表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジェンダリーズ  作者: らんたお
12/17

将を射んとする者はまず馬を射よ

 翔が入ってきた時、裕一おじちゃんの秘書の峰岸さんも一緒だったところからすると、恐らく今回も翔のことを迎えに行ってくれたのね。峰岸さんにお礼を言っておかないと。


「峰岸さん、ありがとうございます」

「いいんですよ。ですがね、一つだけ疑問なことがあるんです」

「なんでしょう?」

「私が彼を迎えに行くと、いつも顔パスなんですよね。翔君の学校のセキュリティーには問題があると思うんです」


 私に似た人物が私に成りすまして侵入したらどうするつもりなんでしょうかね、と仰った。それは多分、私が病院に運ばれるせいかもしれない。

 翔は小中高の一貫型の私立で、私は病気のこともあるし授業を休む可能性も考えて普通の公立なのよね。だから、私が倒れた云々になる度に、裕一おじちゃんが峰岸さんに翔を迎えに行かせるから、向こうもそれに慣れてしまったのかも。



 今時珍しく翔の学校は正門、後門、左右に一つずつで計4つの門に警備員を置いている。鉄柵やコンクリート壁側には監視カメラを付けていたと思うけど、わざわざ人を配置するっていうのは本当に珍しい。

 AIの普及は目覚ましいものがあるし、人という労働力が必要ではない分野ではどんどん人が減っている。とはいえ、その分少子化も進んでいるから、代替え要因としてAIやロボットが広まるのはどうしようもないんだけどね。


 翔の学校はどちらかというと一人一人の能力向上を目的とした授業が多くて、運動神経を高めたり、語学力や記憶力や応用力を鍛える授業を行っている学校なのよね。

 だからといってセキュリティー面で劣っているとは思わないけど、うちの学校よりは低いかもしれない。まぁ、うちの学校は国だったり企業だったりが出資してるんだから異常なほど先進テクノロジーになっちゃってるんだけど。


「認証確認を徹底するよう伝えておかなくてはいけませんね」


 それにはうちのシステムが有効です、なんて言っちゃうあたり、商魂逞しいというか何と言うか。さすがは敏腕秘書だわ。



 釜田先生にいつ頃帰れますかと聞いたら、4日はいて下さいと言われる。ちょっと長すぎね。もうちょっと縮められないかしら。


「今日、帰れますか?」

「せめて3日はいて下さいね」

「明日」

「……では、明日で」


 入院日数を値切るなと翔に指摘されつつも、私は明日の退院を獲得する。だって、もうすぐ試験があるのよ? 一日だって授業を疎かにできないのに、こんなところで寝てられますかっての。

 ただ、明日は明日でもお昼頃ってことになっちゃったけども……まぁ、明後日からは学校に行けるんだしいいか。


 翔には、瑠璃ちゃんに無事だってことを伝えておいてねとお願いし、言われた通り大人しくして過ごした。






 朝の日差しを受けながら起きたら、何故かいた。いいえ、きっと見間違いだわ。私はまだ夢の中なのねぇ……そんなわけがない。てか、何故私の右手を握っているのかしら?


「なんでいるのよ」

「翼のことが心配だったから」

「今何時?」

「7時だね」


 清夜あんた、一日たりとも顔を見ない日がないんだけど? まぁ、ここなら学校の人達に見られることがないからやっかみを受けることはないけども。

 ちょっと顔色が悪い気がするわね。大丈夫かしら? 奇遇にもここは病院なんだし、診てもらった方がいいんじゃない?


「風邪でも引いたの? 先生に診てもらう?」

「いいよ。それより、翼が無事でよかった。生きた心地がしなかったよ」


 目の前で倒れるんだからと憔悴気味に言われては、申し訳ないとしか言いようがない。運悪く色々重なっただけなんだけど、傍から見たら水をかけられたことにより倒れたように見えてしまうわよね。


「寝不足と遅刻しそうで走ったことと、怒りで頭に血が上ったのが重なっただけよ。心配ないわ」

「だとしても、倒れたことには違いないよ。君にもしものことがあったらと思うと……」


 両手で私の手を握り、まるで祈るみたいに額を付ける清夜。続ける言葉を失ったみたいに黙ったままかと思いきや。


「あの女達を殺してた」

「殺人は駄目よ!」


 なに馬鹿なことを言っているんだか。顔を上げた清夜の目はマジだったので、取りあえず落ち着かせておく。

 リクライニングで体を起こして、清夜と視線を合わせる。


「早く学校行ったら? そもそも支度もしてないじゃない。早く家に帰りなさいよ」

「今日は行かないよ?」

「病気じゃないなら行きなさい」

「じゃあ病気だから行かない」


 じゃあってなによ、じゃあって!! 仮病は駄目よ!?


「俺は今、不治の病にかかってるから行けない」

「難病なの?」

「そう……恋の病っていう」

「早く学校に行きなさい!!」


 そんな、誰でもかかるような病気で学校を休んでんじゃないわよ!! あんたねぇと怒ろうとしたんだけど、昨日一日何も食べれなかったからと聞かされては怒るに怒れない。


「ちょっと、ご飯ぐらい食べなさいよ。育ち盛りが」

「これはもう、翼のお家に行って手料理を食べ続けないと元気になれないかも」

「それは却下」


 一昨日の出来事で、もう二度と清夜を家に上げないと決めたもの。翔がいるならまだしもね! てか、食べ続けるってどんだけ家に通うつもりなのよ!?

 あんな怯えて過ごすのはこりごりだからと受け入れない姿勢を貫くと、じゃあ代わりにと条件を出された。


「だったら、登下校とお昼休みをこれから先ずっと一緒に過ごすってのはどう? それなら許してあげるよ」

「なんで私が許されないといけないの!?」


 私は何もしてないじゃない!! むしろ嫌がらせされた側だから。

 だいたい、なんで清夜が許す許さないの審判を下してるのよ。あんたは一体どういう立場で言ってるの?


「じゃあ、もう一つ選択肢をあげようか」

「何様なの?」

「翼の家で手料理を食べるか、登下校とお昼休みを一緒に過ごすか、俺と付き合うか、さぁどれにする?」

「最後の選択肢が究極すぎる!!」


 結局選択肢は2つじゃないの!? なんでそんな極端な選択肢が増えるのよ? 増えたのは精神的負担だけじゃない。

 因みに俺は最後のがおすすめだよとかいう言葉は聞き流すとして、この中だとどっちが一番無難かしら。どちらも結局拘束期間は長いのだけど……って、なんで従おうとしてるのよ私!!


「ちょっと待って、それって私のメリットがないんだけど?」

「そんなことはないよ? だって、最初の選択肢以外は周りへの牽制になるでしょ?」


 はて、牽制とは一体……? 牽制の意味もわからないけど、最初の選択肢が牽制ではないとは一体どういうことかしら。


「翼への嫌がらせ連中への見せしめだよ。翼と俺が仲良くしていたら、少なくとも俺の前ではなにもしないでしょ? それに、傍から見ると付き合ってるように見えるから、一石二鳥じゃない」

「なるほどねぇ……付き合ってるように見えるのは嫌なんですけど」

「だったら、付き合えばいいよ」

「見えるのは嫌って部分だけ抽出するの止めてもらえます?」


 付き合ってるように見えるのは嫌、で一文だから。見えるのが嫌なら付き合えばいいとか、極論すぎる。

 しかしまぁ、なるほどね。好きな人が見ている前で嫌がらせするようなことは大部分の人ならしないわよね。逆恨みとかで本人に行く可能性はあるけど。いえ、どっちにしても逆恨みなんだけどね。


 ということは、1つしかなさそうね。でも、お昼休みまで一緒である必要ってあるのかしら? あーもう、面倒くさいわね。考えるのが面倒だわ。


「登下校とお昼休みが一緒ってのにするわ。学生主催トーナメントの件で一緒に行動してるっていう風に見えてくれるかもしれないし」

「そう、まぁ今はそれ以上は無理強いしないでおくよ」

「私からしたらすでに無理強いなんですけどねぇ?」


 てか、あんたなんでここが分かったのよ? それも担任の先生よりも先に来るなんておかしくない? 聞けば、あらゆる手を使って調べたんだよと……私の個人情報をなんだと思って。


「翔に聞いたんだよ。一昨日、連絡先を交換してたからね」

「ソースは身内か」


 裏切り者め。なんで言っちゃうのよこいつに!! 完全に、将を射んとする者はまず馬を射よ状態じゃない。うちの弟が清夜に取り込まれた!!

 私がお昼で帰るのに迎えがないのはいけないからと、自分が代わりに迎えに行くから心配しないでと言ったらしいけども。学生の本分は学校に行くことだからねなんて言ってるけど、あんたも学生よ!?


「どうも変なのよね。あんた女嫌いなのに私が好きとかおかしくない? 好かれるようなことをした覚えがないんだけど」

「内緒。どうしても知りたかったら、付き合ってよ。そしたら教えてあげる」

「わかった。もう二度と聞かないわ」


 その条件になにかをやらされるってのが多すぎるわね。駆け引きでは絶対に清夜に勝てない気がする。私みたいに単純な人間なんて、いいように踊らされるだけだわ。

 知りたくなったらいつでも言ってなんて、笑顔で言ってくる清夜。聞かされたが最後、付き合わされるなんて絶対に御免だわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ