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誰も知らない誘拐事件  作者: 空波宥氷
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清花の選択

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車、ナナマル(JZA-70)の整備が趣味。



・神津柳(カミツ ヤナギ

中華街で探偵事務所を営む女性。

カールしたショートボブと眼鏡が特徴。

友香の叔母にあたる、母親的存在。32歳。


25


「で?清花はどうしたいの?」



 物部から自宅謹慎を命じられた清花は、探偵事務所を訪れ、先ほどあったことを友香と柳に話した。

 そして、友香の反応がこれだった。

 もちろん、逮捕しに向かいたいに決まっている。だが、物部に対してあれだけの啖呵を切ったにも関わらず、清花には迷いがあった。

 というのも、彼女にとって警察官とは憧れの職業だったからである。正確には、憧れの人物が優秀な警察官だったといった方が正しい。その警察官とは、自分の育ての親でもある、友香の母親のことである。


 清花は彼女から色々なことを教わった。その恩を返すため、清花は必死に勉強して、キャリア組にまで成り上がった。この件でもし、経歴に傷がつくようなことにでもなれば、彼女と彼女を目標に努力してきた自分を裏切ることになるのではないかと考えていた。

 一方で、もし彼女ならどうするか、心理学的モデリングをするのなら、なりふり構わず犯罪者を捕まえに行くだろう。清花の心は、この二つの狭間で揺れ動いていた。


 彼女は、その表情や印象からは意外と思われるかもしれないが、義理人情に厚い人間なのだ。良いことではあるのだが、今回はそれが仇となっていた。



「どうしたいって……決まっているじゃないですか」

「どうするつもりなの?」



 まだ考えもまとまっていない内に友香に尋ねられ、反射的に答えてしまった。

 しかし、そんなことは友香にはお見通しらしく、追撃され清花は黙り込んでしまう。

 そんな様子を見て、少女が口を開いた。



「そう、ならいいんじゃないの?いつも通り、何かが起こってから得意げになって犯人捕まえてれば。ねぇ、おまわりさん?」



 言葉こそ挑発的だが、どこか失望したような表情で清花を見つめる友香。



「そ、そんな言い方……!」



 清花は、彼女の言葉に、悲痛に歪んだ顔をする。

 だが、友香は容赦なく言葉を続けざまに放ってくる。



「何?反論したいのならどうぞ。まぁ最も、今のあなたにできるとは思えないけど」

「ちょ、ちょっと友香…」



 柳がオロオロとした様子で二人を見る。

 しかし、友香はそんな彼女を歯牙にも掛けず清花を真っ直ぐに見つめる。


 彼女は、少女に言葉を返すことができず、眉間にシワを寄せ、睨み返すだけしかできなかった。

 友香は、お見通しだった。

 彼女は、しばらく清花の悲しみの入り混じった瞳を見つめていたが、



「わかったわ。あなたが行かないって言うのなら、私たちだけで行くわ」



 小さく溜め息をつきつつ、友香がソファから立ち上がる。



「清花、その別荘の住所、教えてくれるかしら?」

「行って……どうするんですか……?」



 清花が目を合わせずに尋ねる。



「逮捕するに決まってるじゃない。私だって日本国民よ?」



 友香が言っているのは、おそらく私人逮捕のことであろう。

 私人逮捕とは、逮捕状が必要のない、また緊急性のある場合行われる、一般人による逮捕のことである。いつでも警察官がいるとは限らない。そのため、刑法で決められ、一般人が逮捕できるような仕組みができている。その条件には、犯罪者が現行犯であること。軽度の罪に該当する場合、緊急性があること。の二つが挙げられる。



「しかし……」

「たとえどんな理由があろうとも、犯罪を犯した者は、法の裁きを受け、その罪を償わなければならない」



 友香は清花の目の前に立ち、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ言う。身長差から友香が見上げる形になるが。



「このまま何もしなくても物部警視正が言う、上手くいけば慎司君は返ってくるでしょう。でも、チェンは罪を犯したにも関わらず、裁かれないかもしれない。それは決して許されることではないわ」



 友香の言っていることは正しい。正論ゆえ、清花は黙り込むしかなかった。



「だから私は行くのよ」



 友香言い切った。

 その彼女の瞳は、力強い光を放っていた。

 母親から受け継いだ、母親譲りの強い意志を友香は示す。



「逮捕するなら、なにより慎司君を監禁している今が好ましいわ」



 彼女はここで言葉を切って、



「悩んでる時間なんかないのよ……!清花!」



 静かに、力強く訴えた。

 その真剣な友香の表情に、恩師の顔が重なって清花には見えた。

 その光景に彼女は目を見開く。

 このとき、彼女の覚悟が決まった。



「もう一度聴くけど、どうするの清花?」

「ええ、行きましょう……」



 彼女は真っ直ぐと、恩師の面影を見つめ返した。



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