三章 夢の国
日はもうすでに暮れていたが、空には雲1つなく、とても美しい満月の周りに沢山の星がちりばめられてあったため、そんなに暗くはなかった。少し離れたところに移動するくらいなら問題はないくらいだ。あまり明るくないのでよくは見えないのだが、近くにある町に向かっているらしい。なんでもカトロはあまり治安がよくないので、1晩を無事に過ごすことは難しいそうだ。
幸太郎は満天の星空を真っ直ぐに見つめながら、故郷の、“真世”の空を思い出していた。“真世”にはこんなに綺麗な空はなかった。見ているだけでまるで心洗われるようだ。“夢の国”という所は、何と綺麗な所だろう。
そんな風なことを思っていたら、ポポが幸太郎の顔のすぐそばまで寄ってきて言った。
「どうかしましたか、勇者様?」
「わ!・・・びっくりしたな〜もう!」
幸太郎はビックリして飛びのいた。
「すみません。勇者様があんまりボーっとしてたものですから。」
ポポは申し訳なさそうに言った。
「あぁ、星があんまり綺麗だからちょっと見てただけだよ。」
「わたしもそう思う。でもこうして毎日見てると、何だか“真世”の星空が酷過ぎるだけなのかなって、これが普通なんだろうなって思えてくるよね。あ、そういえば佐々木君は初めて見るんだったっけ?」
瞳は苦笑しながら言った。
「でも、僕もそう思うよ。」
“真世”の、主に都市部の星空は大気汚染によって見え難くなりつつある。それくらいは幸太郎ですら知っている。
「“真世”の星空って、どんな風に酷いの?」
フレイヤさんが聞いてきた。
「うん。人間が煙を出しすぎて空気が汚れちゃって、おかげで星がほとんど見えないんだ。でも山の上なんかに上ったらこんな風に見えることもあるけどね。」
「あぁ、それなら知ってるぞ。タイキオセンって言うんだろ?“夢の国”でもそんなところがあるぜ。確か“鉱山と工業の町ミレ”だ。」
そして、人間は同じ過ちを繰り返すものなのだということも。
「・・・へぇ、そんな所があるんだ。ここはこんなに綺麗なところなのになぁ。そういえば僕、“夢の国”のこと全然知らないなぁ。」
「そういうことなら僕に何でも聞いてください!」
ポポはやけに張り切って言った。
しかし、聞いてくださいといきなり言われても、すぐに思いつくことは珍しいものだ。さて何を聞いてよいのやら。幸太郎は歩き出しながら考えた。そういえば今までめまぐるしい世界の変化についていけず、気づくことが出来なかったが、よくよく考えてみるとポポたちは皆日本語を使っているにもかかわらず日本人の名前ではない。これはいったいどういうことなのか。
「ポポったら、まだそんなことも話してなかったの?」
フレイヤは呆れて言った。
「だ、だって・・・まだ“夢幻王”の話も終わってないのですよ?」
ポポは少し戸惑い、言い訳を探しながら言った。
「まぁ確かにそうね。普通ならそっちを優先して話すわよね。で?賢いフェアリー君はどう教えてあげるのかな?」
フレイヤは意地の悪い顔をする。
「むむむ・・・バカにしましたね〜!見事に分かりやすく教えてあげます!」
ポポが脹れるとフレイヤはさらに意地の悪い顔になった。
「本当にできるのかな〜?」
「フレイヤ、もうやめてやれ。」
ガノンが2人の仲裁に入っている間に瞳に教えてもらった。何でも空気中の夢が翻訳機の代わりをしているのだとか。つまりは3人の名前はそれぞれの種族の言葉という訳か。なるほどそれなら納得がいく。しかし、ポポは自分の活躍の場を奪われ、納得がいかないようだ。
「ついでに聞くけど皆の名前にはどんな意味があるの?」
「ポポは平和です。」
「フレイヤは太陽よ。」
「ガノンって名は、ただ単に実在したかも分からねぇ大昔の英雄にちなんだだけで、意味と言うほどのものはないが一応怪力って意味だ。」
「じゃあ僕のとほとんど同じだ。」
幸太郎は少し暗い顔をした。
「いい名前なんじゃねぇのか?それなのに何で落ち込むんだ?」
「でも負けた方だし・・・捩ってあるし・・・。」
「そ、そうか・・・。」
ガノンはうろたえながら目を逸らした。
他に何か聞くことと言えば・・・。
「今僕の仲間には人間にフェアリー、エルフ、ドアーフと4種族いるけど他にも種族があるの?」
「あぁ、この辺りに住んでるやつらはほとんど温厚な“妖精系”だが、“夢幻王”の住んでる“夢幻城”に近づくにつれて鳥人やリザードマン、狼男なんかの気性の荒い“獣人系”が多くなるぜ。」
「ちなみに人間ならどこにでもいるけど、やっぱり獣人系の多い所に住む人間は気性が荒い人が多いわよ。」
それなら“夢幻城”とやらに近くなってきたら注意しないといけないな。
「伝説上の人ではありますが、魚人と人魚、吸血鬼などもいるそうですよ。」
「ふ〜ん、ところで何で種族ごとに説明を入れてくれないの?」
「え?人間は皆知ってるんじゃないの?私、前に来たばかりの人間にあったけど、なぜかちゃんと知ってたわよ?」
なるほど、確かにおとぎ話にもよく出てくるし、分からない人は少ないか。
「知ってたけど、ちょっと気になっただけだよ。」
話をしている間にもう着いてしまった。本当にすぐそこなのだ。門には“商業の街チャト”とある。なるほどカトロの酒はここから来るのか。月明かりだけなのではっきりとは見えないが、何やら八百屋さんや肉屋さん、豆腐屋さんなんかと同じような造りの家が、太い道の縁に沿って所狭しと並んでいるように見えた。ポポに聞いてみると、今は夜なので人などほとんどいないが昼間は相当賑わうとのこと。明日は逸れないように気をつけなければ。
「ここ、私の行きつけの宿よ。ここにしましょ。」
誰も異論を上げず一発で決まった。翌朝、何が起こるとも知らずに・・・。




