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レジェンダリーズ  作者: らんたお
14/17

性善説は受難の元

 学校への道すがら、私が倒れた時に運んでくれたのが清夜だと知る。その上、私の身になにかあったらただじゃおかないとまで言ったらしい……ねぇちょっとやめてよね、彼氏振るの!!

 更に清夜が言うには。


「犯人の女達はちゃんと泣かしておいたから安心してね?」

「なんですって!?」


 女の子を泣かしたですって!? あんた、よくもそんなことを!! 謝ればいいだけなんだから、泣かす必要はないのよ!? 元々女の敵だと思っていたけど、ここまでとは!!

 軽蔑の目を向けていたら、そもそも俺のところに謝りにきた時から泣いていた、とのこと。


「土下座しそうなほどの勢いだったよ。でも俺に謝られても意味はないからね。翼に直接謝るのが筋だろって言っといたよ」


 突然私が倒れたから、自分達のせいで死んじゃうんじゃないかと思ったらしい。いえだから、そうじゃないのよ本当に! 色々と運悪く重なっちゃっただけでね、別に命に別状はないのよ?

 それにしても、本当に怖かったのね。聞けば大号泣だったみたいだし、反省してくれているのならば別にいいんだけどね。


「それで、その女達をどうする? 警察に突き出す?」

「しないわよ!! 謝ってくれるんだったら別にそれでいいんだから」

「甘すぎるよ翼は。俺には法の裁きを受けさせろって言ったくせに」

「罪の大きさが違うじゃない」


 性犯罪者と一緒にしないで。でも清夜的には同じだよとのこと。いいえ、同じではないわよ。少なくとも被害者である私の心境があれをいじめだと思ってはいないんだから。

 勿論、いじめに分類される最低な行為であることは間違いないけどね。






 学校に着くまで、許す許すべきじゃないと押し問答をしていたけど、校門を抜けた途端に駆け寄ってきた女の子達に目を見張る。

 ごめんなさい、許してください、ちょっと懲らしめようと思っただけなの、もう二度としませんと、口々に謝罪した彼女達。余程追い詰められていたのか、泣きはらしたり目の下にクマを作っていた。

 もう大丈夫だから、謝ってくれたらそれで充分だからと謝意を受け入れた私に、清夜は溜め息を吐く。でも結局、翼が許すならもういいよと言ってくれた。


 私達の許しを得てほっとした彼女達は、観衆の目に怯えながら去っていく。とても勇気のある子達よね。こんなにたくさんの目がある中で言うんだから。まぁ恐らく、清夜に言われた通りにしたんだろうけど。

 その証拠に、彼女達は私に謝りながらも清夜に伺いを立てるような素振りだったもの。どんな脅しをかけたのかしらと訝しんでしまう。



 というかあなたねぇ。


「いつまでついてくる気!?」


 もう教室は目前よ? こんなところまでついて来なくてもいいじゃない!

 清夜も教室に行きなさいよと言ったら、俺は君が心配なんだよとか言い始める。だとしてもついて来すぎなんですけど? あなた、私がパーティメンバーに見えるように振る舞うって部分に了承してくれたんじゃないの?

 ちょっと待って、了承ってなに!? 何故私のすることに清夜の許可がいるみたいな言い方してるのかしら!!

 完全に毒されてる……


「とにかく、私を弱い女だと思わないでくれる!?」

「翼ってさ、二言目には弱くないって言うよね。でも心臓のことを思えばそうも言ってられないんじゃない? 翼の精神がいくら図太かろうと、体は繊細なんだよ」


 だから心配なんだと……ちょっと、精神が図太いってあなたねぇ!! 心配してるんだか馬鹿にしてるんだか、なんなのよ!!


「いいから帰れ!!」


 今回のは明らかに売られた喧嘩だから買うわよな姿勢で凄むと、清夜は相も変わらずニコニコと……嫌な予感しかしない笑い方。清夜は清夜で臨戦態勢な気がしません?


「傍にいるのは当たり前だろ? だって俺は……」


 まさか!? あなたここでも嘘を付くつもり!? 彼氏だとかって言い始める気じゃないでしょうね!?

 次に出てくる言葉を言わせてはいけないと慌てるのだけど、そんな私をあざ笑うかのように口角をあげる清夜。こ、こいつ!! 完全に私を弄んでるわね!?


「仲間だからね」


 あれ? 仲間? 仲間ですって?

 拍子抜けした私を見て、清夜はしてやったりな顔をする。その上、もしかして期待した、なんて聞いてくるのよ? 腹立たしいことこの上ない!!

 これ以上一緒にいたら馬鹿を見るのは私だわと気付いて、早々に清夜を置いて教室に向かう。敵前逃亡する私の後ろから、笑いを堪えるような声が聞こえた気がするけどもう無視よ!!






 校内トーナメントがそろそろ開催されるとあって、事前に瑠璃ちゃんと夕哉と打ち合わせをする。とは言っても、口に出して作戦会議というわけにもいかないから、タブレット上でのものだけど。

 ああでもないこうでもないとやり取りをしていたら、ごめんね待った、と清夜御一行様がやって来る。そう、本来ならばわざわざこんな場所で作戦会議なんてしないんだけど、今日は致し方なくそうなった。

 私のお昼を返して!!


 これから先ずっとお昼が一緒だなんて……にしても、私達も清夜達も食堂でご飯を食べるなんて、恐らく初めてなんじゃないかしら。私は言うに及ばず、清夜達も食堂で食べたことはないと聞いた気がするもの。そんな私達が、大所帯でワンテーブル占領してるんだからすごいわね。

 こっちは私を含め、瑠璃ちゃんと夕哉。あっちは清夜含め、双子と学内一位のパーティ三名。総勢九人の食卓となった。


 こうやって見ると、類は友を呼ぶものなのねと感心してしまう。何故なら、彼ら全員モデルでもやっていそうなくらい美形だもの。視線を集めてしまっているのも当たり前だわ。

 双子も、黙っていればかっこいいのに残念ねぇと憐れな視線を向けてしまう。


「翼ちゃん、なんで俺等を見て溜め息を吐いたの!?」

「なんか知らないが、ディスられた気がする!!」


 はいはいすみませんねぇと、清夜の両サイドに座る双子に謝っておく。それにしても不気味なのが清夜よ。こっちも瑠璃ちゃんと夕哉に挟まれる形で座っているんだけど、何故か両肘をテーブルの上に置いて両手を組む姿勢でこっちを観察している。

 一体なにを企んでいる顔なんだか。


「一つ、翼に聞きたいことがあるんだけど」

「なによ」


 やっと口を開いたかと思うと、目を眇めてしばしの間。勿体ぶらずに言ったらどうなのとこっちがしびれを切らした時、清夜は冷ややかな口調で言った。


「どうしてあいつに会ったりしたの?」


 あいつとは一体誰の話なんだかと不思議がっていたら、三時間目の休み時間だよと補足が入り、あぁと思い立つ。いやでもそれって、会ったというよりもばったり遭遇したっていうのが正しい表現なんだけどね。

 なに? そんなことぐらいで不機嫌なの? 言いがかりじゃない?


「しかも、あいつに叩かれたとか?」

「なんの機材だか知らないけど、重そうだったから手伝おうとしたらね。そもそも、叩かれたって言っても手を軽くでしょ?」


 余計なお世話よって言われたけど、困ってる人を見捨てるなんてできないじゃない。まぁ、本人が手助け無用っていうなら仕方がないけどね。

 それよりも、あいつあいつと曲がりなりにも昔からの知り合いでしょうになんなのよ。そりゃあ、清夜からしたらストーカー女子でもね。


 疲れたようにため息を漏らして体を引いた清夜。その、どうしたものかって顔はなに?


「翼のその、困っている人は助けなきゃいけない正義感ってなんなの。相手が悪い人だったらどうするんだよ」


 まさか今までも、困ってるからって理由で男を家にあげたりしてないよねと聞いてくるんだけど、そんな誰でも彼でも家にあげてるわけないじゃない。


「身元の知れた知り合いだったらあるけど」

「……」


 珍しく、言い返す言葉を失って黙り込む。ただ、すぐに不穏な空気を放ち始めた気がするけども。

 一気に空気がピリピリする。それはどういうことだろうと、再び身を乗り出してくる清夜。テーブルを挟んでいるはずなのに、なんなのこの圧迫感は!!

 ちょっとこの重たい空気に耐えられないと思い始めた時、注文していた料理が配膳ロボットによって運ばれてきた。


『ご注文の料理をお持ちしました。ハンバーグ定食大盛り二膳、唐揚げ定食一膳、唐揚げ定食大盛り一善、カツカレー定食大盛り二膳、アジの開き定食一善、トンカツ定食大盛り一善、鮭の塩焼き定食一善です。配膳いたしますのでテーブル上になにも置かないで下さい』


 そう言うと、配膳ロボットはテーブルに向かって背を向け、背中部分のカートに乗ったトレイを上げたり下げたりしながら注文者の座っている席を見極めつつトレイを一つ一つスライドさせていく。

 トレイの大きさ的に完全なる目の前とはいかないもののすべて配膳し終わると、ごゆっくりどうぞと言って去っていくロボット。


 自ら料理を取りにいかなくてもいいというこの配膳ロボットの登場は、広く飲食店などで普及しているけど、トレイの大きさもあってか小さな店舗では使えないのよね。あと、段差のあるところとか。

 配膳スピードを要求される店舗では使えないとかもあるから、本当にゆっくりできる大型店舗でのみのロボットだけど、労働力が少なくなる日本では多少お高くついても導入せざるを得ないところがあるのよねぇなんて呑気に見ていたら、清夜が話は終わってないよと言った。

 マジか。中断できたと思ったのに。


「因みにどういった知り合いで、どういう経緯だったか洗いざらい吐いてもらおうか」

「あんた、刑事ドラマの見過ぎじゃない?」


 今時そんな高圧的な刑事はいないでしょ。AIテンの監視網の中で犯罪を犯せば、否応なく証拠があるから自分じゃないなんて否定もできないもの。

 まぁ、それもここ数年で出来上がった包囲網なんだけどね。新しい衛星を3つ打ち上げたおかげでできあがった監視網。監視社会になったと騒がれたものだけど、犯罪抑止と犯罪者確保に貢献している実例から、反対派もいるにはいるものの多くの人が肯定的だった。

 15年前、10年前、5年前と、5年ごとに打ち上げられた衛星が連携した途端犯罪者の摘発が始まり、また未然に犯罪を防げたというのは有名な話だもの。だから、あんたのそれは昔の刑事ドラマの常套句だから今は通用しないわよ。


 というか、どうして私が責められないといけないのかしら。納得がいかないわと抵抗してみるも、あることないこと言っちゃうよこの場でと言われては、こっちが降参せざるを得なかった。

 今度こそ、付き合っているだなんだと嘘を吹聴してやるぞという意味だと理解する。死んでも御免なので仕方ない。


「中学の時に、ケガをした同級生の治療のためにあげたのと、病気で倒れそうだった先輩をあげたわ。後は、夕哉が転校してきたばかりの時ずぶ濡れで帰ってたからあげたけど」


 たまたまお風呂を帰宅時間に合わせて沸かしてたから入らせたり、制服は簡単に乾燥機で乾かしたりしたわね。その間夕哉には、終始正気かって目を向けられたけども放っておけなかったんだから仕方ないじゃない。たいだい、その時は瑠璃ちゃんも一緒だったわよと白状すると、清夜が深い溜め息を吐いた。

 なによ。まさか見捨てろとでも言いたいの? 言っておくけど、見捨てるなんて絶対しないわよ。


「ちょっと考える必要があるね。翼のその性善説をぽっきり折る必要性がありそうだ」

「ぽっきりって、なにする気!?」


 まぁ色々とねと、不気味なほどいい笑顔で……寒気がするのは何故かしら。しかも、濡れネズミ以外の男達とはまさかまだ交流があるわけじゃないよねと聞いてくる。夕哉は夕哉で、濡れネズミって俺のことかとツッコミを入れるけども。

 近所だし、交流がないとも言えないけどなんて言ったらどうなるのよ。真実を告げても嘘を付いても地獄行きな気がするんだけど、どうするのが一番なのかわからない。


 どうなのと追及する清夜に、嘘を付くこともできず素直に言ってしまったのは良かったのか悪かったのか。今はまだ判断できない。

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