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レジェンダリーズ  作者: らんたお
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掌の上

 試合が終了して、イヤホンを取る。勝利の余韻を楽しむどころじゃない。あいつ、また私を振り回すつもりなのね!?

 もう、本当に嫌……ていうか、なんで夕哉は来てくれなかったのよ!? もう、八つ当たりでも何でもしてやると左を見たら、疲れた顔がそこにはあった。右の瑠璃ちゃんも、放心状態だし。


「え…ふ、二人共、何かあったの?」

「ちょっと…ヘビとクモと格闘を……」


 う、うわぁー。瑠璃ちゃんの嫌いなものオンパレードじゃない。推測するに、瑠璃ちゃんが戦闘不能になったんだろうなぁ。そして夕哉が一人で倒したってことなのね。モンスターではないから、ダメージと見なされずポイントとして還元もされない。

 通りで、こっちのコンタクトに反応しないわけだ。できるわけがない。


 二手に分かれたことで、こんなことになってしまうだなんて……私だって色々あって意気消沈しているんだもの。誰一人勝利を喜べないのは当たり前のようね。






 二時間目の授業の前にコンタクトレンズを外す。やっぱり、外してた方が気が楽だわ。


 レジェンダリーズを遊ぶ端末として一番普及しているものだけど、外し忘れの危険性もあるから賛否両論なのよね。後、定期的に交換の必要があるからコスパが悪い。

 ゴーグル型は眼鏡を掛けていても遊べるし、レジェンダリーズを終えれば必ず外す。一度買えば壊れない限り買い替えることもないからコンタクトレンズ型よりも圧倒的にコスパがいい。

 ただし、視覚範囲が限定されるから見え辛い箇所があるのよね。


 他のゲーム機やタブレットやスマホ、あらゆる端末を用いて遊ぶことが出来るレジェンダリーズだけど、驚いたことにコンテンツ自体は無料。いくつか課金はあるけれど、個人情報を登録する際にいくつかの手続きを踏みさえすれば誰でも遊べる。

 とはいっても、FPSモードだけは中学生以上に限定されているんだけど。



 次の授業では確か、レジェンダリーズについての授業だったかしら。鞄から樹脂と強化ガラス製の透明な薄型タブレットを取り出し、左上の角に指を置く。透明だった画面がバックスクリーンになり端末が起動したのを確認すると、通知を無視して教科書を開いた。

 向こう側が透けたまま使う人もいるけど、私は断然バックスクリーン派ね。こっちの方が文字が見えやすいもの。


 メール通知が再び表示され、それが友人からのものだと分かる。授業ダルいの文字に頑張れのスタンプを返す。涙のスタンプがすぐに帰って来て、今度は心の中だけでご愁傷様と呟いた。



 今やスマホは手に持つ時代ではなくなった。AIテンの登場が多くの未来を作り出し、手に持つモバイル端末は薄型PCタブレットとなっていく。

 かつて台頭していたデスクトップパソコンは鳴りを潜め、タブレットの時代となり、スマホは衰退し続けている。


 レジェンダリーズさえあれば生活できると謳う人達まで現れるほど、依存性が深刻化していた。それを防ぐために、連続3時間以上接続できない様にしているのに、それでも依存する人達は後を絶たない。

 市場は完全にレジェンダリーズ一強の土台が出来てしまった。


 レジェンダリーズを介してゲームが開発されたり、レジェンダリーズを楽しむための端末を作ったり、物事の中心になっている。それだけ可能性を秘めているということなんだけど、選択肢が狭まる事にもなり兼ねない。

 とか言いつつ、私も将来は開発部門に入りたいと思って勉強をしているんだから何とも言えないけども。



 ほとんどの人がコンタクトレンズを装着したままにしている中で、タブレットを開いているのは私くらい。それでも、こっちの方が私は好き。






 刻一刻と一日が過ぎて行く。誰かさんが放課後の予定を空けておくよう言ってたけど、本当に本気なのかしら。私をどこぞの暇人と一緒にしないで欲しいものだわ、と思っている間に放課後が来てしまった。

 こんなにも憂鬱な放課後は、試験前日ぐらいよまったく……


 弟には今日は帰りが遅くなると伝えておいたから、自分で何か作って食べるでしょう。瑠璃ちゃんと談笑しながら玄関に向かうと……いた。あいつが。

 清夜にしては珍しく、隣に女の子がいる。とはいえ、完全に無視していたので、らしいと言えばらしい。


 瑠璃ちゃんにまた明日と言った私に気付くと、隣で必死に清夜に話しかけていた女の子を見向きもせずやつは笑いかけてきた。まるで、能面が急に感情を取り戻したかのよう。


「翼」

「あーはいはい」


 何か言いかけた清夜を遮り、話は歩きながら聞くからと急かした。理由は言わずもがな、さっきの女の子に睨まれたから。恨むなら、私じゃなくて清夜の方でしょ!

 足早に去って行く私達を彼女は追いかけることもなく、ただ鋭い視線だけを感じる気がした。なんで私が、女の子の恨みを一身に受けなきゃいけないのよ!


 当然、理不尽な怒りをぶつけられて納得できない。状況的には私だって被害者なのに!!

 ぐっと気持ちを抑え、ここは冷静に対処しさっさと開放してもらうべきだと考え直す。


「ところで、今回は何をさせるつもり?」


 早く終わらせて帰ろうという気持ちを表すように足早だったけど、清夜に手首を掴まれて止められる。あんた、人の手首掴むの好きねぇ。


「まぁ、立ち話もなんだから、どこかでご飯でも食べない?」

「数分で済む話をなんでそんなに引き延ばされないといけないの?」


 見えない火花が散った気がした。こっちが一方的に仕掛けた形だったけど。

 わざとらしく溜め息を吐いた清夜は、困ったものだと言いたげな表情をする。まるで聞き分けのない子を見るような目で。


「君のプライドが許すなら、断ってもいいけど?」

「っ…行けばいいんでしょ!? 行けば!!」


 自分でも単純だと思うけど、無償で勝ちを譲られるというのが性に合わない。無償の善意意外での貸し借りはなし。私の決めているルールなのよね。

 完全にこっちの心理は見抜かれている。勝ち目のない勝負に思えてならない。



 適当に選んだお店は、テラス席があるカフェだった。ここを通学路にしている生徒もいるから、人目を引いてしまうということを失念して座ってしまう。正に後悔先に立たずである。

 また明日から質問攻めと針の筵かぁと嘆くけれど、やってしまったものはしょうがない。腹をくくる。


 店員さんに注文を済ませると、さっさと話せな空気を出す。逃げる心配がなくなったからか、清夜は簡潔に用件を述べた。


「俺とデートしよう」

「……ごめん。日本語が理解できなかった」


 なんか不愉快な単語が聞こえた気がする。いやまさかそんなはずはと内心否定するけど、今度は一文字一文字しっかりと発音されたので理解せざるを得なかった。

 デート……なんで私が!?


「ねぇ、あんた喧嘩売ってる?」

「デートのお誘いで喧嘩売る人っているかな?」


 マジか。前回の、手作り弁当を作ってお昼に清夜の教室に持って行く命令より悪い。

 普段、女の子から貰ったものはすべて破棄するタイプの男が、私の弁当を要求した上にしっかり食べ、返さなくていいと言った弁当箱を綺麗に洗って返してきた過去が走馬灯のように思い出される。

 しばらくの間、知らない女の子達から呼び止められたり呼び出されたりと、日常を蝕んだあの記憶が蘇る。忘れたかったのに……いや、忘れてたのに。


 でも待てよ? デートでいいんなら、今まさにしてることになるんじゃない?


「コレをカウントして」

「やだ」


 なんでよ! これも立派な放課後デートって呼ばれるやつじゃないの!? やったことないから知らないけど。

 あーやばい、これはずっと平行線だわ。こんなやり取りやってらんないから、さっさと要求を呑むしかない。嫌だけど……


「分かったわよ。いつがいいの?」

「さすが翼。潔いね」

「グダグダやっててもしょうがないでしょ。私には拒否権がないんだし」


 道が一つしかない以上、時間を割くだけ無駄だもの。さっさとサンドウィッチと紅茶を飲んで帰ろうと、運ばれてきたサンドウィッチを頬張りながら考えていたら、2席ほど先から大音量の会話が聞こえてきた。

 あの映画凄かったねだとか、あれがトキめいただとか、やっぱり剣と魔法の世界は素敵だとか……拡声器でも付いてるんじゃないかってぐらいの騒音。逆にこっちは声をひそめる。


「会話丸聞こえだけど、いいのかしらね?」

「むしろ聞かせたいんじゃない?」


 まぁ確かに、バカップルっぽいけど。私にはただの馬鹿に見える。公共の場である以上、周囲に気を遣うのがマナーでしょうに。それにしても、あのバカップルの会話を聞いて前々から疑問に思っていたことを思い出す。


「そういえば、なんで剣と魔法の世界と言ったらファンタジーということになるのかしら?」

「急にどうしたの?」

「いや、前々から気になってたのよ」


 魔法というのがファンタジーなのは分かるんだけど、剣が付いて来る理由が分からないと言ったら、不思議に思っていることを不思議がられた。


「だってファンタジーものと言ったら、町並みだったり服装だったり風習だったり、大体が中世を舞台にしてるから」

「……そうなの?」


 それで、剣と魔法と言ったら中世をイメージするってことなの? 同じ題材の重複による固定観念と言ったところだろうか。

 なるほど、その短い言葉の中に情報が凝縮しているってことなのねと言ったら、翼は独特の感性を持っているねと言われた。なにかおかしなことでも言ったかしら。


「そんなことより、いつにするの?」

「俺はいつでもいいから、君の都合に合わせるよ」


 私の都合って言ってもねぇ。来週あたりなら大丈夫かしら。


「じゃあ来週の日曜日で」

「分かった」

「言っとくけど、あんたの女嫌い克服の手伝いは今回限りにさせてもらうからね!!」


 言った途端、清夜が虚を突かれたような顔をする。それが固定された笑顔へと変化し、輝いて見えるという不自然な現象が起きる。


「俺がいつ、そんなこと言った?」

「前回の時に言ってたじゃない」

「俺は、君だけ克服できたと言ったんだよ」

「同じ意味じゃないの?」


 女嫌いを少しは克服できたってことでしょうがという不信感を抱いていると、清夜が一瞬右手で頭を抱えて見せた。すぐに立て直したのか、顔を上げながらこれは骨が折れるねと呟く。

 折れてあげてるのはこっちでしょと思ったけど言わない。なんかすでに面倒くさい食い違いが生じている気がするから。



 予定も立てたんだからもういいでしょと立ち上がると、送るよと言われる。断ったんだけど、結局ついて来ちゃったのでそのままにして置いた。

 何処に行くのかはまた後で連絡すると言うので、もう腹を決めたわけだしと、はいはいと受け流して帰宅する。


 一通り家事を終えた後、清夜がくれたS級カードのアイシクルドックのことを思い出す。細かいステイタスは見ていなかったから、タブレットで簡単に確認をしてみると、すべてのステイタスがMAXになっていた。


「この子、どうすんのよ」


 ここまで育成しといて手放すって、なかなかないんだけどね。しかし不思議と、所有者が私の名前になっている。所有者って、普通育成者の名前になっているはずなのに……いや待てよ。育成をしたことがない私だけど、確か育成する際に育成者の名前を入れられたはず。

 つまり、実際の育成者は清夜なのに、私に育成されたことになっているってこと? なんでそんなことを…?


 育成記録も見られるから、育成過程がよく分かる。飼い始めた当初から、私の名前だ……

 何もかもが清夜の掌の上な気がしてならない。

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