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誰も知らない誘拐事件  作者: 空波宥氷
9/28

開花

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車、ナナマル(JZA-70)の整備が趣味。



・神津柳(カミツ ヤナギ

中華街で探偵事務所を営む女性。

カールしたショートボブと眼鏡が特徴。

友香の叔母にあたる、母親的存在。32歳。

8


 「結局、何も得られなかったわね」



 柳がつぶやく。

 一日中歩き回って疲れたのか、友香はソファに横たわった。すでに辺りは真っ暗になっていて、整列した街灯が、ぼんやりと明かりを放っていた。日が落ちて気温も下がったせいか、開けた窓から入ってくる夜風が気持ち良かった。



「でも、気になることはあったわ」

「不審者のこと?」

「ええ」友香が体を起こしつつ答える。

「確かに問題だけど、今回の事件と関係はないんじゃない?」



 聞き込みを行った際、学校の近辺で度々、不審な男が目撃されていることがわかった。学校側にとっては気が気でない問題だが、今回の事件との関連性は低く、柳はそれほど重要視するべきではないと考えていた。



「どうかしらね。ま、今どうこう言っても仕方ないわね」



 この不審者はまだ捕まっておらず、学校側は警察と協力して防犯に努めているそうだ。そんな素性も明らかになっていない男の調査をすることは、趣旨とズレてしまう。今回の事件との関連性が浮かび上がって来ない以上、友香の言う通り、今どうこう言っても仕方がなかった。



「ええ。それに何かあれば学校から電話が来るでしょ」と、ため息まじりに応える柳。



 何故、ため息をついたかというと、



「ああ、大学時代の彼女さんね」



 友香の言ったとおり先ほど訪れた小学校で、偶然にも柳の大学時代の恋人が教鞭を振るっていたらしく、二人は運命の再会を果たすことになったのだった。

 柳は特別、同性愛者ということではなかった。たまたま好きになった相手が同性だったのだ。



「本当、世間は狭いわ……」と柳はうなだれる。

「なんで別れちゃったのよ。いい人そうだったじゃない」



 友香が戸棚から茶葉を取り出し、お湯を沸かす。



「なんていうか……お互い環境が変わって、なかなか会えないことに愛想尽かしたんじゃない?」

「にしては柳、未練ありそうだけど、どうなのよ?」



 大人びた態度で忘れがちだが、友香も思春期真っ盛りの中学生である。恋愛には人一倍興味があるのだろう。柳の前に座り、話をにやにやしながら聞いている。



「み、未練なんてある訳ないでしょ!あんな甲斐性なしに……」

「あら、別に恥じることじゃないと思うけど。生殖本能に起因する恋愛感情は、種族として何よりも正しい衝動じゃない?で、どうなのよ?」



 興味津々といった表情で叔母を見つめる友香。



「もう!いっちょまえに大人の恋愛に口出しするんじゃないわよ!」



 しかし、探究心を満たす前に、顔を真っ赤にした柳に遮られてしまった。



「あら残念ね」



 ここでお湯もちょうど湧いたので、柳への追撃をやめてガスを止めに席を立つ。



「ところで……明日はどうするの」



 友香は、閑話休題とばかりに明日の予定を尋ねた。



「私はもう一度、あのビルに行くけど」

「響ちゃんと?」

「ええ、ちゃんとデータ消してもらわないと」



 そのあと、そのまま遊びに行っていいかしら?と友香が尋ねる。



「わかったわ。じゃあ私は色々と探ってみるわね」



 くれぐれも危ないことはしないでね。と友香に念を押す。



「ええ、もちろん」



 彼女は返事をしつつ、ガラス製のティーポットにお湯を注ぐ。

 透明なティーポットの中で、花開く茉莉花の茶葉を愛おしそうに眺めていた。






8-2


時同じくして、清花が加賀町署に戻ると、何やらドタバタと忙しない雰囲気が辺りを支配していた。



「お、青山じゃねーか。お前今までどこ行って……って今日は非番だったっけ」



 清花の姿を見て、一人の男が声をかけてきた。



「お疲れ様です足利警部。近くを通ったので立ち寄った次第です」

「そうか、青山は仕事熱心だな!」



 彼の名は、足利孝之あしかが たかゆき。捜査一係の警部であり、清花にとっては直属の上司にあたる人物であった。

 彼がニカッと笑う。



「何やら皆さん、忙しないようですが……どうしたんですか」

「どうしたもこうしたもねーよ。見つかったんだよ……金田巳神が」



 声のトーンを落とし、足利がそのワケを話す。



「え、それは本当ですか?」



 清花は驚いた。しかしこのあと、さらに衝撃的な事実を聞かされる。



「ああ、死体でな」



 驚きのあまり、言葉を失った。



「ちょうどいいやお前も来てくれ。人手が足りないみたいでな」



 願ったり叶ったりだった。行方不明になった少年の、何か手がかりが掴めるかもしれない。



「わかりました。至急、車を回してきます」



 清花は地下の駐車場へ向かい、駆け出した。



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