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誰も知らない誘拐事件  作者: 空波宥氷
22/28

クラッカー

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車、ナナマル(JZA-70)の整備が趣味。



・神津柳(カミツ ヤナギ

中華街で探偵事務所を営む女性。

カールしたショートボブと眼鏡が特徴。

友香の叔母にあたる、母親的存在。32歳。


23


 翌日、清花は上司の足利とともに、サイバードルフィンを訪れていた。

 彼に、友香から聞いたことを自分の言葉として説明すると、快く同行を承諾してくれた。

 ここに来る前に、チェンの自宅アパートを訪れていたのだが、もぬけの殻だった。その時のことを清花は思い返す。











「全く、灯台下暗しとはこのことだな」



 アパートの前に立った、足利の第一声がこれだった。

 チェンが住んでいるアパートは、金田の事務所がある通りから路地に一本入ったところにあった。

 神奈川県警の公安課が管理するデータベースの検索エンジンにかけ、彼の住所や人相を確認した二人は、早速、彼の自宅を訪れていた。警察官ならではの、友香にはできない荒技であった。


 アパート周辺は、路地にあるせいか薄暗く、陰気くさい印象を受けた。

 彼の部屋の呼び鈴を鳴らしてみたが、反応はなく、人の気配もなかった。一階の大家に事情を説明し、鍵を開けてもらう。


 中は、ワンルームで1k。広さは20平方メートルほどだった。ジメッとした部屋に、締め切ったカーテンの隙間から陽の光が差し込んでいた。清花がカーテンを開ける。シンクの蛇口から水滴が垂れ、食器を浸けられた水がぽちゃんと音を立てた。その足元には大きなゴミ袋が三つ無造作に置かれていた。


 光源を確保した二人は、手分けして何か、彼の行き先がわかるようなものを探した。

 二人は、彼の自室と思われる部屋を調べる。彼の自室は、ハッカーとは思えない普通の部屋だった。デスクに一台のパソコンが置いてあり、そこからいくつかのケーブルが生えていた。清花は、てっきり大きなモニターやら何台ものパソコンがあるものと思っていたが、そんなことはなかった。


 清花は、デスクの周辺を調べていた。

 その時だった。デスクの隣にあったラックからファイルがどさっと落ちた。彼女は急な出来事に驚きつつ、落ちた物を確認すべくラックに近づく。


 ラックには、ファイルが置かれており、コンピューターウィルスに関する論文や資料が、丁寧にファイリングされていた。落ちた物も論文などを閉じたファイルで、清花はそれを拾った。すると、ファイルから何かが、ひらりと床に落ちた。清花はそれに気がつき、手にする。



「写真……?」



 それは、二人の男が笑顔で写っている写真だった。明確な場所まではわからなかったが、どこかの家の前で撮った写真のようだ。

 清花は、この二人に全く心当たりはなかった。しかし、この家の表札にある名前には覚えがあった。



「生天目……」



 やはり、友香から聞いた通り、チェンは生天目一家と交流があったようだ。



「何か見つかったか?」



 タンスを探っていた足利が声をかけてきた。



「ええ、どうやらサイバードルフィンとの交流があったようです」

「サイバードルフィンってのは、サイバーセキュリティ会社の?」

「ええ、この写真に写っている家の表札に、生天目とあります。おそらく、サイバードルフィンの社長宅で撮られたものなのでしょう」



 清花はすでに、友香から聞いていたため、チェンが生天目家と関わりがあったのを知っていた。しかし、それを自身が知っているのは不自然なため、足利には隠していた。



「なるほどな、チェンも凄腕のハッカーだった……っつーことは、その二人が知り合いでもおかしくはねぇな」



足利が納得といった様子で頷く。



「そちらは何か見つかりましたか?」

「ああ、これを見てくれ」



 そう言って、差し出したのは銀行の通帳だった。清花が中を検める。



「一番新しいページを見てみろ」



 足利の言うように、一番新しい出納履歴が表示されたページを開く。清花は目を見開く。

 最新履歴から二つ上、そこには、引き出し額4000万円と表記されていた。



「これは……!」

「金田が要求してた、身代金の額と同じだよな?」



 足利が声を低くして言った。

 そう、金田が電話で要求した、身代金の額と見事に一致する。これがただの偶然な訳がない。



「それに、二係の知り合いに訊いたんだが、この口座、3日前に破棄されてるみたいだ」

「破棄ですか?」

「ああ、そして残りの金も他の口座に移されてたらしい」

「なぜ移す必要が……?特段、意味はないのでは?」

「ふんっ、やましいことがバレそうになった奴は、他のやましい部分を必死に隠そうとするもんだ。こいつ、誘拐の他にも相当やらかしてるんじゃないか?」



 刑事のカンというやつなのだろうか。足利は、チェンが金融関係でも罪を犯しているのではないかと推測していた。



「マネーロンダリングですか……?」

「すまんがそっちは専門外だ、難しいことはわからん」



 足利は肩をすくめた。



「しかし……これをどこで?」



 清花は、彼がこの通帳をどこで手に入れたのかずっと気になっていた。彼にその疑問をぶつけると、



「そこのゴミ袋の中だ」



 そう言って彼は、シンクの下を指差した。

 そこには封を開けられ、中身を掻き回されたゴミ袋があった。



「どうやらここを出てった次の日は、燃えるゴミの日じゃなかったらしいな」



 彼は得意げに鼻で笑った。

 しかし、彼はジョーク混じりに意外と重要なことを言っていた。

 ゴミ捨て日は、山下町に属する中華街では月、火、木、金の計4日設けられている。

 そして、燃えるゴミの日は、月曜日と金曜日である。今日が水曜日であることから、取り引きをした日は、ゴミ収集車が早朝に去った金曜日ということになる。チェンには、4000万を引き出してから通帳をゴミに出すことはできない。ということは、彼がこの家を出て行ったのは、先週の金曜日から土曜日の間ということになり、彼が犯人であるなら辻褄が合う。


 それは、大家の話から裏が取れた。大家の話だと、4日ほど前から姿を見ていないそうだ。それを指し示すかのように、ポストボックスを見ると、新聞やスーパーのチラシが差し込まれたままになっていた。

 兎にも角にもこれでチェンは、ほぼ完全にクロとなった。











 そして、今に至る。

 彼の部屋から見つかった写真を頼りに、二人はサイバードルフィンを訪れることになったのである。



「しっかし、戦争の英雄が犯罪者か……悲しいもんだなぁ」



 足利がつぶやく。



「ええ、全く……」



 清花は、それに同意しつつインターホンを押した。



「はい、どちら様ですか?」



 インターホン越しに女性の声が返ってきた。

 清花は警察手帳をカメラから見えるように提示する。



「先ほど連絡した青山です。社長とお話するアポイントを取っていたのですが……」

「ちょっとお待ちください。今開けます」



 玄関のロックが解錠される。



「お待ちしていました。社長はこちらです。どうぞ」



 女性がお辞儀する。女性は清花より身長が少し高く、西洋風の整った顔をしていた。

 通された職場は、何台ものコンピュータが置いてある明るい部屋だった。チェンの部屋とは正反対の印象を受け、なぜだか清花は悲しい気持ちになった。そこでは、ざっと十数人の社員が働いており、海外からの攻撃に対応しているようだった。

 その部屋の奥に座っていた眼鏡をかけた細身の男性が、清花たちに気がつくと立ち上がった。



「あなた、お客様です」



 女性が男に呼びかけた。

 その呼称から、彼女が社長夫人だということがわかった。



「あ、警察の方……初めまして、社長の生天目です」



 生天目と名乗った男は、名刺を二人に差し出す。名刺には、サイバードルフィン代表取締役、生天目創也(Namatame Souya)とあった。

 清花は、先日した友香との会話を思い出した。



(なるほど、彼が友香が言っていた友人の父親ですか……)



 ついこの間、話題に上がった人物と会うことになるとは、噂をすれば影というか世間は狭いというか、縁とは不思議なものだと清花は思った。



「お忙しい中、無理を言ってすみません」

「いえいえ……ああ、ここではなんですからどうぞこちらに」



 清花たちは目の前にあった、応接室へと通された。



「どうぞ、お座りください」

「ありがとうございます」

「で、話とは?」



 二人が座ると、生天目社長が話を切り出した。



「先日、中華街である事件が起きたのですが、その捜査線上に一人の男が浮かび上がってきまして……エドワード・チェンという人物なのですが、ご存知ありませんか?」

「ええ、知っているもなにも、私の父の親友です。よくうちにいらしてました」



 友香からすでに聞いていた通りだ。

 チェンと一緒に写真に写っていた男は、社長の父だったようだ。



「その彼が今、どこにいるのかわかりますか?」

「さぁ…そこまでは……あ、でも以前、湯河原に別荘があるとか話していたような……」

「そうでしたか……ありがとうございます」

「お力になれず、すみません」

「いえ、お時間いただき、ありがとうございました。では、我々はこれで失礼します」



 二人は立ち上がり、会議室を出る。生天目も後に続く。



「あ、そういえば」



 と、清花が思い出したように話を始めた。



「先日起きた、内務省のクラッキング事件ですが、調査の方は順調ですか?」

「いえ……誰が何の目的でしたか検討もつかないのでなかなか……」

「そうですか……」

「それが何か?」



 生天目が怪訝な顔をする。



「実は、その件にも彼が関与していたかもしれないのです」

「それは本当ですか……?」

「ええ。可能性は高いかと」



 生天目は指を顎に当て、黙り込んだ。考えを巡らせているようだった。



「言われてみれば確かに、相手は内務省の壁を破っているんだよな……」



 彼は、ブツブツと呟くと、



「よし、わかりました。その観点からも調査してみようと思います」



 清花たちを見て頷いた。



「では引き続き、警察との共同捜査、よろしくお願いします」

「また、何かあったらご連絡ください」

「ご協力感謝します。では」



 生天目に礼を言い、二人はサイバードルフィンを後にした。




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