即興物語 世界よ…
どれほどの時間が経過したのだろうか。私の祈りは彼女に届いたのだろうか。
−世界に光りあれ−
その言葉は驚くほど急速に広がっていく。まず現れたものは小指の先ほどの光の粒。
その光は私の手のひらの中に発生し、それは次第に私の身体を照らしつける程眩く輝き出す。
映し出されたその姿はまるで空中に浮かぶ羽の取れた天使のように酷く朧気に感じられた。
光は急速に広がり、やがて私の手のひらからあふれ出し身体を包み込んだ。
闇に沈んでいた私は次には光の中に身を落とすこととなる。
不思議な感触だ。闇にいた私は自らの形を保つことは出来なかったのに、光の中へと誘われた私は朧気ながらもその姿を保つことが出来ていた。
『ありがとう。君が心を開いてくれたおかげで、この世界は扉が開いたんだよ』
それは彼女の言葉だった。彼女は消えずに済んだのか。それとも最初からこの光の中にいたのか。
出来れば姿を現せて欲しい。その透き通った陶器のような声はきっと美しい姿でこの世界にあるのだろう。
『それは、出来ないよ。』
なぜ?私は、君のためにこうして祈りそして光が生まれたんだ。全ては君のためだったんだよ。だから、人目だけでもいい君を見たいんだ。
『私は姿をもっていないの。君と違って私は自分の姿を知らないから。私は鏡を見ることが出来なかった。だから、こうやって声でしか君と会うことは出来ないの』
ならば、私がこうして姿を示すことが出来るのはひとえに鏡の姿を見たからこそなのか。だから、私は鏡と共にあの世界へと降り立ち。こうして光の中にあっても形を表すことが出来るのか。
『うん。君は自分の姿を知っている。だから形を表すことが出来る。君は自分の声を知っている。だから声を出して言葉を紡ぐことが出来る。私はどちらも知らないから。君みたいになれないんだ。』
理不尽だ。私はただ、君と会いたかっただけなのに。どうしてこうなってしまったのか。光を生み出し、そして世界をここに表したというのに私は早くも目的を失ってしまった。
私は君の姿を知らない。君の声を知らない。知ることが出来るのは君の言葉だけ。
だから私は君をここに来させることが出来ない。君と手を繋ぎ、君を抱きしめることも。何も出来ないというのか。
『悲しまないで。ここは君の世界。だから、これから作っていけばいいの。君が望むならそれはかなえられる。もしも、君がこの世界が要らないと思えばそうすることも出来る。だけど、覚えていて。そこから作られるものは君とは違う。だから見守ってあげて。この世界そのものを。私はいつも側にいるから。』
これが世界だというのか。私の世界、私以外がこれから生まれてくる世界。そして、私が望めば全てがかなえられる世界。
ならば、私は望もう。きっと君も同じことを望んでくれるはずだね。
出会ったことない君だけど何故か分かるよ。
私は祈る。
−世界よここに−