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レジェンダリーズ  作者: らんたお
15/17

デート

 ゆっくりご飯を食べれた気がしない。だいたい今日のは、アピールのために食堂で食べただけだから、今後は目立つところでお昼は食べないという約束だったはずなんだけど……いえ、もうどうなろうと後の祭りよ。なるようになるだけよねと、授業に身の入らない私の陰鬱な溜め息に先生も不審げだった。

 いつも元気な鴨山さんが、と口々に言われたわよ。ちゃんと授業は聞いているから、今日限りは当てずにそっとしておいてと祈った。


 もう放課後なのは何故? こんな状況で清夜と帰らないといけないなんて嫌だわ。あいつ、本当になにをするつもりなのよ? 私の性善説を折るですって? ただただ怖いわよ。

 あぁ帰りたくない。帰りたくないわ。


「鴨山、いつまで教室にいる気だ?」

「帰りたくない……」

「あいつ、絶対迎えにくると思うぞ」

「どっちがマシだと思う?」


 玄関で合流するのと迎えがくるの、と夕哉に聞くと、あまり変わらんなと言われた。そうよね、結局同じよね。

 帰るわよ。帰ればいいんでしょ。夕飯も作らないといけないしね。


 とぼとぼと重い足取りで階段を下りていたら、数名の女の子達に踊り場で呼び止められる。以前に見たことがあるかもしれないけど思い出せないわね。どちらにしても、清夜絡みなのは間違いないわ。


「あなた、なんで朝もお昼も清夜くんといたの?」

「しかも、密くんとも一緒に」

「直くんや勝くんともいたわよ!」

「高良くんや輝くんともよ!」


 双子や密というのはまだしも、たからくんとあきらくんとやらは誰なのかしらね。恐らく学内一位のパーティの二人の名前なんだろうけど。どっちがどっちだか知らないのよね。

 それ以前に、なんで彼等のことまで言われるのかしら? しかも、それとなく夕哉くんまでって言葉も聞こえたわよ。なに? 夕哉にもファンがいるの!?

 同じクラスで同じパーティなんだし、それはしょうがなくない? せめて夕哉と一緒にいるのは見逃してよと思ったんだけど、ヒートアップする彼女達に口を挟みづらい。


「彼等はうちの学校のアイドルみたいなものなの! 皆のものなのよ!!」

「誰がなんだって?」

「!?」


 あーうん、下から上がってきてたのは見えてたから私はそうでもなかったんだけど、さすがに階段を背にしていた彼女達は驚くわよねぇ。口を挟んで止めてあげるべきだったんだろうけど、四方八方から色々言われてどう止めたらいいのかわからなくて……ちゃんと報告しておくべきだったわ、ごめんね。


「翼になにか用なの? 用がないんだったら消えてくれる?」


 俺と翼の邪魔しないでって言い方が嫌なんですけど!? しかも、さぁ帰ろうなんて言いながら私の左手を引っ張らないでよ!! まるで恋人繋ぎってやつみたいじゃないの!!

 止めてー!! 放してー!! 彼女達がスピーカーとなってまた変な噂が立つからと怯えていたけど、階段を下り終えた時には彼女達は消えていた。どこへ!?

 いいえ、そんなことよりも!!


「手を放してったら!!」

「放してもいいけど、言うこと聞いてくれる?」


 なんでよと思うけども、そろそろ玄関に到着する。さすがにそこまで行ったら人がたくさんいるから……


「わかったわよ!! わかったから放して!!」


 言った途端手が離れる。ほっとしたのも束の間、約束忘れないでねと清夜が……やられた。まただわ。またこいつの術中に嵌った!! なんで毎回毎回ー!!

 死ぬ気で振り払えばなんとかなったかもしれないのに私ときたら、必死さが足りなかったばかりに。それでなくても気が重かったのに、更に気が重くなったのは言うまでもない。






 校内トーナメントのせいで理不尽な要求をされたのは、高々10日前の話だったのね。この10日間は怒涛の様な日々だったわ。思い出したくもない……

 今日は最悪な一日の始まりなことは確定的なんだけど、なんで朝からこんなに悩まされないといけないのかしら。


 母さんが送ってくれた荷物を空けたのは昨日のこと。少しでも現実を見たくなくて無視していたけど、さすがに観念して確認したら、明らかに私の趣味ではない可愛らしい服のオンパレードだった。これを着ろだなんて、あんまりだわ。


 その中でもマシだと思えるものを選んだけど、スカートの丈が短いのよねぇ。申し訳程度に二―ハイソックスが入っていたけども。

 というか、どうしてこんなことになっているのかしら?


「美紀、わざわざこんな朝早くから来なくてもよかったのに」

「何言ってるのよ! デートでしょ!? ちゃんとおしゃれしなきゃじゃない」


 でも翼は化粧もヘアメイクもしないでしょと、完全に見抜かれている。別にすっぴんだっていいじゃない。髪型だっていつも通りでいいと思うのよね。相手は清夜なんだし、私がおしゃれしている姿なんて期待してないでしょ。

 因みに洋服のコーディネイトも美紀がしてくれたんだけど、どれもこれも本当に無理だった。無難なのが今着てるずるずるのクリーム色のニットと黒のスカートと黒の二―ハイソックス。正直、他のは私の精神が持たなかったのよね。これも嫌なのは嫌なんだけど。


 美紀曰く、肩出しがおすすめだったけど翼が嫌がりそうだったから無難なのにしたら、やっぱりそれを選んだわね、だって。えぇそうよ。私は流行とやらに乗る気もないし、そもそも流行なんてあくまでも一過性なものに翻弄されたりしないわよ。

 でも美紀に言わせれば、流行りを掴み、流行りを生み出してこそのインフルエンサーよ、らしいわ。


 なにそれ? インフルエンザ? 冬に大流行する病の話?

 急に病気の話とかされてもよくわからないわよと言ったら、ほんっとうに物を知らないんだから翼はと呆れられた。なによ。インフルエンザぐらい知ってるわよ?


 新薬の開発のおかげで、昔に比べて重症化しなくなったのよね。薬の副作用もほとんどないし、感染力が強いというだけで今では風邪と同等の扱いでしょ。

 がん検診と白血病検診の義務化だったり、今後の義務化検診の一つに心療内科も加わる可能性があるというのも知ってるわよ。未病治療推進法案だったかしら? もしかしたら可決されるかもしれないのよね。可決されたら、未病患者の診療費が安くなるんでしょ?


 ほらほら知ってると自慢しても、はいはいそうですねと言われるだけだった。化粧とヘアメイクするから早く座ってと言われて大人しくなってから30分、退屈な時間だったわよ。

 にしてもこのスカートは本当に短いわね。普段、制服のスカートですら3分丈か5分丈のスパッツを履いている身としては、心許ない気になってしまう。


「はい、完成!! いい出来栄えよ翼!」

「そうなの? 鏡がないからわからないけど」


 翼が嫌がるだろうからナチュラルメイクにしといたからねと言われたけども、目元になにか塗ってた気がするんですが? 本当にナチュラルなんでしょうねぇ、不安よ。

 必ずこれだけは守ってと念押しされたのは、定期的に化粧直しをしてねっていうものだった。守る気はないけど、一応頷いておく。


 準備できたから早く行ってと言われるまま、追い出されるように家を出る。私の家なんですけどという気持ちは押さえて。






 待ち合わせ場所までくると、一通り周りを見渡してみる。10分前に到着したからさすがにきてはいないわねと、ほぼブレスレットとしか言いようのない文字盤の小さな腕時計に目をやる。なんでこんな飾りみたいな時計が存在しているのかしらと思っていたら、手元に影が差した。


「お待たせ翼」


 わぁお、いい笑顔ですネェ……眩しいわよ。いつ来たのと聞かれたから、たった今と答える。

 本当は、待ち合わせじゃなくて迎えに行くと清夜は言い張っていたんだけど、どうかそれだけはやめてと断った。こんな見たこともないおしゃれな格好をしたうえに清夜が迎えにくるだなんて状況を近所の人達に見られるのだけは勘弁だったから。


 とっても綺麗だねとお世辞を言われたので、あなたもイケメンで宜しゅうございましたねと返す。お世辞じゃないのにと言われたので、素直にありがとうと言い直す。ここに来るまでに多少は視線を感じたので、この服に似合うぐらいにはメイクをされているんでしょう。馬子にも衣裳だったみたいで本当によかったわ。


 それにしても、さぁ行こうかと言いつつ右手を出してくるのは一体なんなのかしら? 頑なに拒もうとしたんだけど、言うことを聞いてくれるんだったよねと念を押されたことで撃沈した。

 なんだか、一生のお願いを使い続ける子供を相手にしているような気になってくる。大きく違うのは、有無を言わせぬほどきっちりと戦略を立てて逃げ場をなくすずる賢いやつが相手だということかしら。


 はいはいわかりましたよと左手を差し出す。今日一日我慢すればいいだけだものと自分に言い聞かせた。

 それにしても、凄い注目度ね。まぁ、傍から見たらどこかの芸能事務所に所属していそうな顔だものねこの男。女性に対して辛辣なのを見れば、ちょっとは認識が変わるのかしら? うーん……なぜか、逆に株が上がりそうな気がするわ。


「翼は絶叫系とか乗れないよね?」

「どうして決めつけるのよ?」

「だって、心臓のことがあるし」


 あぁまぁ、乗る乗れない以前に乗らない方がいいのは確かだけど。俺も乗れないから丁度よかったよと清夜は言う。この男に出来ないことなんてあったのね、意外だわ。


「怖いの?」

「怖いというよりも、浮くのが気持ち悪いっていうのが正しいかな」

「あぁ、三半規管的に無理だってことね。だったらエレベーターとかも無理だったりするの?」

「物によっては気持ち悪いかな。でもエレベーターは一瞬で終わるからね」


 絶叫は断続的なうえに浮遊感を感じる長さが長いらしいから、無理な人は無理よね。というか、だったらなんで遊園地にいくのよ?


「遊園地にいく意味ないんじゃない?」

「絶叫がすべてじゃないよ? それに、これがデートだってこと忘れてない?」


 デートの定番は遊園地でしょ、と……知らないわよそんなこと。


 履き慣れないショートブーツのおかげで歩きづらい私に歩調を合わせてくれているのか、駅前停留所から出ている遊園地直行のバスまでの道のりが長く感じられた。終始笑顔の清夜に、まぁ今日ぐらい付き合ってあげるかと楽しんで過ごすことに決める。久しぶりの遊園地だしね。






 到着早々、清夜にツーショット写真を要求される。まだ入場もしていないのですが?


「フリーパスを二枚買っておいたから、顔認証のために撮影しないといけないからね」


 なるほどね。確かに、ネット予約のチケット販売では顔認証が必須だものね。チケット販売所では紙のチケットか顔認証チケットかを選べるのだけど、大体の人が顔認証チケットにする。何故なら、パーク内での煩わしいチケット提示が一切必要なくなるから。

 世界でもトップクラスの顔認証システムのおかげで、事前登録さえしていれば入店から退店までの間にレジを通らず買い物できる世の中になりつつある日本。買い物の履歴は、購入方法や購入場所が違っていても一括でチェックできるので便利になっている。

 一時は電子マネーの乱立競争があったけど、それも落ち着いて選択肢は3つに絞られて来ていた。


 フリーパス登録を済ませて入場する。それはいいのだけど。


「チケット代はいくらだったのよ?」

「いいよ気にしないで。俺がデートに誘ったんだしね」

「まさかと思うけど、デート代は男が払うべきとか思ってる?」

「当然でしょ」


 時代錯誤だわ。思わずため息が出てしまう。紳士的と言えばそうなのだけど、デート以前に私は今日を楽しむと決めたのよ。それなのに、一方だけに負担を強いるのはフェアじゃないわ。


「翼が何を言いたいのかはわかるけど、今日は俺に譲って。俺の我がままだと思ってね」

「わかったわ。今日まで色々無理強いされてきたことのお詫びだと思うことにする」

「……無理強いってなんのことだろう?」


 俺はなにもしてないよと言いたげな顔をされて、今までのことを悪いとすら思っていないのかと愕然とする。こ、こいつ……


「それで、どこに行く?」


 パンフレット片手に心底楽しみというキラキラな笑顔を向けられる。なんともまぁ、無邪気ですこと。今時紙媒体のパンフレットとは、とかツッコんだら駄目なやつねこれ。

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