ダンベル何キロ持てる?
パッシューーンーーッー___
銃声。後藤を目覚めさせるには。その熊のような魔物を殺すには十分な威力だった。
草原のベッドに寝そべっていた後藤だったが西日が瞳の裏から脳までを直線的に駆けてくる。
「おい!大丈夫か!!」
見覚えのある体格のいい男が近づいてくる…
この男が発砲したのか。だが、これは夢だ…夢に違いない…と米田先生が枕元に居たときと同じ心境になりつつ男は再び瞼を強引に閉じる。
「おい!しっかりしろ!!」
体格のいい男に壊れるほど揺さぶられ、ゆっくりと、やれやれと、瞼を奥からこじ開けた。
間違いなくそこには高本みつきがいた。
それは夢なんてものじゃあなかった。
それは覚めることのない悪夢だった。
「なんで…?みつきが…?」
男は口をもぞもぞと動かしてようやく喋った。明日は口の周りと喉が筋肉痛だろう。
「俺の名前を知っているのか?有名になったもんだな」
筋肉質の男がニヤリと口角を上げる。見慣れた光景だ。
「ここはいったい…」
ラノベで幾度となく聞いたようなセリフをここぞとばかりに吐く。
「魔物に襲われて記憶が断片的になくなったみたいだな………よし!とりあえず今晩は俺の家に泊まっていけ!」
この高本みつきは度量が大きいらしい。多分顔と名前が一致してるだけの別人だろう…
ごぼうのようなひょろりとした男と恐らく消音器サプレッサー付きであろうスナイパーライフルを携えた男は森の中へと歩いて行った。
「ところで…」みつきが口を開く。
「ダンベル何キロ持てる?」こいつぁ本物だ。
後藤は自分の置かれた状況を察し、これから起こるであろう物語の展開を想像した上で、「ふわぁぁ……」とこの非日常を日常だと言わんばかりのあくびを披露した。