしまった。


 しかしこの真冬に長時間、彼女を留め続けるわけにもいかない。


 だから……


「その、愛理沙」

「はい」

「一つ、お願いがあるんだ」

「何ですか?」

「……抱きしめて、良いかな」


 彼女の肌をもっと感じたかった。

 別れる前に、その暖かさと柔らかさを、自分の体に刻み込みたかった。


 由弦のそんな願いに対し、愛理沙は一瞬驚いた様子で目を見開いた。

 が、しかしすぐに翡翠色の瞳を細めた。

 柔らかく微笑む。


 その肌は薔薇色に染まっていた。


「良いですよ」


 愛理沙はそう言って、両手を広げた。

 由弦は吸い寄せられるように彼女に近づき……大きく両手を広げ、抱きしめた。


 暖かかった。

 柔らかかった。

 美しい亜麻色の髪からは、とても良い香りがした。

 

 ドクドクと、全身の血流が激しく流れる。


「もう、良いよ。愛理沙」

「……そうですか」


 名残惜しい気持ちを無理矢理抑え込みながら、由弦は愛理沙を解放した。

 彼女の顔は……真っ赤だった。

 由弦も同様だろう。


「じゃあ、改めて。また今度」

「はい、また今度」


 由弦は愛理沙が家へと入るまで、しっかりと見送った。

 そして踵を返し、夜道を歩き始める。


 空を見上げると、星が輝いていた。

 思わず、ため息をつく。


「困ったな……」


 そして由弦は愛理沙から貰った、マフラーを両手で掴んだ。

 体にはまだ、愛理沙の温もりが残っている。


 愛理沙が……欲しい。

 滅茶苦茶にしたい。

 独占したい。

 

 彼女の料理も、マフラーも、愛情も、笑顔も、怒った顔も、照れた顔も、泣き顔も、その美しい瞳も、ふっくらとした唇も、きめ細やかな髪も、白磁のような肌も、柔らかな肢体も、その服の下にある秘めた部分も……

 何もかも、自分の物にしたかった。

 他の男には、何一つ奪われたくないと、思った。


 だから……


「すまない、愛理沙。……決めたよ。俺は、必ず、どんな手段を使っても、君を手に入れる」


 由弦は静かに宣言した。


というわけで、二章は終わりです。

次回から三章になります。

由弦君も本気になりました。今までは由弦君は愛理沙からの砲撃を受けるだけでしたが、これからは反転して、全面攻勢に移ります。

告白されたい愛理沙ちゃんと告白したい由弦君の頭脳戦()が繰り広げられます。

由弦と愛理沙の恋の行方がどうなるか、期待しているという方はブックマーク登録、評価(目次下の☆☆☆☆☆を★★★★★に)をしていただけると幸いです。









愛理沙真デレ度:100%→120%

由弦本気度:90%→120%



真デレ度「いつからこれが最終形態だと錯覚していた?」

というわけで次回からは「真デレ度」を改め、「新デレ度」で行きます。


今までの「真デレ度」は「この人となら夫婦になっても良い。一生を添い遂げても良い。この人の子供なら産んでも良い」という感じでしたが、「新デレ度」は「この人と夫婦になりたい。一生を添い遂げたい。この人の子供を産みたい」です。若干、重い感じになります。

また0からのスタートですね。


デレ度が気になる、楽しみという方はブックマーク登録、評価(目次下の☆☆☆☆☆を★★★★★に)をしていただけると更新の励みになりますので、よろしくお願いします




それと現在、三章を鋭意執筆中ですが書き溜めがまだ完全ではありません。

三章すべてではないにせよ、相応の量ができていないといろいろ不安なので、書き溜めが終わるまでは若干、更新が滞るかもしれません。

まあ、とりあえず三日後には更新できるようにしたいと思います(努力目標)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 120%になったんだから フィーバーモードに 突入するんですよね(期待の眼差し
[良い点] 少しずつ関係が進んでる感じ。途中端折らず、丁寧に重ねているように感じます。 [一言] 更新楽しみにしてます。寒さがキツかったりなんだりするので、体調にはお気をつけてー
[気になる点] ん?YUZURU? ゆづるでしたよね?ゆずるじゃないですよね? あれ、もしかして今までずっと読み間違えてました?
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