影
主な登場人物
・反町友香(ソリマチ ユウカ
中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。
ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。
茉莉花茶が好き。
・青山清花(アオヤマ サヤカ
神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。
英国人と日本人のハーフ。
灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。
愛車、ナナマル(JZA-70)の整備が趣味。
・神津柳(カミツ ヤナギ
中華街で探偵事務所を営む女性。
カールしたショートボブと眼鏡が特徴。
友香の叔母にあたる、母親的存在。32歳。
7
「おかえりなさい。どうだった?」
清花たちが駐車場に戻ると、友香が車内で待ち構えていた。
柳が、後部座席に乗り込む。
「収穫はゼロね。強いて言うなら、家族が崩壊しかかってるってことがわかったくらいよ」
「そんなにひどいの?」
「ええ、奥さんが憔悴しきってるのと、旦那さんが発狂していたわ」
「そう……お嬢さんが心配ね」
友香がうつむき呟く。
「お嬢さん?」
「ええ、ここの家にはお嬢さんがいるって聞いたんだけど」
「いえ、たしか……奥さんが、子供は慎司君一人しかいないとおっしゃっていたはずですが」
清花が、最後のやり取りを思い出しつつ答える。
「……ふーん」
その返答に、友香は一瞬目を見開いたが、何かに気がついたようで不敵な笑みを浮かべた。
「なるほど、そういうこと……」
「何がなるほどよ……ていうか、お嬢さんがいるって誰から聞いたのよ?」
助手席のシートを掴みながら柳が身を乗り出す。
「あ、清花。車の鍵、返すわね」
そんな彼女にお構い無く、運転席に座った清花に鍵を渡す。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!どうしてあなたが鍵を持ってるの!?」
「散歩してたのよ」
「散歩!?」
どういうことか説明しなさい!と詰問する柳に、気分転換にそこらへんをブラブラしていた。鍵はそのときに借りた。と適当に受け流す友香。
そんな彼女の態度に、柳は自分が最初に訊いたことをすっかり忘れていた。
そのやり取りを隣で見ていた清花は、よくもまあ、こんな出任せを言えるな、と呆れつつ車を発進させた。
7-2
「清花、あなたはこれからどうするの?」
斑鳩邸を出たあと、柳が尋ねた。
いつの間にか日は傾いていて、空は茜色に染まっていた。
「私はこれから一旦署に戻ります」
「そう……じゃあ私たちは、家に帰る前に彼の通っている学校に行きましょうか」
柳が友香に提案する。
友香は、先ほどから何か考え事をしているのか、ええ、とだけ短く首肯した。
「では、そこまで送りますね」
「ありがとう、悪いわね」
彼の通っている学校は、田園調布市外にある小さな私立校だった。
東急東横線沿いに車を走らせ、多摩川を渡る。五分程で着いてしまった。
校門前で、二人が降りる。清花は、運転席側の窓を下げて顔を出した。
「それではまた。明日もそちらに伺います。何かあったら連絡ください」
「また明日ね。暗くなってきたし、運転気をつけるのよ」
「ありがとうございます。では失礼します」
このやりとりを最後に、三人は別れた。友香は終始無言であった。