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レジェンダリーズ  作者: らんたお
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デート3

 ご飯を食べ終えて、しばらくぶらぶら歩く。疲れたら休憩し、また歩く。その間も手を繋いだままというのは変わらないのだけど、だんだんとそれに慣れてきていることが恐ろしい。


「異性と手を繋ぐなんて、子供の時に翔と繋いだ以来だわ」

「そうなの?」


 それはよかったと、にこやかに言わないでくれるかしら? そりゃあ、弟と手を繋いだ以来だなんて自分でも驚きの事実だけど。翔も昔はあんなに可愛かったのに……


「どうしてあんなに虚無の境地に行ってしまったのかしら」

「単純に感情が表に出にくいだけなんじゃないの?」

「いいえ、違うわ!! 感情がないのよ!!」

「……へぇ」


 なにその、気の抜けた相づち!! 適当に返事してるでしょ!

 清夜も大概女性の気持ちを踏みにじるけど、翔に至っては理解していないという感じなのよね。告白してきた子に、好きとはどんな感情なんだと真っ向から聞いた上で、君の言っている意味が分からないとばっさり切り捨てるのよ。もはや拷問!!


 去年の授業参観だって、とんでもなかったんだから……





 母さんが海外出張してすぐのこと、翔の学校で授業参観があった。日本にいる身内が私だけだったから、担任の先生に言って授業を早退させてもらったのよね。裕一おじちゃん辺りが代わりに来そうな気もしたけど、やはり身内として参加してあげたかった。

 制服のまま他の保護者の方達に交じって並んでいると、授業の内容が物語のキャラクターの心理考察を述べよというものだったのよね。


 主人公の女の子は幼い頃にいじめに遭っていたのだけど、実はいじめていたその男の子は主人公のことが好きで、好きの裏返しで意地悪をしてしまっていたというもの。主人公も密かにその子のことを好きだったのだけど、いじめられたことがトラウマになり卑屈根暗な子になったという、少女漫画にありがちな物語。高校生になって再会した二人は、色々な問題を抱えながらも徐々に淡い恋を実らせていくという過程での主人公の気持ちの変動を分析せよとの課題だったのだけど……ていうか、授業の課題として少女漫画を引き合いに出すセンスに驚く。


「分かる人はいますか?」


 皆が勢いよく上げるなか、翔も手をあげる。おぉ、なかなかやるじゃないのと思ったのだけど。


「では、鴨山君!」

「はい。分からないということが分かりました」


 ……え? ん? 教室内が一瞬静まり返る。

 わからないことがわかったというのは一体どういう意味? いやその前に、わかってないのなら手を上げちゃ駄目でしょ!


「つまり、分からなかったのですか?」

「分かりません。理解に苦しみます。自分に酷いことをした人間を許す意味が分かりません。いじめは犯罪ですから」


 いや、そうなんだけど!! そういうことを聞いているんじゃないのよ!? あなたに裁判官を任せたら、死刑か無期懲役になってしまいそう。誰一人、情状酌量されないわね。

 しかし先生も粘った。ここでじゃあ次の人、となってしまったら何かが消化不良になると思ったようで。


「二人は両思いだったのですが、それについてはどう思いますか?」

「犯罪者に生きる価値はない」

「弟よ!! 感情何処行った!?」


 目を覚ますのよ翔ー!! と、思わず傍観するべきなのに翔に詰め寄ってしまった。目を覚ますのよ!! あなたは人間なのよ!?


「無感情なのは家でだけかと思ったら、まさか学校でもそんなだったの!? それでどうやって社会生活を営むっていうのよ!!」

「どうにかなる」

「なんでそこだけポジティブ!?」


 真顔で親指立てるんじゃないわよ!

 昔からぼぅっとしたところのある子だったけど、ここまで感情が希薄だったとは……


「私は、弟の育て方を間違えた」

「そもそも育てられてない」


 養育はしてないけど、世話ぐらいはしてるでしょ!! いえいいのよ、今はそういうことじゃないから。


「いいこと? 今ここで聞かれているのは主人公の気持ちなの! 翔の個人的見解じゃないのよ分かる!?」

「じゃあ姉さんだったら、主人公の気持ちが分かるわけ?」

「全っ然!! 私だったら、返り討ちにしてるから!!」


 シーンと静まり返るなか、似たもの姉弟という呟きが聞こえた気がする。





 お腹を抱えつつ小刻みに震える清夜。声にならない笑い声が聞こえてくるようだわ。


「ちょっと、これは笑い事じゃないのよ? あの子は本当、氷のような心の子なんだから!」


 将来が心配だわと憂えていると、笑いで目元を潤ませた清夜ははいはいと言いたげに私を宥める。


「翼も大概だから」

「殴るわよ?」


 宥めると言うより貶してるじゃないの!! やっぱり喧嘩を売っているのね? 受けて立つわよ!?

 勝負魂に火の点いた私に、しょうがないなぁと清夜。だったらいい方法があるよと連れてこられたのは……


「射的?」

「吹き矢もあるよ?」


 なんともレトロなゲーム達。どうもここ、これらのゲームで得点を溜めて、それに応じた枚数くじを引けるシステムになっているらしい。10回分のゲームを行い、100点に一枚という感じでくじを引く権利が与えられるのだとか。最高で1000点だと、ルール説明には書いてあった。


「へぇ、面白そうじゃないの」

「でしょう?」


 でもちょっと待って、勝敗が決まったとして、負けた際にまたなにか要求されるんじゃないでしょうね!? なにを企んでいるのと訝しんでいたら、普通に笑顔を向けられた。そこには、計略を巡らせる時の悪意を感じない。


「安心して? 勝っても負けても、俺からプレゼントしてあげる」

「怖いから遠慮するわ」

「……そう、じゃあ罰ゲームありきで」

「プレゼント!? 嬉しいわ!!」


 だから罰ゲームは嫌よ絶対!! 負けると決まったわけではないけど、罰ゲームがあると思うと嫌な想像しか出来ないもの。やっぱり、ないに越したことはない。


「じゃあ、やってみようか」


 手を引かれるまま店内に入る。まるでゲームセンターの様……だけど、そこまでうるさくもない。何故なら、ほとんどが夏祭りの屋台か温泉街にあるようなものだったから。とはいえ、普通にゲームセンターにありそうなアーケードゲームもないことはないけど。

 射的は清夜の圧勝。吹き矢も清夜の圧勝。回転するバスケットゴールにボールを入れるゲームも圧勝。その他にもいろいろと……駄目だわ、勝てる気がしない。

 いいえ、さすがに殴り専門のDPSチェッカーとワニの頭を叩くゲームぐらいは……完敗、だと? まさかそんなはずはないと、頭を抱える。


「翼、ちゃんと本気出してる?」

「傷を抉らないで!!」


 人が絶望してるっていうのに!!


「女の子なんだから、男の俺に勝てるわけないのは当たり前だよ」

「ていうか、あんたのリアルのDPSヤバくない? 本当に人を殺せそうね」


 拳に一体どんな武器を仕込んでいるのよ? ボクシングチャンピョンにでもなるつもり?

 私なんて、計測不可の弱いパンチだったわ。


「まぁ、鍛えてはいるからね」

「なぜ? 将来マッチョになるのが夢とか?」

「違うよ。もしもの時に翼を守れる男でありたいから、かな?」


 ジムに通ってるわけじゃないから細マッチョだけどと清夜。走り込みとかスクワットとか腕立て伏せとかダンベルとか、できる程度でやっているらしいのだけど、だからこそ恐ろしいのよね。


「もしもの時に私を襲いそうなのがあんたなんだけど」

「合意の上でなら暴力じゃない」


 愛し合うことは暴力じゃないからねと甘ったるい表情で言うけど、絶対に合意しないからね私!!

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