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レジェンダリーズ  作者: らんたお
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 いい加減手を放してよ、嫌、ってやり取りをしている時に釜田先生が診察に来た。私と清夜を見比べて困惑している。その際、清夜に握られている私の手に目聡く気付いたようだけど。だから放してって言ったのに!!

 手を放してってばと強く主張するも、清夜はもう私のことは見ていなかった。


「主治医の先生ですか?」

「えぇ、君は?」

「翼の恋人です」


 嘘を付かないでよ!! 違います違いますからと首を振っていると、一瞬止まった釜田先生は清夜の言葉を聞き流すことにしたのか、そうですかと言って私の診察を始めた。


「心拍数も正常ですし、手術まで大人しくしてさえくれればいいですからね。あぁでも、次の健診は一応来週にしておきましょうね」


 いつなら来れそうですかと聞かれて、火曜日は五教科の実力テストで学校はお昼までだったから、火曜日にと言った。テスト時間が40分ずつの10分休憩だから、お昼で帰れるものね。

 なにより、実力テストというストレスを越えた後の診察の方がいいだろうし。


「わかりました。では火曜日に予約を入れておきますね」

「先生、翼の心臓手術はどんなことをするんですか? その手術で翼の心臓は大丈夫になるんですか?」

「それは……」


 守秘義務だから言えないと言いたそうだけど、別に私は隠してないしいいですよという意味で大きく頷いた。後は医者として言えないというのならば、釜田先生の判断に従うまでだわ。白湯でも飲んでましょうかね。


「詳しくはお教えできないですけど、上手くいけば今後生活に支障が無くなることは間違いないですね」

「そうですか……では、術後いつからならセックスできますか?」

「うっ!! ゴホッゴホッゴホッ」


 な、なんて言った!? こいつは正気なの!? ちょっと、白湯が気管に入っちゃったじゃないの!!

 釜田先生も、びっくりして目を見開いてるし!! これはどういうことですかって顔でこっちを見てくる。違うの!! 本当に違うんです!! こいつの妄想なんです!! 白湯のせいで苦しくて言葉が出てこないけど!!


 どういうつもりだか、衝撃的なことを口にした男はむせる私の背中を撫でてくる。触るな!! 言葉にならない分、睨んでみる。全然効いてないけどね!!


「翼落ち着いて、今は心臓に負担をかけちゃダメだよ」

「あんたのせいでしょ!? ちょっといい加減にしてよ!! 付き合ってもないのになんなのその質問!!」

「将来的な話なんだから聞いておくべきだろう?」

「あるかもわからない将来のために今聞いておく必要はある!? だいたい、あったとしてなんであんたとが前提なのよ!?」

「俺以外とするつもりなら、その男を殺すけどいい?」

「なんでそうなる!!」


 そんなポンポン殺す発言をするなと怒ると、俺を殺人犯にしたくなかったら俺にしておきなよと言ってくる。どうして毎回毎回こういう話になるのよ。てか、いい加減手を放して!!


「まぁ、君が翼ちゃんのことが好きだということはわかりました。ですが、君には越えなくてはならない壁が多く立ちはだかっているように思われますが」

「難攻不落なほど攻略のし甲斐がありますから」

「まずは本人を攻略しないといけないのでは?」

「それは大丈夫だと思います」


 ねぇ翼、なんて聞いてくるけども、絶対に嫌よ!! 自分のことは自分で守って見せるわ!!

 取り戻した右手を二度と捕まえられないように、ベッドの左側に身を寄せる。なんで私が、こんなにも怯えないといけないの? 納得がいかない!!


「釜田先生! こいつを外に出してください!! 面会謝絶にして!!」

「追い出したいならそうすればいいけど、俺としては翔に君を家まで連れて帰るから安心してって約束した手前、それを破ることはできないよ」

「あんたの個人的な約束でしょ!? 私とは関係がないわ!!」


 早く帰って学校に行きなさいよと言えば、俺だって病人なのにと返ってくる。だったら釜田先生に見てもらいなさいよと言えば、そこまで深刻じゃないよと言ってくる。


「釜田先生!! こいつ昨日一日何も食べてないみたいだから、点滴とか点滴とか点滴とかしてあげたらどうでしょうか!?」

「そんなに点滴したら、さすがに俺持たないんじゃないかな?」

「先生!! とにかく早くこいつを!!」

「はいはい、まぁ彼は大丈夫だと思いますよ。それよりも、君を送る人が必要なことは間違いないですしね。翔くんから、人に頼んだので大丈夫ですって連絡がきていたから、てっきり松林さんに頼んでいたのかと思ったら彼だったんですねぇ」


 翔、あんた……とことん裏切ってるじゃないの!! どうして姉を売るのよ馬鹿!! なにもかも、仕組まれているとしか言いようがない。清夜あんたまさか……

 私の視線の意味をどう受け取ったのか、清夜は笑顔で言った。


「安心して翼。付き合ってもいないうちから手を出したりしないから。だいたい、これくらいしないと翼にはいつまで経っても俺の好意って伝わらないでしょう?」


 少し前まで俺の好意を女嫌い克服のためだと勘違いしてたけど、さすがに今はそうじゃないってわかってるでしょと……

 否応なしにそうではないと思わされてはいるけども、それで私が落ちるかどうかはまた別問題だからね!? 私がこうして抵抗してさえいれば……ちょっと待って、もしかしてあの時の私の発言のせいで、今こんなことになっているってこと!?


 こいつの行動力と頭の回転の速さ、愚鈍な私には回避不可能だわ。いいえ、だからって諦めては駄目よ。だってもしも負けてしまったら、一生勝てないままで終わってしまう気がするもの!!


「翼がどこまで抵抗できるのか、見ものだね?」


 こいつは悪魔か!! クモの糸に絡まって抗う蝶を弄ぶみたいに、楽しそうな清夜。羽を切られたら最後、待っているのは死よ!!

 負けるものかというアピールにしかならないけど、ファイティングポーズをしてみせる。はったりでもなんでも、使えるものは使っておくしかない。



 そんな私達のやり取りをそっと見守ってくれていた釜田先生には、全戦全敗っぽいですねと言われた。お察しの通りで……

 結局、清夜に送ってもらうしかなかったから送ってもらったんだけど、家には上げないからねと言ったら、とにかくゆっくり休んでと潔く帰っていく。拍子抜けだけどもよかったーと思ったのも束の間、明日何時に迎えに行けばいいかと通知が来たことで思い出す。


 そうだった!! 明日から、あいつの顔を見る毎日なんだった!!

 本当に、一勝もできていない。






 結局朝になって、清夜が迎えに来てしまったんだけど……私のカバンを持ってくれたのはまぁ、有難いこととはいえ、私の腰に手を置くのは許さないわよ!?


「この手を放しなさい!!」

「じゃあ、手を繋ごう」

「嫌だと言うのがわかっていて言っているの!?」


 腰に回っていた手は振り払ったものの、左手をこっちに伸ばしたままの清夜。その手を取るとでも思ってる!? 拒絶の意味で手をはたいたら、そのまま手首を掴まれてしまう。捕獲!?

 つい最近もこんな風に捕獲された記憶があるわよ!?


「ちょっとなにするのよ!!」

「翼? 俺達は付き合ってるように見せないといけないんだよ? 彼氏の手を叩くなんてどうかと思うけど」

「彼氏じゃないし!! だいたい、私も言ったはずよ!? 学生主催トーナメントの件で一緒に行動してる風に見えるからいいって!!」

「それだと牽制の意味合いとして弱いでしょう?」

「いいのよ!! どっちにしてもあんたと行動することには違いないんだし!!」


 当初の目的通りに危害なんて加えられずに済むわよと言えば、溜め息を吐かれた。なんなの? 馬鹿にしてる!?


「いっそのこと、皆の前でキスしようか」

「手は出さないって言ってなかった!?」

「口だから大丈夫」

「屁理屈よ!!」


 手じゃなければいいとか、そういう意味じゃないから!! まさかこの場でなにかするつもりじゃないでしょうね!?

 警戒していたのだけど、思いの外あっさりと手を放してくれた。ただその時、しょうがない子だと言いたげな溜め息を吐かれたような気がするけどね!?


「君のことが心配だったから一緒にいたいっていう当初の目的は達成できているしね。後のことは君の好きなようにするといいよ」

「当初の目的? 恋人に見えるようにっていうのじゃなくて?」

「本当に、恋心ってものを全く理解してないんだね翼は」


 好きな人と一緒にいたい、好きな人を守りたいと思うのは当然でしょと、優しい笑顔で言う清夜。そんな顔で笑うこともできたのね。意外だわと目を見張っていたら、再び左手が差し出される。手を握ろうという意味なのだろうけど……


「それは無理」

「このまま流されてくれればいいのに」


 溜め息を吐きながら言われたけど、それとこれとは別問題だから!! なんでもかんでも流されるとは思わないで!!

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