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誰も知らない誘拐事件  作者: 空波宥氷
28/28

デザイン

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車、ナナマル(JZA-70)の整備が趣味。



・神津柳(カミツ ヤナギ

中華街で探偵事務所を営む女性。

カールしたショートボブと眼鏡が特徴。

友香の叔母にあたる、母親的存在。32歳。

29


 事件解決から翌日。

 友香と清花は、中華加賀町署の前の店で昼食を食べていた。



「そういえば慎司君のご両親、離婚するそうですよ」



 注文を済ませた後、清花が話を切り出した。

 水を飲んだ友香が、その世間話に加わる。



「そう……よかったんじゃない?慎司君にとっても、ご両親にとっても」

「ええ、世間体もありますし。斑鳩誠治もその報いを受け入れているようでした」

「そう……」



 世の中は動き続ける。

 人が殺されても、犯罪に巻き込まれても。明日へと向かって変わり続ける。

 それは時として残酷なことかもしれない。しかし、変わり続けるということは悪いことばかりではない。なぜなら、人は受け止め、前に進むことができる強い生き物だから。

 彼にはきちんと自分の罪と向き合い、償って欲しいと彼女は思った。



「しかし、ひとつだけわからないことがあります」

「?」



 清花が疑問を口にした。

 首をかしげた友香に、言葉を続ける。



「友香も指摘していましたが、慎司君は特にこれといった拘束はされていませんでした。だとしたら、何故逃げ出さなかったのでしょうか?」



 清花は、取調室で友香が言ったことがずっと引っかかっていた。

 チェンの身柄確保をしたとき、少年は拘束されていなかった。だとしたら逃げることもできたはずだ。

 彼女は、その疑問を投げかけた。



「おそらく、父親に金儲けの道具にされたことを薄々感じていたんでしょう。子供って意外と人のことを見ているから。だから逃げ出すにも逃げ出せなかったんじゃないかしら」




 あくまで友香の推測だが、妙に説得力のある回答だった。

 彼女は悲しそうに目を細めた。

 清花も視線を落とし、



「そうですか……子供は親を選べない、とはよく言いますが、彼のような悲惨な目に遭う子供が増えないことを願うばかりです」

「現実問題、それは難しいでしょうね」



 友香が視線を上に向ける。その先には、テレビがあった。

 それにつられ、清花も視線を向けた。

 店の隅に設置されたテレビの中では、女性キャスターがニュースを読み上げていた。






『先日、緋梅学園大学の研究チームが、胎児の遺伝子操作に成功したと発表しました』


『この実験では、卵細胞の分裂過程においては母胎ではなく培養器を用いており、誕生した子供をデザインチルドレンと名付けたそうです』


『チームの代表である川崎教授は、「培養器はノアの箱舟であり、その乗組員である子供たちが世界を作れば、理想の社会、住み心地の良い社会を実現できる」と述べ、研究への期待感を示していました』


『2050年を目処に実用化を目指し、研究を続けていく方針だそうです。続いてのニュースですーー』






「ここまでくると子供を物のように扱っているようにも取れますね。文字通り子供をデザインするわけですから」



 そのニュースを見届けると、清花は視線を友香に戻し感想を述べた。



「名前が悪いわね。それに、いくら有能な遺伝子を持たせて生み出したとしても、教育環境が低レベルだったら元も子もないわ」



 友香も元に直り、清花の意見に頷きつつ同意した。



「そうやって、簡単に失敗作の烙印を押せる状況が理想的とは思えないわ。作り直しが効くって倫理的にどうなのかしらね?」



 モノの本質がわかっていない。とばかりにため息を吐き、全面肯定的なニュースに苦言を呈する友香。

 この世の全てのモノは、二つの側面を持っている。良い面ばかり見て悪い面を考えもしないのは、最も愚かな行為である。また、逆も然りである。



「しかし、今まで不妊で悩んでいた夫婦にとっては一筋の光明ですよ。加えて、男女に限らず生殖行為が行えるということは、性的マイノリティーにとってもある種、救いの手が差し伸べられたと言ってもいいかもしれません」



 清花は、悪い面だけでなく肯定的な意見も述べてみせた。

 客観的にモノを分析できるのは生来のものなのか、それともそれが求められる警察官だからだろうか。どちらにせよ、彼女はしっかりと物事を捉えられていた。

 それは、真剣な顔をして頷く友香を見てもわかる。



「その通りよ。デザインチルドレンは不妊治療やLGBTに対する一つの回答となり得るかもしれない、か。にしても、政府は何としてでもこの消費社会に歯止めをかけたいのね」

「少子化問題ですか」



 科学技術が発展した今、性行為は、もはや生殖行為と呼べる代物ではなくなった。ただ悦楽を得るためだけの行為に成り下がったのだ。



「ええ、ここ十数年ずっと問題視されていたけど、もうかなり切迫しているみたいね。この実験に関して、政府は2億円の予算を組み込むって発表していたわ」

「そうですか……なにより生まれてくる子供たちが、幸せに生きられることを願うばかりです」



 とても悲しそうに目を伏せる清花。

 そんな彼女を見て、



「大丈夫よ、世の中そんなに悪い人ばかりじゃないわ。人間、捨てたものじゃないわよ」



 清花は基本的に無表情だが、その実、感情は豊かで情に熱い。

 見たこともない子供に対して自分のことのように悲しむ彼女に、友香は少し困ったように笑いかけた。



「それでもダメな時は、私と清花がいるでしょ?今回みたいにね」



 その予想外な友香の言葉に、清花は驚いて目を丸くした。

 だが、すぐに嬉しそうに目を細めると、



「……ふふ、そうですね」



 目の前の少女に微笑みかけた。



「あの少年たちにもまた、親子揃って会える日が来るといいですね」

「ええ、全く」



 窓の外に顔を向けると、親子揃って中華街を訪れる家族がいた。

 楽しそうに笑う彼らを見て、友香も微笑んだ。






劇終

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