表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰も知らない誘拐事件  作者: 空波宥氷
13/28

甘いバニラ

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車、ナナマル(JZA-70)の整備が趣味。



・神津柳(カミツ ヤナギ

中華街で探偵事務所を営む女性。

カールしたショートボブと眼鏡が特徴。

友香の叔母にあたる、母親的存在。32歳。



・生天目 響(ナマタメ ヒビキ

友香のクラスメイトで、親友。

黒髪ロングをハーフアップにした少女。

天才ハッカー。バニラアイスが好物。

14


 響はご機嫌な様子だった。



「おいしー!やっぱり暑い日は冷たいものが一番ね!」



 喫茶店に入った二人は、昼食をとり、デザートを注文した。

 食後の紅茶を飲みつつ待っていたら、そのスイーツはすぐに出された。響、友香はともに、バニラアイスを食べていた。



「あらそう、じゃあ、私の財布も食べてみる?」

「え?今、その中身を食べてるんだけど」



 響がきょとんとした表情で返した。



「これは一本取られたわね……」



 そんなくだらないやり取りをしていると、彼女が少し申し訳なさそうに尋ねてきた。



「やっぱり……お金、厳しいの……?」



 その問いかけに、友香は少しの沈黙のあと、



「いえ、大丈夫よ。気にしないで」

「でも……」



 何か言いかけたとき響は口をつぐんだ。

 彼女は、友香の家庭が母子家庭だと知っていた。しかもその母親も、遠方で仕事をしているため、なかなか帰ってこないと友香から聞かされていた。実際に、彼女の経済状況は貧しく、母の仕送りだけではやっていけなかったのか、叔母の事務所に寝泊まりしている。それも、闇市が点在する中華街裏通りに。


 そのことを指摘しようとしたのだが、彼女を傷つけてしまうかもしれないと口をつぐんだ。友香は響にとって大切な友達で、落ち目なんて感じて欲しくなかったし、何より辛いことを思い出して欲しくなかった。



「大丈夫よ。そりゃあ貧乏かもしれないけど、日々刺激溢れる、裕福な生活を送らせてもらってるわ」



 そんな響を察したのか、友香が笑う。



「それに、来月お金が戻ってくるでしょ。あのお金は私がもらえることになってるから心配無用よ」

「あ、もうそんな時期だっけ?」



 友香は目を瞑り、コップの水に口をつけた。

 二人が言っているのは、国による教育機関への援助と授業料キャッシュバック制度のことだった。彼女らが通う中学校は国の援助を受けており、入学時および年度更新時に払った費用を全額キャッシュバックされる制度が適用されていた。ただ、教育費を支払わないといけないのは、何かあったときのための担保らしい。

 

 この制度に関して、子供を預けているのに金まで預けなくてはいけないのか、と保護者でもないくせにのたまう連中がいたらしいが、そもそも普通の教育機関なら支払って当然のものである。ちなみに、この制度が導入されているのは、内務省が研究目的に創立した神奈川、京都、兵庫にそれぞれある三つの学園群だけであり、どれも優秀な生徒のみを集めた教育機関であった。



「教養と才能は無形の財産だもんね」



 響がぼんやりとつぶやいた。



「そうね」



 友香は相槌を打ちながら、グレイビーボートに入っていたチョコレートソースをアイスにかけた。

 そんな会話をしていると、友香の携帯電話が鳴った。

 驚いたのか、ぼうっとしていた響がビクッと体を震わせた。


 彼女の通信デバイスは旧時代のモデルで、板電話と揶揄される、トランシーバーを平らべったくしたような物であった。デバイスを開くと、ディスプレイに通信相手が表示される。相手は柳だった。



「もしもし柳?」

「友香?今大丈夫?」



 通話回線をオンにすると、柳が興奮気味に出た。



「手短に済ませてくれるなら大丈夫だけど、どうかしたの?」



 彼女の様子に眉をひそめる友香。



「さっき、清花が来たんだけど、新しいことが二つわかったみたい」

「何かしら?」



 口元を手で隠し、小声で尋ねる。



「一つ目。組長の金田が死体で見つかったそうよ」

「……そう」

「二つ目。その金田が死亡するの前、彼に何度も電話をかけている人物がいたの。それが……」

「慎司君のお父さん?」

「な!?」



 友香の発言に、柳は言葉を失った。どうやら的中したようだ。



「……なんでそれをあなたが知っているの?」

「そう、やっぱりそうだったのね」



 友香は悲しそうに、目を細めた。



「やっぱりって……」



 何か言葉を続けようとしたが、友香はここで会話を切った。



「ごめんなさい、そろそろいいかしら?」

「あ、ああ。友達といるんだっけ、ごめんなさい」

「ええ、デート中よ」

「はあ、帰ってきたら話し聞かせなさいよ。帰り道気をつけるのよ」

「ありがとう、じゃあ切るわね」



 ボタンを操作し、オフラインにする。



「ふーん、私も友香の恋愛対象に入ってるんだ」



 先の会話を聞いていた響が、ニヤリとした表情でからかってきた。



「ごめんなさい、心に決めた人がいるから」

「ぐすん、フラれちゃった」



 笑顔で返す友香と悲しむふりをする響。談笑はしばらく絶えなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ