表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

178/252

第8話 婚約者と誕生日

 愛理沙がアルバイトを初めてからしばらくが経過した……

 十月初旬頃。


「どう? 愛理沙」

「はい。……ちゃんと引き出せました」


 封筒を手にしながら愛理沙は嬉しそうに微笑んだ。

 そう、今日は由弦と愛理沙の給料日だ。


「ところで……今までの給料も含めてだけど、何に使っているんだ? 貯金?」


 由弦は愛理沙に尋ねた。

 お金は使わなければ意味がない。


 もちろん、貯金という選択肢もあるが……

 所詮、高校生のアルバイトで稼げる金額なんて大した額ではない。

 大人になってからいくらでも稼げることを考えれば、貯金せずに使った方が得である……と由弦は考えていた。


「え? あぁ……いえ、今のところ、特には……」


 由弦の問いに愛理沙は歯切れ悪そうにそう答えた。

 何となく由弦は愛理沙が嘘を言っているように聞こえた。


(……もしかして?)


 ふと、由弦は愛理沙のお金の使い道について思い至る。

 とはいえ、それが真実だとすれば、あえてそれを指摘するのはあまりにも野暮だ。


「……好きな物を買ったり、食べたりするといいんじゃないか?」

「そ、そうですね! そうします」


 由弦の言葉に愛理沙はこくこくと頭を縦に振り……

 どこかホッとしたような表情を浮かべた。


 そんな愛理沙の態度に由弦は増々、確信を深めた。






 さて、それから一週間が経過した十月中旬頃。

 その日は由弦の……誕生日だった。


「由弦さん。今日の放課後は……大丈夫ですよね?」


 下校時、愛理沙は由弦にそう尋ねた。

 由弦は頷く。


「もちろん。空けてあるよ」


 元々、由弦は愛理沙から「誕生日にデートをしたいので、できれば予定を空けて置いてほしい」と言われていた。

 愛理沙以上に優先する相手はいないので、由弦は言われるままにその日の予定を空けておいたのだった。


「愛理沙がデートプランを考えているという認識でいいんだよね?」


 由弦は特にどのようなデートをするのか、考えていなかった。

 誕生日だからといって特別にはしゃいだりするような年齢ではないし、そもそも自分の誕生日をどうやって祝ってもらおうかと考えるのもおかしな話だ。


 そこで愛理沙の方から「デートをしたい」と言われたので、当然愛理沙が考えてくれているのだろうと由弦は思っていた。


「はい、もちろんです。一先ず、これを……」


 愛理沙は懐から一枚のチケットを取り出した。

 それは最近ネットでいろんな意味で話題になっている映画のチケットだった。


「なるほど、まずは映画か」


 王道なデートプランだ。

 しかし……


(よりによってサメ映画か? ……別に嫌ではないけど)


 由弦が内心で苦笑していると、愛理沙は首を左右に振った。


「あぁ、いえ、違います」

「……え?」

「それで時間を潰してきてください」

「……はい?」

「映画には一人で行ってください。その間に……準備します。お台所、貸していただけますか?」

「な、なるほど……」


 どうやらデートそのものは由弦の部屋で行うらしい。

 料理やケーキを作り、もてなしてくれるということなのだろう。


「では、私は一足早く、由弦さんのご自宅に行きます。由弦さんは映画を見てから、帰って来てください。あと、ポップコーンとかは食べちゃダメですからね?」


「あ、あぁ……分かった」


 由弦が頷くのを確認すると、愛理沙は早足で掛けていく。


「……これ、見ないといけないのかな?」


 一人残された由弦はチケットを見ながら……一人ぼやくのだった。





「意外と悪くなかったな……」


 ゾンビサメにのった宇宙人が地球を侵略しに来るという映画を見終わった由弦はそんな感想を抱きながら映画館を後にした。

 

 面白かったとは決して言えなかったが、しかし退屈はしなかった。

 二回目を見たいとはさすがに思えなかったが……


「さて、帰るか。しかし……愛理沙は何の準備をしているんだ?」


 由弦は首を傾げた。

 ただ料理やケーキを作り、出迎えてくれるという話なら、わざわざ映画館のチケットを入手してまで由弦を外に追いやる必要はない。


(愛理沙がアルバイトを始めたのは、多分、俺にプレゼントを買うため……くらいには予想はしていたんだけど)


 由弦は今まで愛理沙にいろいろとプレゼントをしてきたが、それは由弦自身が働いて稼いだお金で購入したものだ。

 故に愛理沙も、自分自身が働いて稼いだお金でプレゼントをしなければ釣り合わない……と考えること自体は、愛理沙の性格から予想することは簡単であった。


 それ自体がサプライズだし、愛理沙の気持ちが込められているので、由弦としては十分以上に嬉しいのだが……

 さらにそれに上乗せするようなサプライズがあるのだろうか?

 果たしてそれはどのようなものか?


 などと、由弦はいろいろと思案を巡らせているうちに、由弦は自宅の前に到着した。

 

「入る前にメールしてくれ、だったかな?」


 由弦は携帯を取り出し、「今、玄関の前にいる」と短い文章を打ち込んだ。

 するとすぐに既読が付き、「入っていいですよ」と返信が来た。


「……ただいま」


 由弦はゆっくりと、扉を開いた。

 すると目に飛び込んできたのは……



 モノトーンカラーのエプロンドレスに身を包んだ、亜麻色の髪の美少女だった。

 少し短めのスカートの端を摘み、恭しく頭を下げ……



「お帰りなさいませ。ご主人様」



 いわゆる“メイド服”を身に纏った愛理沙は、由弦に向かってそう言った。

最新刊、六巻は一月初旬に発売予定になっています。

情報については今後、出して良ければと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 何そのC・・・B級映画観てみたいw
[一言] 今日一日はあなたのメイド、ですか/w 彼にとっては夢だろうけれど。どこまでご奉仕してくれるのかなぁ
[良い点] 結構、大変に結構w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ