ふわふわの幸せ
ミーシャは森の中で暮らしています。
森の中の青い屋根のおうちが、ミーシャと飼い主の茉莉花のお家です。
ミーシャは猫ですが、茉莉花に内緒で、「ジャスミン」という名前で、小説家をしています。
【ミーシャの冒険】という、猫のミーシャが冒険するシリーズが人気の有名作家です。
でも、編集者の青森以外は、ミーシャが猫だということは知りません。
ある日、飼い主の茉莉花の働く図書館にの裏に、真っ白なウサギが箱に入れられて捨てられていました。
茉莉花はすぐに拾って、図書館に連れてきましたが、家にはミーシャがいるため飼うことができないと、青森に電話しました。
実は、青森と茉莉花は恋人同士なのです。
青森は、車で駆け付けると、優しくそのウサギを撫で、
「もう大丈夫だよ。」
というと、動物病院に連れて行きました。
ウサギは、ほとんど健康でしたが、少し目が悪くて見えにくいということを動物のお医者さんに言われました。
青森は、家に連れて帰ると、ぬるめのお湯でお風呂に入れ、タオルでしっかり拭いた後、ケージから少しストーブを離して、ウサギの毛を乾かしました。
「君の名前は何にしようね。」
青森は優しく微笑むと、ウサギの写真を撮り、PCを開き、ミーシャ宛にメールを送りました。
【ジャスミン先生、お疲れ様です。
実は、図書館で、茉莉花さんがウサギを拾いました。
茉莉花さんの家には先生がいらっしゃるので、僕が連れてきましたが、茉莉花さんが拾ったウサギです。
ぜひ先生に、名前を付けていただきたいのです。
白うさぎの男の子です。少し目が悪いですが、大人しいいい子です。よろしくお願いできませんか。
青森秋斗】
ミーシャのもとにメールが届いたころ、ちょうどミーシャは次の物語の草案を考えているところでした。
メールに添付された写真を見ると、ふわふわのわたあめみたいな、白いウサギが、ケージの中で眠っていました。
【秋斗へ
可愛いウサギだね。女の子だったら、わたあめにしようと思ったけど、男の子なら良い名前があるよ。
『空斗』
秋斗の名前から一文字とって、ふわふわの雲が浮かぶ空をイメージしてつけたよ。
これから自分の子供のようにかわいがってあげてね。
私は大丈夫だから、今度、ウサギが元気になったら、茉莉花のいるときに連れてきてよ。
茉莉花が拾ったウサギなら、私の姉弟みたいなものだから。
それまでに、ネットで、ウサギの飼い方でも勉強しておくよ。
秋斗と、空斗に幸あれ。
ジャスミン】
青森がメールを読み終わるころ、ケージがキシキシいいました。
振り向くと、ウサギがケージにかみついていました。
青森は、慌てて、ウサギをケージから出すと、抱き上げ、そっと背中を撫でました。
「今日から、君は、空斗という名前だよ。
有名な小説家の先生がつけてくれたんだよ。
そして君のお姉さんにもなってくれるそうだよ。
君は幸せ者だよ。僕も君に出会えて幸せだよ。これから一人と一羽、仲良くやっていこうね。
よろしくね、空斗。」
ウサギの空斗は、鼻をもぞもぞさせると、青森の眼鏡をかじり始めました。
青森は、フフフ、と照れくさそうに笑うと、空斗のお腹に顔をうずめました。
数週間後、ミーシャの冒険の新作の原稿が、青森のもとに届きました。
そこには、わたあめという、盲目のウサギの騎士が、ミーシャたちを助けてくれる話が描かれていました。
原稿に添付されたメールには、
【PS.本当はわたあめのほうが気に入っていた。ジャスミン】
と書かれていました。
青森は、くすっと笑うと、編集長に原稿を提出しました。
ミーシャの冒険のわたあめはたちまち人気になり、若い女性を中心に、キャラクターグッズや、ぬいぐるみがたくさん売れました。
ミーシャがしばらく、やきもちを妬いて、青森に冷たくしたのはまた別のお話。
おわり