✝異★世★界★転★生✝
今日は玄関からではなく、窓から帰ろう。彼は時として突拍子もないことを思いつく。ただその"突拍子もないこと"というのは前日にやったゲームなどに由来することが多かった。例えばスプラトゥーンをやった次の日には学校に水風船を持ってきて「クイボガイジ!」と言いながら投げてきたり、APEXをやった次の日には坂道をスライディングで滑り降りたりしていた。
窓までの距離は数メートルだった。昨日彼はどのゲームをしたのだろうか?APEX?メタルギアソリッド?彼の一心不乱に壁を登る姿を見れば一目瞭然だった。その姿はまさしくハイラルを駆ける勇者その人だった。間違いなく彼が昨日やったゲームはゼルダの伝説なのである。
窓から部屋へ入るとブルーベリージャムの入った紙袋を手に、居間へと向かった。スプーンを握りしめ、戦いの準備ができた大津町の勇者はそっとブルーベリージャムの蓋を開けた。端の方をスプーンで少しだけ掬い口に運ぶ。
『懐かしい。』直感的にそう感じた。決していつどこで食べたのかといった類の記憶は無かったが、ただひたすら懐かしかった。前世の記憶だろうか、普段はナオキマンの動画を半ば馬鹿にしていた彼だったが"その日"だけはスピリチュアル的なモノを信じた。"運命"を感じた。自分は選ばれたインディゴチルドレンなのだということを。ブルーベリージャムを食べ終わるとテーブルに突っ伏してそのまま寝落ちした。赤ちゃんである。
夕日がカーテンを掻い潜り、差し込んでいる。
テレビではニュース番組が映し出されている。
ウーパールーパーは餌を欲しがるようにビチャビチャと音を立てて跳ねた。
だがウーパールーパーの飼い主はもういなかった。そこで寝落ちしたはずの男は消えていた。テーブルには空のブルーベリージャムの容器だけが残されていた。