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誰も知らない誘拐事件  作者: 空波宥氷
11/28

魚と花屋とあんぱんと牛乳

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車、ナナマル(JZA-70)の整備が趣味。



・神津柳(カミツ ヤナギ

中華街で探偵事務所を営む女性。

カールしたショートボブと眼鏡が特徴。

友香の叔母にあたる、母親的存在。32歳。



・生天目 響(ナマタメ ヒビキ

友香のクラスメイトで、親友。

黒髪ロングをハーフアップにした少女。

天才ハッカー。バニラアイスが好物。

10


「はい、これで削除完了よ」



 響の作業が終わったようだ。持参したノートパソコンと、ロボットに接続していたケーブルを仕舞いつつ終わったことを告げる。



「ありがとう、助かったわ」



 友香が彼女に礼を述べる。



「それにしても、また何かの事件に首を突っ込んでるの?」

「ええ、ちょっとね」



 友香が探偵事務所に住んでいることは、友人は全員知っていた。また、来た依頼を止められても強引に手伝い、問題を解決してしまうことも周知の事実であった。



「止めはしないけど、あんまり無茶しちゃダメよ?」

「大丈夫、わかってるわ」



 友香の言葉に、本当?とくすくすと笑う響。

 データを消去してもらった今、ここに居座る理由はない。二人はさっさと退散することにした。



「じゃあ、昼ごはんでも食べに行きましょうか。響、希望は?」

「んー、あ、じゃあ、開国広場前の喫茶店はどう?」

「あそこね、了解。お手柔らかに頼むわね」



「優衣は今日来ないの?」「身体検査があるみたいで来れないって」「そうなんだ、それは残念」「あ、そういえば成績表見た?」「ええ、全部10だったわ」「さすが学年トップクラスね。私なんか文系科目全部9だったよ」「理系科目は全部10でしょ?充分すごいじゃない」



 二人は喫茶店を目指し、歩き始めた。


 その横を一台のトラックが通り過ぎていった。荷台が骨組みになっており、その上にかけられたシートがゴムで固定されている、どこにでもあるトラックであった。

 友香は、なぜだかそれがどうしても気になった。振り返ってみると、荷台にはいくつかの観葉植物が積んであることが見えた。花屋が所有しているトラックのようだ。



「友香?どうしたの?」



 思わず立ち止まってしまったようだ。響が怪訝な表情を向ける。

 しばらくして、トラックは花屋の店先に止まった。

 友香は無意識のうちに駆け出していた。



「友香!?」



 慌ててそれに続く響。

 彼女が追いついたときには、すでに友香がトラックから降りてきた運転手に話しかけていた。



「少し聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」

「ん?ああ、ごめんね。僕、お店の人じゃないんだ。お花のことなら……」

「いえ、あなたに聞きたいことがあるの。ここへは配達に?」



 いきなり声をかけてきた見知らぬ少女に、男は困惑している様子だった。

 そんな彼に御構い無しに、友香は質問を始める。



「あ、ああ、そうだけど……それが?」

「そうなの。週に何回くらい来ているの?」

「えーと、なんでそんなこと聞くの?」



 さすがに不審に思ったのだろう。男は少し不満げに疑問を投げかける。



「それは……」



 花屋に用はないと言ってしまったのは失敗だっただろうか。どう誤魔化そうか、友香が考えていると、



「いいじゃねーか、教えてやれよ」



 ダミ声の男が声をかけてきた。

 思わぬ助け舟に、彼女は声がした方向に振り向く。



「漁さん……」



 男は隣の魚屋の店主だったようだ。リョウと呼ばれているらしい。



「よ!トラックの運ちゃん、元気か?」

「ええ、漁さんもお変わりなさそうで」

「おうよ、こちとら元気だけが取り柄でな」



 漁はガハハと笑う。



「で、嬢ちゃん、トラックがいつ来てるかだっけ?」



 彼は友香を見てから、トラックの運転手に向き直った。



「たしか、週に3回だっけか?来てるの」

「はい、火金土に、この時間に」

「だってよ」

「そうなの……」



 運転手が答えた。その回答に、友香は考えるポーズをとった。



「もういいかな?仕事しないと怒られちゃうから」

「あ、ええ、ありがとう。時間とらせてしまってごめんなさいね」



 友香が黙り込んだのをみて、運転手が仕事に戻ろうとする。そんな彼に、彼女は礼を述べた。



「じゃあな、運ちゃん。仕事頑張れよ」



 漁がヒラヒラと手を振る。

 友香は、頃合いを見計らってから、助けてくれた漁にお礼を述べた。



「ありがとう、助かったわ」

「いやいや、こんぐらいどうってことねーよ」



 彼はニカっと笑うと、両手を腰に当てた。



「ところで、嬢ちゃん、さっきなんであんなこと聞いたんだ?」



 友香は悩んだ末、自分が中華街の探偵事務所に暮らしていることや、依頼の調査のために聴いたことを話した。彼を裏表がなく信頼できる人物だと判断したらしい。



「探偵事務所……ああ!あの茶葉売ってっトコの上の」



 有名なのか、すぐにわかったようだった。

 柳の探偵事務所が入る建物も、このビルと同じような造りをしており、二階部分を借りている。ちなみに一階部分が茶屋であり、そこの店主がビルを経営していた。



「ええ。私、そこに住んでて、度々その手伝いをしているの」

「へぇ、感心感心。最近の若い奴は偉いよなぁ」



 俺がガキの頃は……と、しみじみとした様子でうんうんと頷いていた。



「あ、このことは依頼者のためにも、他言無用でお願いするわ」

「おっ、任せろ!俺は口が固いことで有名なんだ」



 再びニッと笑う漁。よく笑う男だ。



「っと、店に戻らなきゃ。嬢ちゃん、俺に手伝えることがあったら言ってくれ」

「嬢ちゃんじゃないわ。私には反町って名前があるもの」

「そうか、反町……じゃあ、まっちゃんだな!」



 その返しに友香は目を丸くし、苦笑した。



「じゃあ私は、りょうさんって呼べばいいかしら?」

「おう、好きによんでくれや」



 じゃあな、気をつけろよ。近頃は物騒だからな。と漁。それに礼を述べる友香。



「えーと……友香?」



 先ほどから黙ってやりとりを見ていた響が、恐る恐る友香に声をかけた。



「響」

「ん、なに?」

「もし、あなたが車に乗ってこのビルを張り込みするとしたらどうする?」



 友香がいきなりな質問をしてきた。



「張り込み?うーん……やっぱり鉄板のあんぱんと牛乳かな?」と首をかしげる響。

「食べ物の話じゃなくて、どこに陣取るかって話よ」



 友香は呆れるわけでもなく、真剣に問いかける。



「そ、そうだよね、ごめん。そうね……まず相手から見える可能性が大きい真正面は避けたいかな。あと贅沢を言えば、ビルから見て左側に止めたいかも。あ、ここだとちょうどお花屋さんの前ね」



 あたりを見回しながら冷静な分析をする響。



「どうして?」

「だって、車の進行方向にビルが見えるわけだから、座席に座ったまま張り込みができて楽でしょ」

「ええ、響の言う通りよ。で、今みたいに、花屋のトラックが来たらどうする?」

「それは下がって通行スペースを確保するに決まってるよ。他の車が通れなくなったら困るもの。あ、でもそうするとビルの入り口が見えなくなっちゃうね」

「ふふ、そうね」



 ここの路地の道幅はギリギリ車二台が通れる程度だった。路側帯も無く、交通の邪魔になるため警察車両は移動せざるを得ない、と響は考えたようだ。友香も同じような考えだったらしく、この意見に頷き微笑んだ。

 そうこうしているうちに仕事が済んだのか、トラックは走り去っていった。



「およそ3分ってとこかしら。充分な時間ね」



 トラックの滞在時間を計っていたのか、友香は手首の腕時計を確認した。



「何が?」

「いいえ、なんでもないわ。それより早く行きましょう。お店、混んじゃうかもしれないし」



 友香の発言にキョトンとする響。そんな彼女を適当にあしらい、再び喫茶店を目指して歩き出すのであった。


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