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お見合いしたくなかったので、無理難題な条件をつけたら同級生が来た件について【第八巻 スニーカー文庫より3/1発売!】  作者: 桜木桜
第八章

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第25話

 新婚旅行を終えた由弦と愛理沙は、日本で家族と最後の時間を過ごしてから再びアメリカに渡った。


 新生活の始まり……と言っても、住む場所は大学院生であった頃と変わらない。

 愛理沙は同じ大学の博士課程に進んだので、通学先も同じだ。


 変わったのは今年から就職した、由弦だけだ。


「……ただいま」

「お帰りなさい、あなた」


 夜の二十一時。

 愛理沙は仕事から帰ってきた由弦を玄関先で出迎えた。


 ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも私?

 そんな定番の文句を口にしようと考えていた愛理沙だが、由弦の顔を見てやめた。


 思っていたよりも由弦が疲れていそうに見えたからだ。

 

 疲れている人をベッドに誘うことはできない。

 たとえ、それが冗談だとしても。


「ご飯、温めますから。お風呂に入ってきてください」


 愛理沙は由弦からコートを受け取りながらそう言った。

 新生活が始まって、もう二か月。

 もうすぐクリスマスだ。


「ありがとう」


 由弦は短くそう答えると、風呂場に直行した。

 由弦が湯に浸かっている間に、愛理沙は食事の準備に取り掛かる。


 もっとも由弦に言った通り、料理はもう完成している。

 後は温め直すだけだ。


「ビーフシチューか。美味しそうだね」


 風呂から上がった由弦は愛理沙にそう言った。

 先ほどより、少し顔色が良く見えた。


 愛理沙は少しだけ安心する。


「はい。食べましょう」

「うん。……いただきます」

「いただきます」


 二人は食事を始める。

 今日、大学であったこと。

 仕事でしたこと。

 互いに報告し合うように、二人は話をした。


「申し訳ないな」


 ポツリと由弦は呟くように言った。

 愛理沙はビーフシチューを食べる手を止めた。


「何がですか?」

「……君にばかり、家事をさせてしまっているだろう? それに今日も待ってもらったし」


 由弦はため息混じりにそう言った。

 学生・院生だった頃、二人は家事を分担していた。


 しかし今は食事も掃除も洗濯も、愛理沙が一人でしている。

 由弦が帰ってくるのが遅いからだ。

 そのせいで愛理沙が食事をするのも遅い時間になってしまっている。


「自分よりも疲れている人、忙しそうな人に仕事はさせられませんよ」

「……君だって、大変だろう? 勉強とか、論文とか」

「今の由弦さんほどではありません」


 もちろん、愛理沙も博士課程に進んだことでより忙しい日々を送っている。

 だが、由弦と比較すると自由な時間は多いし、融通も効く。


「夫婦は支え合うものです。……違いますか?」


 家事の分担は大切だが、平等に二等分する必要はない。

 どちらかの体調が悪かったり、忙しいなら、もう片方がその分やれば良いだけ。 

 それが本当の意味での分担だと、愛理沙は考えていた。


「うん……今は俺が一方的に寄りかかっているような……」

「由弦さんはその分、働いてくださっているのですから。そんなことはありません。……由弦さんが働いているおかげで、私も進学できているわけですし」


 愛理沙が博士課程に進学するという道を選択できたのは、由弦がいるからだ。

 由弦が働いているから、安心して学業に専念できている。

 それを踏まえれば、由弦の分、家事を受け持つのは当然のことだと愛理沙は考えていた。


「そう言ってもらえるとありがたいけど……」

「……けど?」

「二人の時間も減っているじゃないか」

「あぁ……」


 由弦の言葉を、愛理沙は否定できなかった。


 実際、結婚前よりも二人で過ごす時間は減っている。

 由弦が帰ってくるのが遅いからだ。


「私は大学、由弦さんがお仕事。……生活環境が変わったんですから、それは仕方がないでしょう?」


 とはいえ、仮に由弦が帰ってくるのが早くとも、どのみち二人の時間は学生時代よりも短くなっていることは変わらない。

 むしろ、今まで一緒にいる時間が長すぎたのだ。


「でも、少し寂しいので……早めに帰れるなら、そうして欲しいです」


 愛理沙が微笑みながらそう伝えると、由弦は大きく頷いた。


「あぁ、分かっている。今は……仕事が覚えたてで、一番忙しい時期だから。もうしばらくしたら、早く帰れると思う」


「無理はしないでくださいね」


 愛理沙は由弦を安心させるように、そう伝えた。

 仕事と家庭で板挟みになり、苦しむ。

 由弦のそんな姿を見たくなかった。


「うん、ありがとう」


 愛理沙の気遣いに由弦は感謝の言葉を伝えた。




 その日、二人は一緒に寝た。

 ただ一緒にベッドに入っただけ。

 静かな夜だった。


(ちょっと、物足りないなぁ……)


 先に寝入ってしまった由弦の横顔を見ながら、愛理沙は内心でため息をついた。

 朝と夜しか由弦と話せないのは辛いことだが、しかしそれ以上に甘い夜を過ごせないのが、とても寂しかった。


 少し満ち足りない。

 

 これが当たり前になってしまうのだろうか? 

 そう思うと愛理沙は少し将来が不安になった。


(さすがにクリスマスは一緒に過ごせるよね? ……よし、決めた!)


 クリスマスはたっぷり甘え、たっぷり甘やかそう。 

 愛理沙はそう決意した。

 


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