四章 物騒な町チャト
幸太郎は足音で目を覚ました。目を開けるとそこは自分の部屋などというものではなかった。・・・そうか、僕は今、“夢の国”にいるんだ。カーテンをちょっとめくって外の様子を見てみると、まだ夜のようだ。さっきの足音はいったい誰のものだったんだろう。誰かトイレにでも行ったのかな?
そんなことを考えていると、部屋のドアが開いて、見知らぬ男が入ってきた。なるほどさっきの足音はこの男のものか。幸太郎は咄嗟に寝たふりをして、そのままやり過ごすことにした。薄目を開けて様子を伺っていると、男は部屋の中を漁っている。
「ちっ、金目のものはないか・・・。」
男はどうやら泥棒のようだ。部屋を去る素振りを見せたので、このまま寝たふりを続けようかとも思ったのだが、僕は勇者だ。泥棒ごときにいちいちびびってはいられない。幸太郎は起き上がって男に向かって怒鳴った。
「おい、お前!入る部屋を間違えたようだな!僕は勇者だ!」
幸太郎の声を聞いた男は一瞬驚いたように見えたが、すぐに幸太郎を嘲笑った。
「おいおい、お前みたいな子供が勇者だと?笑わせんな!ろくな物持ってねぇ癖にでかい口たたいてんじゃねぇ!ガキが!!」
男が懐からナイフを出して幸太郎に襲い掛かってきた。
殺される!でも勇者である僕がこんなところで死ぬことはできない、たとえ武器がなくても・・・。でも、・・・でも死ぬんだ。そう悟ることしかできなかった。あぁ、僕はなんて無力なんだろう、なんてマヌケなんだろう。武器も持たずに泥棒に立ち向かっていって返り討ちに遭うなんて、それもなす術もなく・・・。・・・なんてかっこ悪いんだ、僕は・・・。
幸太郎は恐怖と悔しさに涙を流しながら目をつむった。次の瞬間、男の叫び声が耳に入ってきた。
「話せ!くそっ!お前いったい何なんだ!このガキのツレかぁ!?ぶっ殺してやる!!」
目を開けると、男はナイフを持っている方の腕をつかまれて、宙ぶらりんになっていた。男の手をつかんでるのはガノンだった。
「ガノン!?」
男がまだ悪態をつきながらもがいていたので、いつもより大きな声で会話した。
「やれやれ、便所に行こうと部屋を出たらこれだからな、ビックリしたぜ。幸太郎、お前は本当に運がいいな。俺がちょうど便所に行こうと起きたからいいものを・・・。しっかしこいつも勇者様の寝込みを襲うとは・・・なかなかいい度胸して・・・あぁもう!うるせぇな!黙ってやがれ!!」
ガノンは未だに悪態をつき続けている男に怒鳴って黙らせた。相も変わらず凄い気迫だ。こっちまで怯えてにしまいそうだ。
「とにかく、武器も持たずに1人で寝るのは危険だな。よし、明日からはポポと一緒に寝ろ。そうすりゃ襲われても返り討ちにしてやれるしな。」
「ガノン、このこと誰にも言わないでくれよ・・・。」
幸太郎の声が尻すぼみになっていく。
「あぁ、それくらい分かってるよ。こんなこと言ったって、勇者様の恥さらしにはなっても笑いのネタにはなりゃしねぇ。仲間に言ったって変に心配されるだけ。ポポさえいりゃあ心配なんていらねぇからな。」
ガノンは笑いかけてくれた。その顔を見てホッとしたのか、急に眠気が襲ってきた。・・・・・・。
「幸太郎!幸太郎!どこ行っちゃったんだよ!出て来いよ!幸太郎!!」
誰かが僕を呼んで叫んでる。その人が誰だか僕は知ってる。でも、思い出したくない、理解したくない。大人の女の人が受話器を持ったまま困惑して泣き崩れている。この人も誰だか僕は知ってる。でも、やっぱり受け入れられない、認めたくない。だってその人たちは・・・きっと・・・・・・。
「起きて下さい、勇者様。もう朝ですよ。」
ポポが僕を起こしに来てくれたようだ。あれは、夢・・・か。何だかとてもリアルな夢だったなぁ・・・。
「やっと起きて下さいましたか。・・・あれ?何だか顔色があまりよくないようですが、大丈夫ですか?」
ポポはそう言いながら、幸太郎の顔を覗き込んだ。
「あぁ、ちょっと悪い夢を見ただけだから・・・。」
「そうですか。それなら、昨日言ったとおり今日はいろいろと旅支度をしなければいけませんので、早く着替えて、下りてきて下さいね。それでは、ボクは食堂に行って待ってますね。」
ポポは行ってしまった。そう、昨日の夜武器屋と防具屋と魔道屋を探して、いろいろ買うために町を練り歩くって皆で決めたっけ。急がなくては。・・・それにしてもあの夢はいったい何だったんだろう?もしかして・・・いや、そんなわけないか。
着替え終わって食堂に下りていくと、もう既に他の皆は集まっていた。
「佐々木君、遅いよ!」
やっと来たかというかのように、皆ため息をついた。テーブルの上にはもう皿すらない。どうやらもう食後のようだ。
「ゴメンゴメン、ちょっと寝坊しちゃったみたいだね。」
幸太郎が頭をかくと、瞳が怒り、壁にかかった少し横に揺れている円形の物を指差しながら言った。
「ちょっとじゃないよ!もう9時だよ!?」
円形の物は時計だった。そしてこの世界にも時計があることを初めて知った。
「“夢の国”にも時計ってあったんだ。」
思わず口に出してしまい、瞳を怒らせてしまった。
「当然でしょ!?こんな便利な物の技術を“真世”から誰も持ち込まないなんてあるわけないじゃない!!」
どうやら相当ご立腹のご様子だ。まぁもう9時とあっては、仕方がないと言ったら仕方がないか・・・。それにしてもポポたちはポポたちで、何も言わないなんて落ち着きすぎだ。やはり時間を気にするのは人間くらいなのだろうか。
次の瞬間、タイミングを合わせたように地震が来た。幸太郎はバチがあたったのかと思ったが、どうやらポポとフレイヤは意見が違うようだ。2人は顔を見合わせている。
「瞳、あなたもしかして・・・、いいえ、何でもないわ。」
フレイヤは首を横に振った。幸太郎はそれを見て首を傾げながら朝食を食べ始めた。
幸太郎は急いで朝食を済ませ、一行は買い物をしに町へ繰り出した。そもそもなぜこんなに急いでいるかというと、この町は物騒だからだ。いつ朝のようなことになるとも限らないし、スリがはびこっているおかげでおちおち貴重品も持ち歩けない。そんなところに長居は無用、ということだ。
「まずは武器屋ね。」
「買い物中に襲われて、買ったばかりの一度も使ってない物盗られたら困るからね。」
「そうですね〜。高い物なら尚更困りますからね〜。」
これはとても賢明な判断だ。その証拠に誰も異論を持たなかった。
「そういえば誰がお金持ってるの?」
瞳の言葉で一斉に、幸太郎と瞳とフレイヤはポポをポポとガノンはフレイヤを見た。
「!?」
「な、何よ!?」
「ポポ、宿代はお前が払ったんだよな?」
「は、はい。その通りです・・・。」
ポポはうつむいて言った。
「フレイヤ、お前は“カトロ”で金貰ってたよな?」
「ええ、そうよ?それが何か?あんただって“カトロ”で飲んでたでしょ?」
「あいにくそんな金はもう使い切っちまったぜ。」
「何ですって!?・・・そういえば瞳ちゃん、あそこで働いてたわよね?」
「は、はい。でも、ただ働きでご飯と寝る為の部屋を借りていただけなので・・・。」
ポポとフレイヤは互いの顔を見合わせ、ついには2人のにらめっこが始まった。いや、これはもう一方的か。
「ボ、ボクが払いましょうか?」
「ありがとう。」
ポポがすぐにおれた。どうやらフレイヤさんの無言の笑顔に負けたようだ。
武器屋を見つけ、中に入るとゲームなんかで見たことがあるものから、これまでに見たこともないような得体の知れないものまで売っていた。その中に真珠のように白く輝く小さな玉があった。
「それに触っちゃダメですよ。」
幸太郎がそれに触ろうと手を伸ばすと、ポポに後ろから止められた。
「それは魔法弾といって魔法を込めて専用の銃で打つ銃弾です。込める魔法によっていろいろな効果が出て面白いですよ。それにこれは魔法の力を増幅する鉱石で出来ていて、強力な魔法の媒体にする人もいます。ただ・・・、」
「ただ?」
「魔法の力をコントロール出来ない人が触ると何が起こるか分からないんですよ。」
「何が起こるかって?」
「例えばそうですねぇ・・・。爆発したり、洪水が起きたり、・・・気づいたら知らないところにいたっていう話も聞いたことあります・・・。」
「わ、分かったよ。もう2度と触ろうとしない・・・。」
そんなおっかない代物だったなんて・・・。でも、これ使えたら面白いだろうなぁ・・・。
未練たらたらの目で見ていると、ポポが提案した。
「僕が魔法を込めて装填したら勇者様にも使えますよ。僕を武器に変えた方が強いといえば強いですが、何かの理由でボクと離れ離れになったときには最高の武器ですよ。込める魔法によっては回復なんかも出来ますしね。」
そう考えると、確かに便利だ。瞳でも使えるし、1丁くらいなら買っておいても損はないだろう。
やっぱり買おうかどうか悩んでいると、店長らしき男が近づいてきた。
「おっ、坊っちゃんいい物に目をつけたね〜。これはとっても便利で強力だよ。護身用に1丁どうだい?今なら特別にこれと弾1ダース6000万ミルでどうだ?安いだろ!?」
ミルとはお金のことだろうか?それにしても6000万は高すぎるんじゃないかな?そう思ってポポに聞こうとしたが、ポポはそっぽを向いてしまっていた。
「あきらめましょう。」
「おいおい、妖精の坊っちゃん。こりゃ1億ミルはくだらない品だぞ?相当安いはずですよ!?」
そんなに高価な物だったのか・・・。こんな物を買わせてしまったら、もう何も買えなくなるどころか、フレイヤさんの所持金と合わせても足りないんじゃないだろうか。
「・・・仕方ない、坊っちゃん、こんな物に目をつけるなんて冒険家にでもなるつもりかい?だったらいい物があるんだが・・・、」
「あ、僕勇者らしいです。」
「だっはっは!坊っちゃん、バカ言っちゃいけねぇよ!こんなちびっこい勇者様が・・・、」
「店長さん、残念ながらこの子は本物の勇者様ですよ。」
フレイヤが話に割り込んできた。
「フレイヤか。お前随分と見ない間に頭がおかしくなったのか?」
「証拠ならありますよ。勇者様はフェアリーが使えることで有名ですからね。」
幸太郎はそれを証明するために、店長の目の前でポポを短剣に変えると、店長は面食らってしまったという顔をした。
「いやはや失礼しました!お詫びといっては何ですが、この銃1丁と弾1ダースをタダで差し上げます。」
店長は急に態度を変え、下手に出た。
「こんなに高価な物をタダでですか?そんなの悪いですよ。」
「いいえ、わたくしめの勇者様に対するご無礼に比べればこんな物・・・。」
「本当にそう思うんでしたら弾をもうちょっと増やしてくれないかしら?」
「フレイヤ!貴様この弾が1発いくらすると思っているんだ!500万ミルだぞ500万ミル!」
「い、1ダースでいいです・・・。」
一行は武器屋のレジの前に集まると、互いに買いたい武器を見せ合った。瞳は短刀を、フレイヤは弓使いなので矢の補充を、ガノンは新しい斧を持っていた。
「佐々木君の銃凄いね!でもそんなに凄い銃なら高いんじゃないの?」
瞳が銃に見とれて言った。
「それがここの店長がね、僕が勇者だって分かったら特別にタダでいいって言ってくれたんだ。」
「へぇ〜、勇者様っていいなぁ。ねぇ、勇者のお供だって言ったら、わたしたちのもタダにしてくれないかな?」
「そうね、私言ってみるわ。」
フレイヤが店長を呼び出そうとしたので、幸太郎はそれを止めた。
「こんなに高価な物をタダで貰っておきながら悪いよ!」
「いいのよ。あいつ、弾をもっと多く売ってくれてもよかったのに断ったんだもの。」
フレイヤは幸太郎を振りほどき、ベンを半分脅したような口調で説得し、皆の武器までタダにしてもらった。何もそこまでしなくてもいいのに・・・。
「まったく、私が気づいたからいいものの、気づいてなかったら私までお金を出さなきゃいけなかったわ。ガノン、あんたは何でそんなに高い物を持ってくるの?」
フレイヤは少し呆れ気味に言った。そして、それにガノンが答えた。
「ん〜、やっぱ見る目が違うんだろうな。」
「そういうことを言ってるんじゃないわよ!あんたは何で気を使えないのって言ってるの!」
フレイヤはガノンを大声で怒鳴り、ガノンはそれに反論した。
「いいじゃねぇか!俺たちドアーフは魔法が使えない分いい武器に頼るしかねぇーんだよ!」
2人はしばらくにらみ合い、武器屋を出た後も口をきかなかった。
防具は重いから後回しにして、次は魔道屋に行こう、と話がまとまり、魔道屋に行く道中に幸太郎は何か違和感を感じ取った。持ち物を調べてみると、魔法銃がなくなっていた・・・。




