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レジェンダリーズ  作者: らんたお
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ショッピングモード

 ここまで色々な機能があるのだから、当然ショッピングなんてもっと簡単になっている。実店舗に行くまでもない世の中になったのだけど、掘り出し物を見つけたいなら実店舗の方がいいかもしれない。


 元々ネットショッピングはあったけど、そこに更に進化を加えたのがレジェンダリーズのショッピングモード。今展開されているのは服や寝具やアウトドア用品などの日用雑貨ばかりで、食料品などは展開されていない。

 気に入ったコートがあれば、それをレジェンダリーズ内で試着してみればいい、ただそれだけ。

 ただし、アバターでしかないキャラクターに着せても結局自分とは合わなかった、なんてことがないとは言えないので気を付ける必要はあるけど。


 ネットショッピングの進化版は、実際に着た際の雰囲気を自らのアバターに投映させることができ、場面場面での見え方の違いなどを確認できる。

 母さんは私のアバターを娘として登録しているから、恐らくネットショッピングで買ったというのもそこで確認していたんだろうけど、私の趣味に合うかどうかは考慮されていないから困るわ。


 私の購入傾向や閲覧傾向は、私が非公開にしない限り母さんの方でも確認できるはずなんだけど……絶対見てないわよねぇ。一体どんなものが送られてくるんだか、怖くて空けられないわよ。



 ショッピングモードが他のレジェンダリーズが提供しているコンテンツと違うところは、リアリティーを追及しているところ。例えばカーテン一つとっても色、柄、雰囲気を変えて検証できる。

 西日の部屋の昼間だったらこう見えるとか、風でカーテンが揺れるとこう見えるとか、かなりリアルに表現している。


 それを可能にしたのが、実物のポリゴンデータを編集して3DCADデータ化を一括で行えるソフトの開発かしら。

 3Dスキャナーで撮影したものは普通、小さな点の集まりをデータ化しただけなのよね。そのポリゴンデータに、スキャニングできずデータ欠損している部分を補完したり修正したりノイズ処理や表面の再現、同時にカラー画像撮影をすることで、製品の特徴を高い確率で再現している。


 AIテンにしてみれば、本物のように再現することなどお手の物。あえて他のコンテンツではやっていないだけだということが、この実例から窺い知れる。



 難しいことを言っているけど、とにかく人間の考え得る以上のことなどできて当たり前ということなのよね。恐ろしいと言えば恐ろしいことだけど、汎用人工知能というものはそういうものよ。

 来てしまった時代に怯えていてもどうしようもないわ。とにかく今の時代を生きるだけよ。






 さぁ、今日の授業が終わったーと伸びしていたら、玄関先で待っているねと清夜から連絡が……

 今日の私は忙しい。いつもよりも忙しいのよ無理、と返事したら、待ってるねと念を押された。あんたのせいで、今日は本当に早く帰らないといけないのよ。荷物が届くからね!!


 歩きながらでいいのなら話を聞くと折れたのは、潔いからなのか面倒くさくなったからなのか、自分でもわからない。

 夕飯のメニューも買わないといけないのに、なんで男同伴で買い物しなきゃいけないのよと憤怒しながら玄関に向かうと、何やら女の子の怒鳴り声が……なにかあったのかしら?


 そこで見たのは、あの時清夜の傍にいた女の子が、清夜に怒鳴っている姿だった。


「なんであの子は良くて、私は駄目なの!? 私は幼馴染なのに!!」

「幼馴染? 知り合いってだけだろ」

「!? しり、あい……?」


 彼女はショックからよろめいて、壁にぶつかる。それでもなお、清夜は冷ややかな目で彼女を見ていた。

 泣きそうな顔をしつつも、彼女は気丈に清夜に食って掛かる。とってもきれいな女性よね。バッチリメイクしているのが惜しいくらい。もっとナチュラルメイクでもいいのに……ってそうじゃなかった!


「一緒に遊んだりしたでしょ!?」

「幼稚園から同じだというだけで、遊んだ記憶がないけど?」

「ちょっと清夜!! 女の子に対してその態度は一体何なの!?」


 割って入って申し訳ないけど、見過ごせないわよ!? 女嫌いなことは知っていたけど、ちょっと酷すぎない!? どっちから始めた喧嘩だか知らないけど、もうちょっと言い方ってものがねぇ。


「あぁ、翼よかった。こいつが絡んできたせいで、勝手に帰っちゃったかもって心配したよ」

「「こいつ!?」」


 奇しくも、彼女と私の言葉が重なった。彼女は驚愕で、私は怒りから。女の子に対してこいつとは、どういうことか!?

 いくら女嫌いでもそれはないでしょと言おうとしたんだけど、その前に女の子に突き飛ばされた。予期せぬ事態に受け身もなにもなくて、倒れることを覚悟する。


 その前に清夜に助けられたので転倒はしなかったけど、その場で膝をついてしまう。転ばなかったけれど、ちょっと心臓がドキドキしたわ。

 お願いだから、心臓に負担をかけないで。私の心臓はまだ、完全に克服できていないんだから。


 深呼吸をして落ち着くことを優先していたら、二人の喧嘩はヒートアップしていた。


「人を突き飛ばすなんて、どういう神経してんの? 翼に謝れ」

「っ…嫌よ!! 悪いのはこの子でしょ!? それに、なんでその子のこと抱きしめてるのよ!! 清夜の馬鹿!!」


 はて? 抱きしめるとは一体……!?

 清夜の左腕が私の腹部を抱えるようにして支えていて、右手は私の背中を撫でている。まぁ確かに、抱きしめている構図に見えるわね。


 即座に清夜の腕の中から抜け出し、サンキューと何故か英語で感謝を示す。別の意味で心臓が痛い。

 清夜にときめいたとかそういう意味ではなくて、誤解を与える体制を放課後のごった返した玄関でやらかした事実に冷や汗をかいたから。明日から、何を言われることやら知れないじゃない!!


 もう大丈夫、なんて清夜は私を気にするわけだけど、彼女を完全無視しているのでそれはどうかと思うのよね。かといって、彼女どうするのなんて私が口を挟もうものなら、清夜が能面みたいな無表情で彼女を一瞥しそうで話題を振れない。

 こっちは気が気じゃないのに、清夜は彼女なんて最初からいなかった風に見ようともしなかったんだけど、彼女の言葉で向かざるを得なくなった。


「清夜は、お母さんのことがあるから女が嫌いなんでしょ? だからって、昔から一緒だった私まで嫌いになることある?」

「母さんが俺を捨てたことと女嫌いに因果関係があるとわかってて、普段からそういう態度なわけ?」

「!?」

「いい加減にしてほんと、付き合ってらんない」


 突き放すような言葉に、今度こそ彼女は涙を零して走り去ってしまった。とても痛々しい姿に、思わず追いかけてあげたくなったんだけど、清夜がそれを許してくれない。


「どこに行く気なの? あんなの追いかけても得しないよ?」

「得とかそういうことじゃないでしょ!?」

「だいたい、翼が行ったら余計拗れるよ」


 確かに……いやでも、彼女をあのまま放置するっていうのもなんだか心苦しい。私は巻き込まれただけなんだけど。

 本当に大丈夫なのかしらと思っていたら、落ちてしまった私のカバンを拾って、帰ろうと清夜は言った。その際に、心臓は大丈夫と聞かれて思わず大丈夫だと答えたんだけど……あれ?


「清夜、私の病気のこと知ってるの?」

「まあね。本当に平気? 病院に行った方がいいならついて行くよ?」


 これぐらい平気だからと答えたけども、何故知っているのかしら? 私、話したことないのに……いえ、そんなことよりも清夜のことよ。女嫌いは知っていたけど、そう言えば原因までは聞いてなかったわね。

 でもとても聞ける雰囲気ではないし、早く帰りましょと言う他なかった。

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