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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その12 バースディプレゼント

作者: 天城冴

突如発生した新型ウィルスが世界中に広がり、ニホン国では対応の遅れから感染拡大、各国から逆封鎖され必要物資も滞り、毎日のように国民が死んでいった。その一方で首相をはじめ与党議員らは自給型タワーにこもって日々を謳歌していたが…。

20XX年、ニホン国

突如として発生した新型ウィルスが世界に蔓延。各国は必死に封じ込めとワクチン、治療薬の開発に急いだ。各国の努力の成果か、感染拡大は沈静化しつつあったが、ここニホン国ではいまだに多くの国民が苦しんでいた。


「うう、ゴ、ゴホ」

急遽、増設された仮設病院の簡易ベッドで、苦しむ40代半ばの男性。そばについていた妻はマスクもせずに叫ぶ。

「しっかりしてアナタ、ああ先生、治療薬は!」

「まだです、まだ開発中…」

若い医師は疲れ切った顔で力なく答えた。日に何十回同じ質問をされ、そのたびに失望した家族が泣き叫び、患者が死んでいく。だが、患者が途切れることはない、家族、看護にあった人、医療関係者までが次の患者になっている。

「そんなこと!他国ではもう国民に配布されているっていうのに、なんでわが国だけ」

「渡航禁止どころか輸出入も事実上禁止されたわが国では入ってきません。しかも患者が多すぎて、物流や工場の関係者もほとんどおらず、必要な薬どころか食糧栄養剤も運ばれず…」

「ああ、政府の対応が後手に回ったばっかりに、ニホンは新型ウィルスの蔓延国になってしまったのね!この国は崩壊したも同然じゃない!それなのに政府の連中ときたら!」

「政府関係者は感染を避けるために例のタワーにいます。。緊急事態が宣言され、政府中枢だけでも守ろうということだそうで。野党の議員たちは残って対応しているともいますが、なにぶん物資も不足して…、コホッ」

医師が咳込む。

「研修医とはいえ、お医者さんまでかかってしまうなんで!私も危ないって言われてているけど、どうしようもないわよ!マスクも手袋も消毒液もない、食べ物すらろくにない!人工呼吸器なんて、もう普通の国民では使ってもらえない!誰のせいで…」

女性は恨めしそうに空を見上げた。雲の合間にそびえたつ高層ビル、研修医の言っていたタワーだ。政府の関係者、首相と与党議員とその家族、官僚たちが籠っているという完全自給型超高層マンションだ。

「国民の苦しみなんて、あの連中にはどうでもいいのね…」


そのマンションの一室では華やかなパーティーが催されていた。

「ヨネダレイミ議員、61回目の誕生日おめでとうございます!」

「ヨネダ君、おめでとう」

与党議員や、家族、首相からお祝いの言葉を述べられヨネダはご満悦の様子だった。

「ほほほ、ありがとう。こんなときに~って言われるかもしれないけど、こんなときだから明るいことをやらなきゃねえ」

「大丈夫、文句をいうような野党の奴等はタワーに来なかったんですから。国民を助けるとか言って、今も地上の感染地帯で右往左往してるし」

「政府中枢さえ守れれば、国なんてどうとでもなる。ペストの時だって王たちは城壁にこもったというじゃないか」

側近や首相の言葉に、ヨネダは安心したように

「そうですわね、ここにいれば安全。食料は下の階の野菜工場や合成肉工場で生産できるし、太陽光他バイオマス発電も完璧。いざという時のために補正予算で作っておいたかいがありましたわ」

ヨネダを見て首相ほか与党議員たちも満足そうにうなずく

「そうそう、このアイデアはよかった。自然災害や原発事故など思わぬことが起こった時、地上では危ないし」

「野党だの市民団体だのからクレームがつきかねない。だから政府関係者のみ入れる自立型タワーを作ったんだ、都市生活の新モデルと宣伝して予算もつきやすくしたし」

「まあ、ウィルスが来る前に完成してよかったですわ。災害復興とかで人手が不足っていうのを災害に役立つからってこっちに回したから、なんとか完成しましたわ」

「ああ、でも、窓がなかなか開かないのはちょっとねえ。たまには外の空気も」

「風がつよすぎるのでは?それに外ではウィルスが蔓延しているんじゃ」

「なあに、ここまで高ければウィルスもこないさ。第一、我々はワクチンを打っている」

「そうですわね、ほんの少ししか輸入されなかったから、我々だけ秘密裏に。他に知られたら、野党どもが何をいうかわかりませんから」

「まあ、とにかく大丈夫だろう。ふーやっと開いた」

ガタッ、首相は苦労してガラス戸を開いた。

その途端!

プウウウー

バサッバサッ

突風と何かが入ってきた。

「え、は、鳩?」

真っ白い鳩がテーブルの上でバタバタともがいている。柔らかな羽根が宙を舞う様子にヨネダは目を細め

「まあ、キレイ、飼ってみましょうか」

「そうだねえ。誰かが飼っていた鳩みたいだ、手入れされているようだし」

「わたくしの誕生日に来てくれたんだから、天からの贈り物ねえ」

ヨネダが鳩に触ろうとすると、鳩はおとなしくすり寄ってきた。

「本当にかわいい」

うっとりするヨネダ。鳩はつぶらな瞳でヨネダをみつめた。


「きゃあああ、鳩ちゃんが、し、死んでる」

誕生パーティーから3日後の朝、ヨネダは悲鳴をあげた。

狭い鳥かごの床に鳩が横たわっている。よほどもがいたのか、羽根が籠の外の絨毯にまで散らばっていた。

「ま、まさかウィルス、でも私たちはワクチン、ゴホっ」

と、ヨネダは思わず咳込んだ。口を覆った手のひらには

「ち、血!」

ヨネダは青くなった。そういえばなんだかだるい。夫や子供も昨日からけだるいようなことをいっていた。それに早起きの夫がまだ起きてこないなんて。ヨネダは急いで夫や子供の寝室に向かおうとしたが、足がもつれてしまう。ようやく部屋にたどりつき、夫のベッドにかけよると

「ああ、そんな!」

すでに息絶えていた。苦悶の表情で、胸のあたりに何度もかきむしった跡がみられた。

「こ、子供たちは」

半泣きになりながら、子供の寝室のドアを開けると、

「ああ!」

彼らもすでに冷たくなっていた。

「なぜ、どうして!あの鳩ちゃんからウィルスが入ったって、私たちはワクチンを」

ブーン

非常用の放送が入った。

『緊急事態、部屋から絶対に出ないでください。皆さん何が起ころうと部屋から絶対に出ないでください』

「人が、夫と子供が死んでるのよ!それなのに出ないでくださいなんて!」

ヨネダはスピーカーに向かって叫んだ。

『ビル内にウィルスの感染者とみられる死者が確認されました、死亡したのは…』

首相、与党の議員たち、みなヨネダの直接の知り合いだ、しかも

「私のパーティーに出席した人達…。や、やっぱり鳩ちゃんのせい?でもワクチン」

『このウィルスは初期の新型ウィルスからかなり変異しており、ワクチンを打っていても役にたちません。そのうえ、かなり重症化し、死亡する確率が…ゴボッ。わ、私もあああ…』

スピーカーからの声が聞こえなくなった。

「もっと、ひどくって、死んじゃうの?私。鳩ちゃんに触ってない人もいたのに死んだのは空気…ゴボッ、かん…ゴボゴボ、せ…ん…」

咳込みながら倒れるヨネダ。寝巻のまま誰もいない廊下をのたうち回り、やがて彼女は息絶えた。

完全自給型の高層ビルは空気も循環しており、やがてウィルスは各階にひろがってゆき、地上と同じく感染者たちがなすすべもなく死んでいった。


どこぞの国でも日々ウィルス感染者の数が増え、首相は会食に明け暮れ意味のない対策を打ち立てて世界を呆れさせているようですが、自分たちは大丈夫だという根拠なき楽観視が命のとりになりかねないかもしれません。治療薬もワクチンも万能ではありませんしね。

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