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誰も知らない誘拐事件  作者: 空波宥氷
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主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車、ナナマル(JZA-70)の整備が趣味。



・神津柳(カミツ ヤナギ

中華街で探偵事務所を営む女性。

カールしたショートボブと眼鏡が特徴。

友香の叔母にあたる、母親的存在。32歳。



・生天目 響(ナマタメ ヒビキ

友香のクラスメイトで、親友。

黒髪ロングをハーフアップにした少女。

天才ハッカー。バニラアイスが好物。

22


「犯人の目星はついた。あとは絞り込むだけよ」



 友香が不敵な笑みを浮かべた。

 そんな少女に対して、柳は保護者として、これからどうするつもりなのか尋ねる。



「絞り込むって言ったってどうするのよ?かなりの人数よ?」



 ハッカーチーム結成には、国の多大な援助があった。そのため、戦後死亡した人たちを除いても、軽く千人を超えるくらいの人数がいた。



「そうねぇ……清花たちに手当たり次第、家宅捜索でもしてもらおうかしら?」

「……本気で言ってる?」

「冗談よ」



 怪訝な表情をする柳に、友香がクスクスと笑う。



「じゃあ、その絞り込む方法は後々考えましょうか」

「はぁ……本当あなたはもう……」

「あれ?そういえば……こっちのファイルは何かしら?」



 ウィルスコードのファイルを閉じると、もう一つファイルがさのアイコンが表示される。

友香はファイルが二つあったことを思い出す。

 そのファイルを開くと、何やら音声データのようだった。パソコンの音源キーをつける。



『息子は預かった……』



 中身は、金田が身代金を要求した、通話音声だった。



「あ、これは……幻の身代金要求の電話ね」



 柳が横で驚く。



「清花がついでに入れてくれたのね……」

「シッ!静かに……!」



 右手で柳を制し、左手の人差し指を自らの口に当て、真剣な表情をする友香。



『明日の夜、12時に4000万円をバッグに詰めて持って来い。場所は、山下公園の水の守護神像の前だ』



 ブツッと音を立て回線が切れる。

 友香が急いで巻き戻し、再び音声を流す。



「友香……?」

「声がする……」



 友香がポツリと呟き、また音声データを巻き戻す。



「ここ!人の声が聞こえない?」

「え?どこ?」



 柳が耳を懲らして音を聴く。なるほど、人の声だ。小さくて聴き取り辛いが人の声が聞こえた。



「金田の事務所は防音がなされていた……つまりこの声は犯人側の音になるわ……」



 再び巻き戻し、今度はイヤホンを片耳につけて聴く友香。

 しばらくして彼女は瞳を輝かせ、不敵な笑みを浮かべた。それは獲物を見つけた猫のような、凄味のある笑みであった。



「何かわかったの?」



 一人置いてけぼりの柳が尋ねる。

 すると友香の口から衝撃的な言葉が飛び出した。



「ええ、よく聴くとわかるんだけど、これ、金田の事務所の下にある魚屋の声だわ」

「え!?じゃ、じゃあ犯人は金田の事務所の近くに居たってこと!?」



 柳はギョッとする。

 金田の事務所は外からの音を遮断している。ということは、この音声は犯人側である。つまり犯人は、柳が指摘した通り、金田の近くに居たということになる。



「ええ、私もそう思うわ。犯人が、近くに居たことは間違いないわ」



 友香は電話を取り出し、響にかける。もうなり振り構っていられないといった様子だった。



「響?私だけど、ハッカーの知り合いに中華街に住んでる人はいるかしら?」



 電話はすぐに繋がった。繋がった瞬間、友香がまくし立てる。その横で柳が不安そうに見つめていた。



「え?えぇと……いるよ!お祖父さんの友達で、私も色々教えてもらってたんだけど、確か中華街に住んでるって言ってた気がするわ」

「それはなんて人!?」

「えーっと……エドワード・チェンって名前だったかしら?戦時中、ハッカーチームの外人部隊にいた人よ」

「その人、どこにいるかわかる?」



 友香が声のトーンを落とす。



「うーん……そこまでは……」

「そう、ありがとね」

「力になれなくてごめんね……」



 響が、申し訳なさそうな声を出す。



「いえ、助かったわ。じゃあまた」

「うん、またね」



 友香が通信を切り、スカートのポケットに板電話を仕舞う。



「いたのね」

「ええ、一人居たそうよ」

「思いがけず、絞れたわね」

「ええ、後は彼の住所を特定するだけ。人の声なんて百メートルが限界だわ」



 魚屋の声から、居住範囲を絞り込む友香。



「じゃあ、歩いて探す?」

「いいえ、そこは清花に任せるわ」



 電話のボタンを押す友香。清花に電話をかけるようだ。



「仕事中かしら?」



 耳に当て、待っていると、清花が出た。



「もしもし清花?今大丈夫?」

「ええ、まぁ、どうしました?」



 清花が声を小さくして、話す。



「データ送ってくれてありがとね。おかげで犯人の目星がついたの」

「本当ですか……!?」



 清花が驚きの声をあげる。というのも、まだ彼女がその段階に達していなかったからである。

 鑑識室を出た後、サイバー課を訪れ、データの解析をしてもらっていた。しかし、ウィルスを仕込まれた過程が、複数の海外サーバーを経由していたらしく未だに発信元を掴めていない状況だった。にも関わらず、友香は別の方向から犯人に目星をつけてしまった。清花が驚くのも無理もない。



「ええ、ハッカーのエドワード・チェンという人物よ」



 友香は目星をつけた課程を簡単に説明した。



「なるほど……上手く絞り込みましたね」

「ええ、それで清花に頼みたいことがあるんだけど……」

「……なんでしょうか?」



 清花もまた真剣な口調で、友香に尋ねた。



「彼の住所を早急に調べてほしいの。できるかしら?」

「ええ、わかりました。至急、サイバードルフィンに聞き込みに行ってきます」

「あ!あとそれから」



 通話を切ろうとした清花を友香が遮る。



「この前、内務省のサーバーが攻撃されたけど、そのことも調べてくれないかしら?」

「その件については、すでにサイバー課がセキュリティ会社と共同で調査中しています。しかし、どうしてまた?」



 怪訝そうな声をする清花。



「その人物と、今回の事件の犯人が同一人物じゃないかって私は考えてるからよ」

「……どういうことですか?」

「これも私の想像だけど、犯人が自分の足取りを隠すためにサーバーを攻撃したんじゃないかって思ってるの。内務省は顔認証システムの元締めでしょ?」



 日本は、世界有数の監視カメラ大国となった。そのカメラには顔認証システムが搭載されているため、人混みに紛れようが、遠くに逃げようが日本国内であれば、ほぼ確実に犯罪者を検挙できる仕組みになっていた。そして、そのシステムを管理しているのが、国の中枢機関でもある内務省だった。


 監視カメラ大国化の背景には、同盟国である英国の影響が大きいと推測される。ただ、英国を真似たとはいえ、日本は治安の悪化から、警察官は常に拳銃の所持を義務付けられているが。


 余談だが、このシステム導入当初、人物の表情や心拍数によって、AIが犯罪者予備群を通報するという機能が存在していた。だが、誤認逮捕や誤作動が多く、現在ではこの機能は完全凍結されている。

 初めてスイッチを入れた瞬間、全国民が犯罪者認定されたって話は流石に失笑したわ。とは、友香の談である。



「わかりました、友香が言うのなら、調べてみます」

「ええ、よろしくお願いね」



 清花が了承し、電話を切る。



「あとは清花に任せましょう」

「そうね」



 友香の意見に柳が同意する。

 友香は姉妹同然に育った清花を、心から信頼していた。きっと、彼女なら大丈夫だろう。



「さて、お茶にしましょうか」



 少女は、スカートのシワを両手で伸ばしながら立ち上がり、台所へと向かった。




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