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第12話 愛理沙のバイト相談(頼りになる婚約者編)

今日、9月1日が二巻の発売日です!

「由弦さん……私、その……アルバイトをしてみたいんです」

「……アルバイトを?」


 愛理沙の唐突な言葉に由弦は思わず首を傾げた。

 

 アルバイトをしてみたい。

 と、それをそのまま受け取れば「アルバイト」をやってみたいというだけだが……実際には二通りの解釈ができる。


「それはお金が欲しいということか? それとも……働いてみたいみたいな?」


 由弦の場合は後者の気持ちの方が強い。

 ……本当に心の底からお金に苦労したような経験はないし、今後もないだろう。


「えっと……そうですね。由弦さんを見習って……少し働いてみたいなと思いまして」

「うーん……」

「……ダメですか?」

「いや、ダメではないが……」


 由弦は腕を組み、少し考えてから答えた。


「こういう言い方はあまり良くないかもしれないけど……所詮、アルバイトだぞ? 特に学べることはあまりないというか……社会に出れば遅かれ早かれ学ぶことだし、大学生になってからでも全然遅くはないんじゃないか?」


 学生の本文はあくまで学業だ。

 高校生のうちは勉強に、特に受験勉強や部活動に力を入れるべきだろう。


「でも、由弦さんは働いていますよね?」

「お遊びみたいなものだよ」


 マンションの家賃、光熱費、交際費……それら全てを捻出して余りあるだけの余裕が由弦の両親にはある。

 そもそも由弦は実家から学校に通うこともできるのだ。

 では、なぜアルバイトなどをしてまで一人暮らしをしているかと言えば、端的に言えば遊びである。

 

 由弦自身、そのことは大いに自覚している。


 さて、一方の愛理沙はと言うと……


「その……正直に言うと、お金が欲しいというか、買いたい物があるんです」


 ようやく、建前ではなく本心のようなものを語った。

 そこでふと、由弦は愛理沙の家のお小遣い制度を思い出す。


 愛理沙の家は用途別支給制である。


 つまり月に定額を貰うような形ではなく、欲しい物があった時に必要な金額を貰う……そういうシステムになっている。


 おねだりが上手な子供にとっては、無制限のお小遣いがあるようなものだが……愛理沙の立場と性格を考えると、必要最低限の物しか買えないような、そんな制度だ。


 今はかつてほど不利な立場に立たされているというわけではないようだが……

 しかし言い出しづらい面は変わらないかもしれない。


 もしくは……


(……あまり大きな声で言えないような物を買いたいとか?)


 例えば薄い本のような物は、親に買いたいとは言い辛いだろう。

 愛理沙に限ってそんなものを買いたいと思っているはずがない……と言いたいところだが、由弦は愛理沙が完璧とはほど遠い人間であることを知っている。


 ちょっと、変な物の一つや二つくらい、買いたいと思っていてもおかしくない。


「ちなみにどういう物を買いたいんだ?」


 興味本位に由弦が尋ねると……

 愛理沙は何故か慌てた様子で首を大きく左右に振った。


「い、いえいえ! その……大したものじゃ、いえ、大したものじゃないわけではないんですけれど……えっと、その……由弦さんには、秘密です!」


「……そうか。まあ、深くは聞かないけど」


 そこまで慌てて聞かれると、由弦も少し気になってくる。


(……凄くエロい下着とか?)


 由弦は凄くエロい下着を着ている愛理沙を想像し……慌てて頭を振って、妄想を振り払う。

 予想ではなく、願望になってしまっている。


 そもそも別にエロい下着を買うのには、アルバイトは必要ない。

 保護者には「衣服代」と言って請求すれば良いだけだ。


(まあ……俺への誕生日プレゼントとか、クリスマスプレゼントとか……そんな感じかな?)


 そんな予想を立てた上で由弦は尋ねる。


「それでアルバイトというのは……俺に紹介してくれということか?」

「はい。ご迷惑でなければ……ですけれど」


 なるほどと、由弦は頷いた。

 正直なところ、由弦のアルバイト先は基本的に両親のコネであり……由弦の一存だけでどうこうできる問題ではない。


 高校生は法令の問題でシフトにも制限があるため、雇う側への負担も増えるだろう。

 しかし……


「え、えっと……難しいのであれば、大丈夫ですよ? 自分で探すので……」


 由弦はじっと、愛理沙を見つめる。

 美しい亜麻色の髪に、翡翠色の瞳。

 白磁のように白い肌に、ふっくらとした唇、長い睫毛、整った顔立ち。

 すらっと長い手足に、大きく膨らんだ胸部と臀部。


 ……どこをとっても魅力的な婚約者だ。


 こんな可愛らしい婚約者を、果たして由弦の目の届かないようなアルバイト先に放り込んで良い物か。

 いいや、いいはずがない。


 世の中には悪い人が大勢いるのだ。

 愛理沙のような可愛らしい女の子は、何もしていなくとも、良くない虫が近づいてくるだろう。


 もしそれで愛理沙が傷つくようなことがあれば……由弦は悔やんでも悔やみきれない。


 できれば、由弦の手の届くところに置いておきたい。


「……愛理沙!」

「きゃっ! な、何ですか!?」


 由弦は大きく両手を広げ、愛理沙を抱擁した。

 一方で突然、抱き着かれた愛理沙は目を白黒させた。


「俺がやっているアルバイトのうち……多分、レストランのアルバイトは紹介できると思う。今はキッチンが足りてないという話だったし……それでも良いなら」


「本当ですか! 是非、お願いします」


 由弦の言葉に愛理沙は嬉しそうな声を上げた。

 しかし由弦はそんな愛理沙をより、強く抱きしめた。


「……だけど、お願いがあるんだ」

「……お願いですか?」


 由弦は僅かに体を放し、愛理沙の顔をじっと見つめる。

 一方、由弦に見つめられた愛理沙は少し恥ずかしそうに顔を赤らめ、目を逸らした。


「な、何でしょうか……?」


 愛理沙は瞳を潤ませ、艶やかな唇を震わせながら尋ねる。

 白い喉が緊張で僅かに動く。


「俺の知らないところで、アルバイトはしないでくれ」

「……え?」

「だから、俺の知らないようなところで、勝手に一人でアルバイトをするような真似は絶対にしないでくれ」


 予想していなかった由弦の要求に愛理沙は呆気にとられた様子を見せた。

 由弦がさらに続けて愛理沙に要求する。


「あと、シフトも極力、俺と合わせて貰うから。そのつもりでいてくれ」

「え、えっと……は、はい。分かりました……」


 こくりと、愛理沙は小さく頷いた。 

 それから由弦に尋ねる。


「その……もしかして、それって……心配してくれているんですか?」

「……まあ、そうだね。それもあるし……」

「あるし……?」


 愛理沙が聞き返す。

 由弦は少し考えてから答える。


「独占欲、かな……?」

「ど、独占……」

「君が俺の知らないところで、俺の知らないような人……男と、話しているようなことがあるのは、嫌だ。……君は俺の、俺だけの婚約者なんだから」


 由弦の言葉に愛理沙の頬が真っ赤に染まった。

 耳まで朱色に染めた愛理沙は恥ずかしそうに顔を俯かせ、それから小さく頷いた。


「は、はい……分かりました。私は……由弦さんの、由弦さんだけの、婚約者です」


 それから愛理沙は由弦の顔を見上げる。

 どこか、物欲しそうな表情で……じっと由弦を見つめる。


「……どうした、愛理沙?」

「い、いえ……何でもないですけど……」


 どこかホッとした様子で、しかし残念そうに愛理沙は目を逸らした。

 そんなに愛理沙に対し、由弦は……


「……ぁっ」


 唇を押し当てた。

 唇と唇が重なり合う。


「これが欲しかった?」

「……知らないです」


 愛理沙はどこか拗ねた様子で頬を膨らませた。







今日は二巻の発売日です!

もっとも、早売りなどで昨日の時点ですでに書店に一部出回っていたかもしれません。


このシリーズを長く続けていくためにも二巻の売上は非常に重要になってきますので、ご支援をよろしくお願いいたします。

特に今回は書籍版限定のSSちょいエロがあります。WEB版では読めないエピソードとなっていますので、興味のある方は是非。


以下、特典情報。数量に限りがあるので、確保したい方は予約等をすることをお勧めいたします。

書籍版限定エピソード(書籍・電子共通)

「お泊りの時にもし落雷がもう少し本気を出していたら」

アニメイト

SS「ガールズトーク(愛理沙・亜夜香・天香・千春ver)」

ゲーマーズ

SS「愛理沙ちゃんのホラー修行」

限定版 アクリルフィギュア

メロンブックス

SS「ガールズトーク(愛理沙・芽衣ver)」

タペストリー

とらのあな

SS「食べ過ぎ注意」

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― 新着の感想 ―
[一言] これかあ、これがいいのかあって? まあ、厨房でもまだ不安だろうけど、ホールで接客でもされていたらと。そう思うと目の届く所に置いておきたい、という気持ちは当然だろうなあ。 2巻発売おめでと…
[気になる点] 細かくてすみませんが、仕事をお遊びみたいなもの、は主人公が不誠実に見えてしまうので別の表現のほうが良いのではないでしょうか。
[一言] ゆづるんてば最近情熱的になってきたな
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