プロローグ
主な登場人物
・反町友香(ソリマチ ユウカ
中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。
ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。
茉莉花茶が好き。
・青山清花(アオヤマ サヤカ
神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。
英国人と日本人のハーフ。
灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。
愛車、ナナマル(JZA-70)の整備が趣味。
2030年。戦後恐慌と人口の激減により、経済循環が滞った日本は大規模な移民受け入れを決定した。以降、日本は、人種混沌化の一途を辿ることとなった。A.C.2033
プロローグ
その夜、新たな時代の幕開けを告げるニュースが、日本中を駆け巡った。
『たった今、速報が入りました』
人々の首部に装着された通信デバイス、首輪から女性の声が流れ、そのニュースを報じる。
一方その頃、時を同じくして、青山清花はある扉の傍で屈んでいた。
横浜中華街、とある商業ビルの二階。表向きは外資系企業がいちテナントを借りているようだが、その実、人身売買や児童買春を行う上海系暴力団の一派が使用していた。幾度となく行われた、事前の内偵調査でその実態が明らかとなっていた。
青山清花は先月、警察省からここ、中華加賀町警察署に研修のため配属された女性警部補である。
歳の頃は27、身長は160センチメートル台中盤。肩まで伸びたセミロングの灰色の髪はウェーブしていて、青い瞳は猫のように鋭く澄んでいる。
彼女のほかにも、幾多の場を踏んできた屈強な刑事が何人も待機していた。万端の体制だった。
『警部、捜索令状が出ました』
「よし、予定通り突入する」
無線機から聞こえる報告が、突入の時が刻一刻と迫っていることを告げる。
その報告に、陣頭指揮をとっていた薬師寺警部が判断を下す。
『し、しかし……』
「言いたいことはわかっている……だが、人命が最優先だ」
何かトラブルがあったのだろうか。だが、今さら後には引けない状況だった。
「行くぞ!!」
午後九時。突入の合図とともに、刑事たちが一斉にドアへと駆け込む。
「なんだお前ら!」
「警察だ、全員その場を動くな!」
怒号が飛び交い、刑事たちと組員の揉み合いが始まる。
清花は振り出し式警棒を取り出し、襲い掛かってきた組員の脛に叩きつける。他の刑事たちも次々と警棒を取り出し、組員と奮闘していた。
組員の一人がデスクを乗り越え、清花に襲いかかる。彼女は、自分に迫り来る木刀を避け、男の顔に警棒を叩き込む。その衝撃で、デスクの上からラジオが派手な音をたてて落ちた。だが、まるでそこだけ世界が違うかのように、ラジオは平坦な声を流し続けていた。
『緋梅学園大学の研究チームが、胎児の遺伝子操作実験に成功したと発表しました。チームを牽引する川崎教授は、この手法によって誕生した子供をデザインチルドレンと名付けーー』
混乱の最中、外へ逃げようと向かってきた男の足を清花は軽く払い、背中に一撃をお見舞いした。
無力化したことを確認すると、取っ組み合っている男たちの間をすり抜けて部屋の奥へと駆ける。そして、部屋にあった、出入り口を除く唯一の扉を開け放った。
『少子化問題への特効薬になり得るとして実用化へ向け、さらなる研究を続けていくと、その期待感をあらわにしていました。続いてのニュースです。日本政府は今朝、今年度収容難民の上限をーー』
彼女は、飛び込んできた光景に目を疑った。
そこには手足を縛られ、口にはガムテープを貼られた何人もの子供たちが、所狭しと床に座らされていた。彼女を唖然とさせるには、十分な光景であった。