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第2話 婚約者と初めての喧嘩

(……由弦さん、謝ってくれればすぐに許してあげるのに)


 雪城愛理沙は自分の婚約者である、高瀬川由弦に不満を抱いていた。

 二人があることを切っ掛けに喧嘩をしたのが、数日前のこと。


 以来、由弦と愛理沙はまともな会話をしていない。


(もう、意地張って……)


 愛理沙は自分は悪くないと思っている。

 悪いのは酷いことを言った、酷いことをさせようとする由弦だ。


 そう信じている愛理沙は少なくとも自分から謝ろうとは思っていない。

 しかし謝ってくれるのであれば、許してあげようと思っていた。


 きっとすぐに由弦は謝ってくれると、分かってくれると思っていた。


(いや、でも、やっぱり私から……)


 しかしここまで由弦が“謝ってくれない”のは愛理沙にとっては予想外だった。

 

 すでに愛理沙はかなり焦れていた。

 たった数日ではあるが、由弦と過ごせない日々はとても寂しかったのだ。


 加えて言いようもない不安、焦燥感にも駆られている。


 ……こうしている間に由弦が自分以外の女の子に靡いてしまうんじゃないかと。


(で、でも……)


 しかし今回に限って、自分の非を認めるのは、愛理沙にとってはとても難しいことだった。

 なぜならそれは由弦の主張の正しさを認めることに繋がるからだ。


 愛理沙が絶対に嫌なことを、したくないことを、しなければならなくなってしまう。

 それだけは愛理沙は避けたかった。


 由弦との仲直りと天秤に掛けても、尚も迷ってしまうほど愛理沙にとっては嫌で、辛いことなのだ。


(別に謝らなくても、一緒にお昼を食べるくらいなら……)


 実は由弦への弁当を作って来ていた愛理沙は、ついに決心して立ち上がった。

 由弦に声を掛けようとして…… 


「あーりーさーちゃん!」

「あそびまっしょ!」


 突然、何者かに胸を揉まれた。


「っきゃ!」


 思わず愛理沙の唇から悲鳴が漏れる。

 振り向くとそこには愛理沙の友人……橘亜夜香と上西千春の二人がいた。


「な、何なんですか!?」


 愛理沙が顔を赤らめて尋ねると、もう一人の少女が答える。


「一緒にお昼でも、と思って」


 天香は亜夜香と千春の二人を愛理沙から引き離しながらそう提案する。

 彼女たちの提案に対し、愛理沙はしばらく考えてから……


「……分かりました、いいですよ」


 頷いた。






「いやぁー、私も料理には自信あるけど……愛理沙ちゃんも中々だね?」

「和食じゃ勝てませんね」

「この里芋の煮っころがし、美味しいわね」


 亜夜香たち三人は愛理沙の作った弁当を食べながらそう言った。

 愛理沙が由弦のために――由弦が謝ってきたら、食べさせてあげようと思っていたのだ――作った弁当だ。


 このままでは無駄になってしまうと考え、三人に振る舞ったのだ。


「ええ、それほどでも……」


 料理を褒められるのはやはり嬉しい。

 愛理沙は表情を緩めるが……


「こんな美味しいお弁当を毎日、食べられるゆづるんは幸せものだねぇ」

「……」


 亜夜香の言葉に愛理沙は表情を曇らせた。

 そんな愛理沙の分かり易すぎる態度に三人は顔を見合わせる。


「愛理沙さん……どうして喧嘩したんですか?」

「へ……!? な、何のことですか? ゆ、由弦さんと私は喧嘩なんて、してないですよ!?」


 千春の単刀直入な問いに対し、愛理沙はあからさまに動揺した。

 そんな愛理沙に天香は苦笑いを浮かべながら……


「……誰も由弦君とあなたが喧嘩したとは、言ってないと思うけれどね?」


 そう指摘した。

 誤魔化せないと観念した愛理沙は小さく肩を下ろす。


「……何があったの? 愛理沙ちゃん」


 亜夜香は優しい声音で愛理沙にそう語り掛けた。

 愛理沙は少し迷った表情を浮かべ……


「……相談に乗って、くれますか?」


 上目遣いで尋ねる。

 すると三人は……


「「「もちろん」」」


 揃ってそう答えてくれた。

 愛理沙は少しだけ心が軽くなるのを感じた。


「些細なことなんですけれど……」

「うん、うん」

「喧嘩の切っ掛けはそういうものです」

「それでそれで」


 愛理沙は少しだけ言い淀んでから答えた。


「その何と言うか、私がしたくないことを、由弦さんはして欲しいみたいで……」 


 愛理沙のその言葉に三人は揃って額に手を当てて、天を仰いだ。

 ――あの童貞、やらかしたかぁ……――


 そんな表情だ。


「由弦君が、ねぇ……紳士なイメージがあったけど……」

「まあ、所詮は男だよ、男」

「悪い意味で遠慮がなくなってしまったのかもしれないですねぇ」


 天香、亜夜香、千春は揃ってそう考察した。

 三人の言葉に愛理沙は頷く。


「はい、それで……私、イヤって言ったんですけれど、由弦さんはどうしてもして欲しいというか……私のことを少し揶揄ったりしてきて……それで喧嘩になっちゃったというか……」


 愛理沙はポツポツと経緯を話していく。

 話しているうちに思い出してしまったのか、その表情は酷く辛そうだ。


「ぐすっ……私、嫌なのに……」

「……ゆづるんは何を要求したの?」


 少し怒った表情で亜夜香は愛理沙にそう言った。

 こんな可愛い女の子を悲しませるなんて! と義憤に駆られているようだ。


「そ、それは……」


 愛理沙は口を開く。

 そして偶然にも……


 丁度、友人たちと昼食を食べていた由弦と、全く同じタイミングで言った。






「流行前にインフルエンザのワクチンを打てって……」

「インフルエンザワクチン、打ちたくないって言うんだよ」






「「「「「……は?」」」」」




「だから、注射ですよ。注射!」

「注射、怖いって言うんだよ! いい年して!」

 

何と言うか、反ワク愛理沙ちゃんというワードが降りてきたんですよね

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん、まあねえ。fluじゃねえ… そりゃ愛理沙の方が分が悪そう/w
[一言] インフルエンザワクチンは私は打っておく派なのですが、打ちたくない気持ちも分かるのでなんとも。どちらも悪くはないけどそれ故周りは気まずいですね。 どうなることやら。
[一言] ワクチン打ったらかかる方の人間だからどっちでもいいとは思うけどなぁ。 リア友にそれを言われたら「は?」じゃなくて大爆笑すると思う。私は。
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