表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰も知らない誘拐事件  作者: 空波宥氷
26/28

前を向いて

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車、ナナマル(JZA-70)の整備が趣味。



・神津柳(カミツ ヤナギ

中華街で探偵事務所を営む女性。

カールしたショートボブと眼鏡が特徴。

友香の叔母にあたる、母親的存在。32歳。

27


 中華街を飛び出した3人は、エドワード・チェンの別荘がある湯河原町を目指し、国道1号線を南下していた。



「あの日、金田がどうやって消えたのか。答えは簡単なことだったわ」



 清花が運転するナナマルの助手席で、友香がこの事件の種明かしを始めた。

 後部座席に座った柳が問いかける。



「簡単って、どういうこと?」

「その言葉通りの意味よ。金田は普通に、ビル入口から出たのよ」



 そのあまりにもな内容に、彼女は呆気に取られる。が、そのすぐに正気に戻ると異を唱えた。



「ふ、普通にビルから出たって…警察が張り込んでいたのよ?なのに、彼らが金田の姿を見ていないなんておかしいじゃない」



 柳が指摘する通りである。

 その日は警察が一日中張り込んでいたため、正面から出るのは不可能なはずだ。

 しかし、そんな反論は想定済みだったのか、友香がすかさず推理を展開する。



「いいえ、そうでもないの。警察が見落としたのは、金田が死角を利用したからなのよ」

「し、死角…?死角なんてあそこにはどこにもなかったじゃない」

「いいえ、あったのよ。彼らがビルを出るときにはね」



 ニヤリと笑う友香。

 彼女の発言を理解できず、柳はさらに困惑する。



「出るときには…?」

「あのビルの隣に花屋さんがあったでしょ?金曜日と土曜日は、朝早くに配達のトラックが来るの」



 ここで柳はハッとした表情をする。

 最も、友香からは見えないのだが。



「なるほど。金田は、それを利用したわけね。あのビルの脇には細い路地があった。トラックに隠れてそこに飛び込めば、警察に見つからずに立ち去ることができる…!」



 柳が推理を展開する。

 あのビルの脇には、発泡スチロールが置かれていた細い路地があった。彼女は訪れた際、それを見逃さなかったのである。

 その彼女の推理は、友香を満足させられたようだ。



「その通りよ。トラックの滞在時間はおよそ3分。通り過ぎるには充分過ぎる時間だわ。慎司君を連れた組員も同じ手を使ったのでしょう。後は、適当な場所で取引時間を待った」

「にしても、警察の張り込み方が杜撰ね。トラックが止まったら普通、確認くらいするものじゃないかしら」



 柳が警察への不満を口にした。

 それには友香は、チラリと運転席の方を見やってから、



「その感は否めないわね。でも、それは過ぎたこと。今言っても仕方の無いことだわ」



 柳に同調しつつも、追求はしなかった。

 彼女は、友香に頷き、



「そうね。にしても、そのトラックを見れるなんて運が良かったわね」

「ええ、本当。現場百返なんて言うけど、やっぱり基本は大切ね」



 まぁ、私のは偶然の産物だけど。と付け加える友香。

 彼女は運転席を見やる。そこには、先程からずっと口を閉ざしている清花がいた。彼女は、険しい表情を浮かべ、前を見つめていた。


 基本に立ち返る…そう思えば簡単な話をだった。

 犯罪を未然に防ぐのも立派な警察官の仕事である。

 清花は後悔していた。

 少女に問い詰められたとき、なぜそう言い返せなかったのか。


 プライドが傷つけられたとかそういうわけではない。友香を腹ただしく思っているわけでもない。

 彼女はただただ自分が許せなかった。

 警察官としての自覚が足りていないではないか、矜持を持ち合わせていないではないか。

 清花は悔しかった。


 私は警察官に向いていないのではないか。そんな思いさえ頭をよぎった。

 ハンドルを強く握しめた手が震える。


 そんな時、友香が声をかけたのが聞こえた。



「過去を省みるのも大切だけど、そのせいで今を疎かにしては本末転倒よ」

「え…?」



 自分に向けられた言葉だと思い、ハッとしてチラリと友香を見やる清花。

 すぐに視線を前方に戻してしまったから彼女にはわからなかったが、少女はニヤリと笑みを浮かべた。



「速度超過。ここ、アウトバーンじゃないのよ?それと、スピードを出すならせめて前を見なさい」



 道は時間帯のせいなのか混雑していなく、清花の運転するナナマルはかなりのスピードを出していた。

 友香の言葉に、彼女は表情ひとつ変えず、スピードを落とした。

 そして、少しの間があってから、



「ふふっ…そうですね。後ろを向いていては事故を起こしてしまいますからね」



 清花はそう言い、少し困ったような笑みを浮かべた。それには、友香も微笑みを以ってして答えた。

 この少女には心底敵わない。清花は、隣に座る少女を感じながらそう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ