第一星 始まりの夢
「もうこんな時間か」
壁にかけてある、時計の針が、ふたつとも12のところにある。
読んでいた本を閉じ、机の上に置く。
"侵略戦争、戦いの記録"。もう何度読んだことだろう。今年の三月に発売されてから、もう十回は読んだと思う。
これを読むたびに、戦いを仕掛けたやつらに腹が立つ。こちらが手を出さなければ、むこうは、なにもしなかったのでは?
そんな、希望的で夢見がちな、今更どうしようもない事を、ついつい考えてしまう。
「やめだ。こんな事、考えるだけ無駄だ」
誰に聞かせるわけでもないのに、声に出して言う。まるで、自分に言い聞かせるように。
椅子から立ち上がり、布団を敷く。そのまま枕も、掛け布団も無しに、布団に寝転び、目を閉じる。
「五十年か... 。」
さっきまで読んでいた本の内容を、思い返しながら、呟く。
やがて、意識がなくなり、眠り始める。
そして、あの日から繰り返し見る夢を、今日も見る。
青い巨人が立っている。それを自分は、巨人から少し離れたところで、見上げている。
巨人がこちらに腕を伸ばす。だが、なぜか恐怖はない。むしろ、安心感さえでてくる。
だから、こちらも腕を伸ばす。
巨人を受け入れるように。
巨人を求めるように。
そして、誰かに名を呼ばれる。
......と
忘れもしないこの声
....がと
愛に満ちたこの声
..ながと
懐かしいこの声
永人
母の声
この声を最後にあたりが光に包まれる。そしてここでの意識が途切れ、現実での意識が覚醒する。
...むくり
(この夢を見るといつもこうだ)
涙が頬をがつたう。
涙をふき、時計を見ると、六時を示している。
体をおこし、首を回す。直で、床に寝たためか、すこし首を痛めたみたいだ。
一通り、朝の用意を終えたあと、家をでる。
五月だというのに、夏のような暑さだ。汗も出ていないのに、額をぬぐう。
照りつける朝日を浴びながら、まだ馴れない道を歩く。
今日から通う、東京第一軍事学校の事を考えながら、星海 永人は歩く。
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