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誰も知らない誘拐事件  作者: 空波宥氷
16/28

誰も知らない誘拐事件2

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車、ナナマル(JZA-70)の整備が趣味。



・神津柳(カミツ ヤナギ

中華街で探偵事務所を営む女性。

カールしたショートボブと眼鏡が特徴。

友香の叔母にあたる、母親的存在。32歳。



・李徳深(リー トクシン

中華街で茶屋を営む、事情通の男。

茶屋の名前は、峯楼館(ホウロウカン。

友香が幼い頃から親交があり、今では茉莉花茶を一緒に飲む仲。

何かと友香の面倒を見ている。

17


 柳のモバイルウォッチに着信があった。相手は清花だった。

 認識画面をタッチし、回線をオンにする。



「清花からだわ。もしもし清花?」

「柳さんですか?新しいことがわかりました」



 清花の名前に反応したのか、友香が椅子から立ち上がると柳に駆け寄る。

 清花がテレビ回線にしていないため、彼女の姿は映っておらず、名前だけが表記されていた。



「新しいこと?あ、ちょっと待って……大丈夫よ」



 友香に気がついた柳が、スピーカー機能を起動させる。



「先ほど、一人の構成員の男が、自分が慎司君を運んだと自供しました」

「それは本当なの!?でもなんでそんな急に……」



 柳は驚きのあまり大きな声をあげ、友香は眉をひそめる。



「はい。なんでも当時、金田にこの件を口外するなと強く言われたそうです。そして、その数日後、ひどく動揺していたと。男は、それが彼の行方不明になっていた原因なんじゃないかと思い、供述に至ったそうです」



 すでに金田が死体で発見されたことを、男はもちろん知らない。何も知らない彼は、必死に金田を見つけて欲しいと願っていた。そんな彼の義理堅さに、清花はどうしても真実を伝えられなかった。そのことを思い出し、清花は顔をしかめる。



「動揺していたってところ、詳しく聞かせてくれる?」



 話を聞いていた友香が、柳の腕を掴み、モバイルウォッチに話しかける。



「はい。彼は3日前、金田から子供を売ってきて欲しいと頼まれたそうです。慎司君の写真を見せたところ、その子供とよく似てると供述していました」

「強制捜査の前日ね」

「取引場所は、山下公園の水の守護神像の前で、夜遅くに行ったそうです。取引は無事終了し、金田に報告したようですが、その日は変わった様子は見られなかったそうです」



 友香も柳も、清花の話を一語一句聞き逃すまいと、真剣な表情をして聴いていた。



「金田の様子に異変が起きたのはその翌日、一本の電話がかかってきてからだそうです。通話後、焦った様子の彼に、ちゃんと渡したか?と訊かれたそうです」

「通話相手は斑鳩政司?」

「ええ、おそらく。そして彼が取引は滞りなく行われたと告げると、取引相手の人相や、特徴などを事細かく訊かれたそうです。その後日です、金田が行方不明になったのは」



 どうりで、突入時にいないはずである。もうこの時にはすでに殺されていたのだから。

 一つずつ、真実が明かされ、それが繋がっていく。だが、全体像の解明にはまだ遠い。

 友香が、さらなる追求のために質問を繰り出す。



「ちなみに、その取引相手の特徴は?」

「暗かった上に、帽子をかぶっていたため、顔はわからなかったそうです。しかし、小太りで少し腰が曲がっていたらしく、老人だったんじゃないか、と」

「そう……ありがとう」



 少女が礼を述べる。しかし、何か引っかかったのか、ソファに座り直すとすぐに考えるポーズを取り耽っていた。



「手違いの真相が、これでわかったわね」

「ええ……」



 柳の言葉にゆっくりと、友香が頷く。何か釈然としない様子であった。



「手違い……ですか?」

「ああ、ごめんなさい。これはあくまで私の想像なんだけど……」



 一人おいてけぼりを食らった清花に、先程まで話していたことを顔を上げた友香が説明した。



「なるほど……にしても本当、すごい想像力ですね」

「でも、警察でも狂言誘拐を疑う刑事はいたんじゃない?」

「いえ……捜査本部は、金田たちが誘拐したと決め込んでいましたから……」



 それに、友香は中学生である。そんな彼女が、ここまで考えられたことに清花は驚いたのだ。やはり友香は、常人とは思えないセンスを持ち合わせているのだろう、と確信した。



「では、私はそろそろ仕事に戻ります」



 清花は、仕事を抜け出して柳に電話をかけていた。しかし、いつまでも油を売っているわけにはいかない。要件も済んだので、清花が会話を切ろうとする。



「わかったわ、それじゃあ」「あ、柳さん」「ん?どうしたの?」



 しかし柳が回線を切りかけたとき、清花は何かを思い出したようで、



「一つ、伝え忘れていました。明日、斑鳩政司を任意で取り調べします」

「わかったわ。また何かわかったら連絡ちょうだいね」

「もちろんです。それでは、失礼します」



 柳が通話回線を切る。と同時に円形の映像が時計に収束する。

 友香もスカートを整えるため座り直し、お茶を飲んだ。



「核心に近づいてきたわね」

「ええ、あと一歩といったところかしら?」



 第一部は、ね。と友香がぼそりと呟く。

 明日の聴取で、事件の第一部は全て白日の下に晒される。だが、第二部に関しては、手がかりはほぼ皆無である。



「明日の聴取で、何か進展があればいいんだけど」



 友香は望み薄な願望を述べつつ、お茶を口にした。



「あれ……?」

「ん?どうしたの?」



 友香が茶器を持ったまま硬直する。側から見ていた柳は、お茶に虫でも入ってしまったのかと思った。そんな彼女に、友香は、茶器を見つめながら問いかけた。



「ねえ柳、斑鳩家に訪れた時、ご家族は身代金の要求をされたって言ってた?」

「い、いえ……何も言ってなかったわよ?」

「それっておかしくない?金銭目的の誘拐よ?お金を要求しなかったら、意味ないんじゃないかしら」



 友香が顔を上げ、柳を見る。



「た、たしかにそうだけど……」



 彼女の言葉にうろたえる柳。その傍ら、友香は思考を巡らせる。そして、次の瞬間、友香が目を見開く。



「まさか……!」



 何かに気がついたようだった。彼女は興奮気味に板電話を取り出すと、どこかに電話をかけた。



「あ!もしもし?ちょっと訊きたいことがあるんだけど……」



 しばらく友香は、通話相手と真剣な表情で言葉を交わしていた。




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