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誰も知らない誘拐事件  作者: 空波宥氷
23/28

矜持

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車、ナナマル(JZA-70)の整備が趣味。



・神津柳(カミツ ヤナギ

中華街で探偵事務所を営む女性。

カールしたショートボブと眼鏡が特徴。

友香の叔母にあたる、母親的存在。32歳。


24


 加賀町署へと戻った清花と足利は、署長室に呼び出されていた。



「捜査から手を引けとはどういうことですか……!?」



 清花が抗議の声をあげた。

 その理由は、署長、物部警視正から捜査を打ち切れと命じられたからである。



「お前ら、件の誘拐事件でセキュリティ会社を調べてたらしいな」



 物部署長が、机の上で手を組みながら清花を見る。

 物部は、足利よりも歳上なのだが、整った顔立ちのせいか実年齢よりも若く見える。綺麗に揃えたチョビ髭が存在感を放っていた。



「今さっき、内務省から正式な抗議が来た」

「なっ……!?」



 あり得ないことだった。国務省という本丸には立ち入ってはいないし、聴取した生天目社長も捜査に協力的だった。

 それゆえ、清花は捜査打ち切りの命令に、ことさら不満を持った。

 不満を持っているのは足利も同じだった。



「じゃあ子供はどうすんですか、見て見ぬ振りをしろと?冗談じゃない」



 足利が顔を歪ませ、首を横に振る。



「その点は安心しなさい。人命救助に関しては上手くやるから、私に任せなさい」



 足利は納得していない様子だった。

 しかし、頑として譲らない物部の視線に根負けしたのか、



「わありましたよ。じゃあ、任せましたからね」



 頭をボリボリとかいて、退室していった。

 清花もそれに続こうとしたが、



「青山、お前は残りなさい。ちょっと話したいことがある」



 物部に止められた。

 ドアが閉まり、静寂が訪れると、清花は切り出した。



「話とはなんでしょうか?」

「私に敵意を抱くのは結構だが、国家を敵に回すものではない」



 物部が鋭い眼光で清花を見据えた。



「お前はキャリア警察官だ。たった一つの過ちで、キャリアを、今まで培ってきた全てを失ってしまうことがある」



 その静かな言葉に含まれる語気に、清花は黙って聴くことしかできない。



「私には、将来有望な警察官を守る義務がある。そしてこれは私の矜持でもある」



 ここで、物部は静かに立ち上がる。



「警察官が捜査をするなと言われることが、どれほどの屈辱かよくわかっている。お前の矜持を守ってやれずにすまない」



 次の瞬間、彼は頭を下げていた。清花の悔しさや歯痒さが痛いほどわかっていたからだ。

 彼自身も、清花に捜査をして欲しかった。それが彼女の成長につながると考えていたからだ。これは、これからの彼女を守るために仕方のない選択だった。だから余計に悔しかったのだろう。身体がふるふると震えていた。



「顔を上げてください署長……」



今度は清花が静かに語りかけた。

物部が頭を上げ、清花の目を見る。



「お言葉ですが、私の矜持を守るのはあなたではなく、私自身です」



 物部は黙って聴く。



「申し訳ありませんが、捜査は続けさせていただきます。これが私の矜持です」



 清花は啖呵を切った。

 そんな彼女に対し、物部は視線を落として、



「そうか」



 とだけ呟いた。彼が再び椅子に腰掛ける。

 部屋に沈黙が訪れる。

 しばらくして、再び清花を見据えた物部が言い渡した。



「お前に今日から三日間の自宅謹慎を命ずる」

「……署長!」



 清花は抗議の声を上げる。が、物部はそんな彼女に御構い無しに言葉を続けた。



「……その間、お前は警察官ではなくなる。あとは言わずともわかるな?」



 清花は歯噛みした。

 だが、彼の言葉は、彼女を縛り上げるためではなかった。

 物部は椅子を回し、清花に背を向けて言う。



「小田原警察署に協力要請しておくか?」



 清花は目を見開いた。ここで、物部の言わんとしていることを彼女は理解した。まさか、署長が自分の味方をしてくれるとは予想外だった。

 いや、それは違う。最初から彼は、彼女の味方であった。



「……!いえ、結構です。ありがとうございます」



 興奮気味にお礼を述べ、深々とお辞儀をする。



「なぜ私に礼を言うのかわからんな。ほら、さっさと行きなさい」

「署長……!失礼します」



 最後まで背を向け続けた物部に、再び礼を述べると、清花は署長室を後にした。

 そんな勇ましく、高潔な彼女の背中を見た物部は、微かに笑みを浮かべた。











 清花が署長室から出ると、足利が壁に寄りかかっていた。



「よ。なんか言われたか?」



 彼女を心配して待っていてくれたようだ。



「いえ、大丈夫です。ご心配おかけしました」



 いいってことよ。と彼は笑う。



「にしてもヒデーよな。内務省から抗議ってどいうことだよ」



 足利が不満を露わにした。

 それからすぐにハッとすると、



「……内務省の傘下にあそこのセキュリティ会社があったな。あのやろう、仲間庇うために抗議したってのか。涼しい顔しやがって」



 彼は舌打ちをした。

 それに清花は、冷静に返す。



「いえ、もしかしたらチェン本人が我々の動向に気がついて抗議したのかもしれません」

「ハンッ!奴が攻撃してきたっていうのに、そうとは知らずに庇うなんて滑稽もいいところだな」



 呆れたような、嘲笑するような表情をする足利。

 不満を言えてスッキリしたのか、彼は壁から身体を起こした。



「ま、物部さんが上手くやってくれるっつーんなら任せるか」



 じゃあな。と手をヒラヒラさせつつ、上司は去っていった。

 それが、彼の答えだった。



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